第85頁目 四人寄っては悪足掻き?
「教えてくれルウィア、どんな魔法が得意なんだ。」
「え、えっと、少しの身体
「アロゥロは?」
「私は身体魔法と……土の魔法。」
「私は風が得意です。」
魔法にちゃんとした種類が無いのというの如何に不便なのか痛感する。水、氷、土、風と聞かされても何が出来て、何が出来ないのか具体的にはわからない。
「多分だけど、不意打ちくらいでしか勝ち目は無い。俺等はアイツに致命傷を与える事は出来ないはずだ。だから、ファイに希望を託して、全力で敵の脚を引っ張る。」
「それはわかりますが、具体的にはどうするのです?」
「うー……それを考えるんだよ!」
「脚を……落とし穴とか?」
アロゥロが古典的な案を提示する。土魔法を使って穴を掘るという事なんだろう。確かに出来はするだろうが、あの見るからに性能の良さそうなロボットが落とし穴に引っ掛かるだろうか……。よく考えたらアイツにどんな機能があるかすら知らないんだよな……。
「落とし穴に落ちてくれるならいいんだが……上を土で隠せたりするのか?」
「そこまでの制御はちょっと……。」
「それに穴を掘るって事は
「うぅ……それはそうかも。」
「隠すというのは良いアイデアだと思います。ね、ルウィアさん。」
「……え?」
マレフィムはルウィアの方を見ながら説明を続ける。ルウィアは話を急に振られたものの、今は死ぬか生きるかの問題という認識があるのかマレフィムの話を黙って聞くようだ。
「ルウィアさん。ここら一帯の地面に氷を張りましょう。」
「こ、氷ですか?」
「それで穴を隠すのか!」
「その通りです!」
「でも、私じゃそんなに大きい穴を掘れないかも!」
「アロゥロさんはソーゴさんと一緒に穴を掘って下さ――。」
『ギュイン! ギュイン! ギュイン!』
マレフィムが言葉を言い終える前にファイが爆ぜる大地を背景にしてこちらへ飛び出してくる。
「ファイ!」
少し安心した声で家族の名を呼ぶアロゥロ。しかし、危機は全くと言っていいほど去っていないのだ。俺達はファイを追う影を目で捉える。邪魔な木を脚で砕き、光線で焼き払う姿は化物と呼んでも遜色無い。俺達はあれをどうにかしないといけないのか……!
「ルウィア! アロゥロ! 俺の背中に乗れ!」
「うん!」
「は、はい……!」
二人は返事をして俺の背に跨る。人をマトモに乗せて走るのはマレフィム以外初めてだが、とにかく俊敏に動ける俺が身体強化を使って逃げ回った方がいいだろう。
走るぞ!
「アメリ! 死ぬなよ!」
「勿論です! 私はソーゴさん達が攻撃が当たらないようサポートします! アロゥロさんやルウィアさんはソーゴさんの魔力を使って落とし穴を宜しくお願い致します!」
「俺の魔力!?」
ミィの魔力を受け入れた時みたいな感じか? そんな事簡単に出来るのか?
「えぇ!? わ、私、『アストラル同調』なんてした事ないよ!」
「ぼ、僕もです!」
「出来なきゃどうしようもありません! 命がある内に出来るようになって下さい!」
「そ、そんな無茶苦茶な!」
弱音を吐くルウィア。しかし、アロゥロは口を真一文字に締めて何かを心に決めた様に頷く。
「やるっきゃないよね……!」
「えぇっ!?」
アロゥロと俺等じゃ少しこの戦いの意味が異なる。俺等にとっては生き残る為の戦い。しかし、彼女にとっては大切な家族を守る為の戦いなのだ。
「ルウィア、お願い。協力して。ファイは本当に大事な家族なの……!」
「アロゥロさん…………わ、わかりました。どれほどお役に立てるんむっ……!」
ルウィアの口を指一本で塞ぐアロゥロ。
「こら。アロゥロさんじゃないでしょ? それと、卑屈な事は言わない。……ありがとう。お互い、生き残ろうね。」
「は、はい。」
「ソーゴさん……いいよね?」
「あぁ。いつでもいいぜ。」
そう応えた瞬間だった。俺の中に何かが入り込んでくる感覚がし始める。昔ならただの魔力だと思っていたが、今ならそれが違うとわか理解る。これは間違いなくアロゥロのアストラルだろう。速度を緩めたらだめだ。危険を察知しながら……これを、抵抗せず、受け入れる……同調する……。
「……うっ……ッく……! ソーゴ、さん……! 抵抗しないで……!」
「え? わ、わりぃ! うおっ!?」
「きゃっ!」
「うわあっ!」
こっちに飛んでくる岩を寸前でなんとか避ける。こうしている間にもファイと敵のロボットは光線を撃ち合い、時に組み合っているのだ。いつ何かの間違いでファイが壊されてしまうかわからない。急がなくては!
「も、もう一回やるよ!」
「おう!」
受け入れろ。受け入れろ。受け入れろ。受け入れろ……! 抵抗すべきはアロゥロでもルウィアでもない! アイツだ!
「い、いけそう! ぅぅぅぅああああああああ!!!!!!!」
気合の声と共に俺の内側の何かが握られている感覚がする。そして、周りの地面が盛り上がったかと思えば、噴火したかの様に土が噴き出て行く。
「す、凄いです! こんな
「噴き出た土は私が!」
「あ、アメリさん! お願い! 私の可使量のせいで流石に丸ごとは無理だったけど、これだけの魔力が使えたら……!」
連携プレイよろしく、マレフィムが噴き出た土を豪風で遠くに吹き飛ばしていく。一瞬その土をあのロボットにぶつけたらと思ったが、それが原因で標的がこちらに向いたら落とし穴どころではない。このまま作戦を続けよう。
「ねぇ! これくらいの穴があれば大丈夫かな!?」
「あぁ! 次はルウィアだ! 俺が大量の水を顕現させるからどうにか凍らしてくれ!」
「は、はい!!」
「うおおおおおお!?」
真横を掠める光球がすぐ隣の地面を派手に吹き飛ばす。少しずれていたら三人纏めて蒸発していたかもしれない……。
「あ、危ねえ、危ねえ……。」
「ソーゴさん!」
「そ、ソーゴさん! 前!」
「んぁ?」
ルウィア達の言葉で吹き飛んだ地面から前に顔を向けると真っ白い景色……いや、これは光球……!? 今からじゃ、もう避けようが――。
「ゔぁっ!?」
「きゃあああっ!?」
「わああああああああ!?」
覚悟する間も無き刹那、俺の身体を強い力が押し退ける。鼻先と指先に高温を感じながら熱気が通り過ぎ、爆炎を上げる。
「…………ぁ?」
「え? い、生きてる?」
「へぁぁ……。」
俺達は吹き飛び、地面を転がった事すら気付かず自分の身体を確認していた。
「か、間一髪でした……。」
そんな俺達に掛かる声。
「……あ、アメリ! 助けてくれたのか!?」
「えぇ! サポートをすると言ったでしょう! それより、早く立ち上がって下さい! 私だって魔力は温存して置きたいのです!」
「お、おう!」
「ありがとう! アメリさん!」
「た、助かりましたぁ……。」
急いで立ち上がった俺達は、再びルウィアとアロゥロを背に乗せて走り出す。ファイ達の戦いを見る限り、あの光球は流れ弾だ。まだ、どうにか出来る!
「ルウィア! 大丈夫か?」
「は、はい……なんとか……。」
「悪いな。俺の為にこんな事に巻き込んで。」
「ソーゴさんの為じゃないですよ。じ、自分と、皆の為です……!」
「そうかよ……! それならいつでも来い! 俺はお前を信じる!」
「はい!」
水! 大量の! 水!!!
「うおおおおお!!!!!!!!!!」
自分の三六〇度満遍なく水を放射するんだ! 勢いをつけろ! 穴に溜めたら意味がねえ!
「す、凄い水の量!」
「い、いきます!」
掛け声と共に今俺が顕現させた水が凍っていく。ルウィアが俺の魔力で魔法を使っているのだ。
「こんな一瞬で……!? す、凄いですよ! ソーゴさん!」
「俺の力だけじゃねえだろ! もっと凍らせろ! 穴の表面を塞ぐんだ! でも出てすぐは凍らせるなよ! 動けなくなっちまうからな!」
「ルウィア! 頑張って!」
「は、はい! うううッ……!!」
ルウィアはそう言うと姿を大きく鮮やかな蛙に戻す。確かにそっちの方がいいか。バラけた方が万が一って事もある。
「くっ! 俺まで凍っちまう!」
魔力は筋力と同じ。つまり魔力が上がっても制御する技術は別なのだ。となると、幾ら俺に気を使ったって不慣れな規模の魔法じゃ限界がある。俺を中心に波紋の様に凍結していく水が地面を覆っていき、時折刺すような冷気が身体を襲うのだ。少し辛いが、この調子なら……!
「もっと! もっとだ!!」
「は、はい!」
既に張ってある氷の上に水を顕現して更にそれを凍結。流れ弾が氷塊を消し飛ばした傍からそこを塞ぐように氷を張る。それを繰り返し、気付けばここは草が生えていたかもわからないくらい地面が氷で覆われていた。
「こんなもんか!?」
「た、多分これくらいでいいかと思います! 厚くしすぎたら氷が割れないかもしれません!」
「だぬぁぁああああああああっ!!!!」
「きゃあああああ!!!!」
「ああああああああああ!!!!」
眼の前の氷が地面ごと吹き飛ばされる。その衝撃で大きく吹き飛ばされる俺達。全身を激しく打ち付けるような痛みが襲う。
「ぐッ……いってぇ……。」
目がチカチカする。そう何度も助けては貰えないか…………皆は!?
「うぅ……何が……。」
「い、生きてる……?」
「ルウィア、アロゥロ、大丈夫――。」
『ギャイン、ギュイン、ギュイン。』
後ろから聞こえる不吉な音。俺は嫌な考えを否定すべく、可能な限りの速度で背後を視認した。……そう、八つの光をこちらに向けて奴がこちらに近づいているのだ。そこに横からファイが光球を撃ち込む。しかし、奴はファイの方を見向きもせず高く跳躍し、こちらへ、光球を、放った!
「うおおおおおお!!!!!」
走れ! 走れ! 走れ!
翼を焦がす様な熱が凄まじい速度で向かってきている。あの方向。狙いは間違いなく俺だ。奴はこの凍った地面を見てこちらに対する警戒度を引き上げてきたのだ。俺はルウィアやアロゥロから距離をとって氷の大地を駆けていく。爪を立たせ、脚に力を込めるんだ! 一度でも転んだらそれは死と同義だ!
背後で爆ぜる氷。割れたガラスの欠片みたいな氷が幾つも俺の身体を突き刺す。今ばかりはこの重たい石の鱗に感謝したい。
「落とし穴! 落とし穴は何処だ!?」
「こっちです!」
「アメリ!?」
「ここですよ!」
「わかった!」
マレフィムが自分の真下を指す様なジェスチャーをしている。要するにあそこがそうなのだ。そう言えば俺に向けた砲撃が止んでいる。……まさか!? と後ろを見るがアロゥロとルウィアは立ち上がって敵から距離を取ろうと歩いている様だ。奴はまたファイの方を向いて光球の撃ち合いをしている。助かるが、あのままではこちらに近づいてはこないだろう。
「後はこちらに誘き寄せるだけですか……。しかし、どうしましょう……。」
俺はマレフィムの言葉に応えず、魔法を使おうと集中を始める。今ファイは俺から見て敵の奥にいる。つまり、位置的には挟み撃ちの状態なのだ。ファイは俺達に気を使って角度を付けて光球を撃ち込んでいるが、敵も遠距離攻撃である光球を警戒して一定以上ファイに近付こうとしていない。
やるなら今だ。
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