第17話
先生がいる場所と聞いて最初に思い浮かぶのは、やはり職員室だろう。
さすがの御伽先輩も一般的な思考は持ち合わせていたらしく、僕たちは職員室前の廊下に立っていた。
よかった。これで片っ端からクラブに顔を出していって顧問を奪うとかいう非常識な行動に付き合わされるのだったら、胃薬が常備薬になるところだった。
周囲の様子はというと、放課後になってからある程度時間も経っているせいか、人の気もまばらで、まったりとした空気が漂っている。これなら落ち着いて見ていられそうだ。
「それじゃあ、入りましょうか」
御伽先輩はそう言うと職員室の扉を開き、中へと足を踏み入れる。
迷いない御伽先輩の行動に、僕は慌てて後を追った。個人的に職員室っていうのはどうも苦手で、入るのにためらってしまうのだけど、先輩はそういうのはないのだろうか。とにかく、遅れて廊下に取り残されるのは避けたかった。
「しっ、失礼しますっ!」
一応、声を掛けて一礼をする。机でパソコンを開きながら作業してる先生たちの視線が一瞬ではあるけどこちらに向くのが肌でわかった。ダメだ、やっぱり慣れない。
御伽先輩は……あっ、あそこか。
僕は急ぎ足で御伽先輩の後ろにつくように職員室内を横切る。
職員室は思ったより人が少なくて、机上にパソコンだけが置かれているだけの空席も意外と多かった。きっとクラブだとか補習だとかで席を外しているのだろうけど、そうなると顧問になってくれる確率もそう高くはなさそうだ。
それに、御伽先輩は一体誰に声を掛けようというのだろう。正直、他学年の先生に至っては僕はほとんど面識もないし、名前もまだうろ覚え状態だ。
ほんの少し身体を横にずらして、先生の顔をうかがってみる。うわっ、結構厳しそうな顔つき。太い眉と四角いメガネに、白髪交じりの髪って、黙っていると結構威圧感がある。
もしかして、この先生が顧問の候補? いや、なんか実際顧問になってもらっても、この先生が部室にいたら逆に色々やりづらい気がするんだけど。いや、御伽先輩が好き勝手できないようになるなら、その方がいいのか?
どうなるのが正解なのかわけがわかんなくなってくる。
その時、美紀先輩が背後から僕の肩をぽんぽんと軽く叩き、ささやくように教えてくれた。
「この人が教頭先生。顔は怖いけど、話は聞いてくれるいい先生よ」
教頭先生って、言われてみれば年齢もそうだし、雰囲気もそれっぽい。実際顔を合わせる機会はそうないだろうけど、覚えておかないと。
やっぱり、入学式くらいは無理して出ておけばよかったかな……今更遅いけど。
「――というわけで、残念ながら顧問になれるような人はいないな。今年は新任教師も入ってないし」
「そうですか、わかりました。ちなみに教頭先生は顧問なんてどうです?」
「はっはっは。わしは今やってるカルタ部で手一杯だよ。誘いはありがたいがね」
……あれ、なんだか御伽先輩と教頭先生が談笑してるんですけど?
いくら話がわかるとはいえ、今まで御伽先輩がやってきた行動を見ると、ブラックリストに載っててもおかしくないと思うんだけど、どういうことなんだろう。
「御伽さんは成績が学年トップクラスだから、先生たちからの評価はいいのよ」
美紀先輩が背後から補足してくれて納得した。成績がいいなら教頭先生も顔が緩むのは当然だろう。しかも美少女だし。あと、美紀先輩の言葉がまるで心を読んでるかのように的確なのがちょっと怖いけど、気のせいだな、うん。
「そういえば、生徒指導の
「梅宮君かい? 彼なら忘れ物をしたとか言ってたから、生徒指導室にでもいるんじゃないかな」
「そうでしたか、ありがとうございます。では、失礼します」
御伽先輩はそう言って一礼をすると、すぐに身を返して歩き始めた。
おかげで、御伽先輩という壁を失った僕は、運の悪いことに僕は教頭先生と目が合ってしまう。とりあえず、あいさつくらいはしておいた方がいいだろう。
「ど、どうも……」
緊張のせいか、微妙なあいさつになってしまったが、後の祭りだ。どうか礼儀がなってないだとか怒られませんように。
だが、教頭先生は僕の顔をしげしげと見ると、その厳めしい顔を緩め、うなずいた。
「うむ。君も藤本君を見習って、文武両道に努めるんだよ」
「……はい、失礼します」
軽く頭を下げて、逃げるようにその場を後にする。御伽先輩を見習ってとか言ってたけど、占い同好会での奇行を知っている身としては、素直にうなずけなかった。
「次は、生徒指導室に?」
職員室前の廊下へ戻ってきたところで、美紀先輩が尋ねる。
「えぇ、去年はダメだったけど、今年はいける気がするの」
自信満々な御伽先輩。その笑みが僕の不安を増長させる。
そして、僕たちは御伽先輩の言うがままに生徒指導室へ向かうわけなんだけど……。
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