第6話
クラブ活動中の依頼者を無理やり呼び止めて子犬の詳細を尋ねるという暴挙を経て、僕たち占い同好会は近隣の住宅地へと来ていた。
放課後ということもあり、制服姿でもそんなに目立つことはなかったけど、やはり立ち止まっていると周囲の目が気になってくる。
「
「えぇ、確かそのはずよ」
相変わらずやる気がみなぎっている御伽先輩。
それに対して紬先輩はもう飽きかけているらしく、スマホ片手に手抜きモードだ。僕もこれくらい気を抜いて付き合った方が精神衛生的にもいいのかもしれない。できるかどうかは別として。
「それじゃあ、捜索しましょうか」
そう言うなり両手を高く掲げる御伽先輩。もちろん顔も空へと向けて。
いつもの神の声を聞くポーズだった。どうしてこのタイミング、この場所でそれをするのだろう。部室でやっておけばよかったのではないだろうか。
まるで羞恥という感情はないのかのような御伽先輩の行動に、戸惑わずにはいられない。もしかしてこの人は好奇心以外の感情をどこかに落としてしまったのではないだろうか。
似たようなことをやっているのも、小学生だとかラジオ体操をしている最中の年配者くらいだろう。
正直、今すぐにでも離れたい。仲間だとは思われたくない。
せめてもっと人通りのなさそうな場所でやるように、誰か注意してくれないだろうか。
――って、紬先輩、さりげなく距離取ってるし。それに美紀先輩も!
雫は……あ、近くにいた。でもすごい落ち込んだ顔してる。やっぱり嫌みたいだ。
大丈夫、まだ手遅れじゃない。今からでも離れれば同類とは見られることも――。
「あの人たち何やってるの?」
「見ちゃダメよ。ほら、お買い物行こうね~」
何故こういう時に間が悪く親子が通りかかるんだろう。もう終わりだ。この辺りで噂になっちゃうのは避けられない。しかも制服だから学校まで丸わかりというおまけ付きで。
というか、占い同好会なのにやってることは占いじゃないよね。御伽先輩がやってることも、つまるところ神頼みだよね。これ、本当に大丈夫なの? 何か聞こえたりするの?
「――来たわ。子犬はこの周囲にいるはずよ!」
……どうやら聞こえたらしい。本当にペースが狂う。
もう活動するのは反対しないから、せめて別のチームにして欲しい。できることなら美紀先輩みたいなうるさくない人との一緒を希望で。
……なんて話、あるわけないよな。
よし、頭を切り替えよう。これから行うのは子犬の捜索活動だ。見つかるかどうかはわからないけど、最善は尽そう。そうでないと、依頼をしてくれた畑中さんに申し訳ない。
僕が一人気合いを入れ直したところで、御伽先輩がこちらを向いて声高に呼びかける。
「よし、それじゃあ捜索開始よ。見つけたら私に教えてね」
その言葉を最後に、御伽先輩は近くの路地へと消えていった。
あれ、御伽先輩って着いてくるように言ってたっけ?
その場に取り残された僕たち。
僕の認識が合っているなら、これは自由行動ということでいいんだよね?
しかし、それを確認してくれる人はもういない。遠くでそれらしき声が聞こえるが、追いつくのは無理そうだ。しかも、その声もどんどん遠ざかっている。
それって、もうこの辺りの捜索じゃなくなってるんじゃないだろうか。
御伽先輩が満足するのなら、それでもいいか。
さて、これからどうするかだけど……。
途端に静かになって、時間の流れがより長く感じられる。世界って、こんなに穏やかで平和だったんだと改めて実感させられる。
「……あの、そろそろ探しませんか?」
突然声を掛けられ、束の間の自由を味わっている僕は現実に引き戻される。こんな時に話しかけてくるなんて、一体誰なのだろう。
声のした方へと顔を向けるが、そこには誰もいない。見えるのはのどかな青空だ。
「どこを向いてるんですか。こっちです、視線をもっと下!」
――下?
言われるがまま視線を下げると、そこには上目遣いで見つめてくる雫がいた。
ちょっと怒っているように見えるのは、やっぱり僕がすぐに気づかなかったせいだろう。
「あぁ、すいません」
そういえば雫もいたんだっけ。御伽先輩の背が結構あるから、つい視線が上向いてしまう。これからは気を付けないと。
それにしても、雫は学外でも女子の制服姿なのか。着替えるような時間もなかったし当然か。特別恥ずかしがっている様子もない辺り、学外での活動も慣れているのだろう。
――本当に男なんだよな?
実は女の子で、僕をからかう為に男だと言い張ってるだけって事はないよね?
だからといって、男のソレを確認させてくださいと言うわけにもいかないし……うん、この件は一旦棚に上げておこう。
「それで、石井クンはどうするつもりなの?」
「あ、うん……そうですね」
危ない、ついタメ口になってしまうところだった。
雫が年上に見えない事もあって、油断してるとつい口が滑ってしまいそうになる。まぁ、怒ったところで可愛らしいだけで、別に怖さとかは感じないだろうけど。
ただ、これがクセになってしまうと、他の先輩にタメ口で話してしまった時が悲惨だし、ここは気を付けよう。このクラブでは、僕が一番年下なのだから。
「僕はできることなら紬先輩たちと――」
言葉遣いのことがちょっと気まずかったのもあって、僕は視線を女性陣の方へと逃がす。
やっぱり、初の活動ということもあるし、一番頼りになる人と一緒に居たい。うん、至って自然な思考だ。一緒に歩いてちょっと優越感に浸ってみたいっていうのもないわけじゃないけど。
「あれ?」
おかしい。さっきまで居たはずの紬先輩の姿がない。美紀先輩も居ない。
立っているのはカーブミラーだけ。もしかして、僕たちを置いて先に移動してしまったんだろうか。
このままじゃ何もしてないのは僕たちだけじゃないか。こんなところを御伽先輩に見つかったら色々うるさそうだし、せめてこの場を動かないと。
「まぁ、男同士楽しくやろうよ。さぁ、私たちも行こうか」
「……はい、よろしくお願いします」
僕は気持ちばかり頭を下げる。きっと雫が残っていたのは僕が困った時に助けに入るためなんだろう。他の先輩に頼まれたのか、それとも自主的にやってくれているのかはわからないけど、正直ありがたい。
「じゃあ、まずはこっちの方から探そうか」
そう言って雫が先に歩き始める。その後に続く形で僕も足を進めた。
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