第2話 全ての理由が浅いんだよ

「ちょ、お前マジふざけんなよ」


「なんだって?」


聞こえてねえ。ダメだ。主人公を批判する奴がいない。多分そういう世界物語なんだろう。


「シェリルと申します。今日より勇者様のお世話を担当致します」


出たよメイド。多分コイツ主人公に惚れるよ。もう分かってるもの。



俺が昨日の夜寝るまでに導き出した結論は3つ。


・俺の幼馴染は「主人公」である

何の疑う余地もない。御都合主義ストーリーの中心にいる勇者だ。勇者の称号とそれに見合った力がもとから備わっている、らしい。実際その力を見たわけではないが、本人が夜中に「この力が怖いんだ」とか言い出したから本当なんだろう。

白々しいんだよ、取ってつけたような無双系じゃないアピールは要らない。


・俺にも取り柄がある。

取り柄というのは微妙なところだが、「主人公に届かない範囲の力量であれば自由に振る舞える」ようだ。ただこれに関しては想像の域を出ていないのも事実だが。


そして三つ目だ。


「シェ、シェリル……」


今、主人公の傍らには胸を貫かれ恐らく既に事切れているだろうシェリルがいる。

主人公とシェリルの前には黒いマントを羽織った男。仮面を付け、手にはナイフ。これがシェリルの息の根を止めたのだろう。

そう、これが昨日の夜気付き、そしてもうどうしようもないことにも気付いてしまった三つ目の事実。


「……シェリルは死ぬ、のか」


初日からやけに仲が良いことと、伏線になり得ない会話ばかりしていることで確信した。彼女は「序盤で死んで主人公の心に楔をうつ役」だ。薄っぺらいキャラ付けだ、糞食らえ。シェリルは何も悪いことをしていない。この「主人公」が来るまではシェリルも懸命に生き、懸命に働き、誰かのために、そして自分のために今までを過ごしてきたはずだ。

それが、こんなたった一人の「勇者」のために。

引き立て役として。スパイスとして。初めての「敵」を主人公に与えるため、戦う理由を与えるために。

たったそれだけの理由でシェリルは死んだのだろう。

もう怒る気にもなれない。

それに、「主人公」が「勇者」をやめたところでこの物語は終わらない。この糞みたいな設定とキャラとシナリオの物語でも、終わらないのだ。

真っ先に戦う理由を作るような物語、破綻しているとしか言いようがない。


なら終わりはなんだ。


今こうして俺が俺の意思を持って生きている以上、終わりを決めるのは俺だ。

例え脇役、引き立て役だって構わない。俺の人生だ。自分でけりをつけてやる。

そのためならば全て、俺が捻じ曲げてやる。

「王道」を「覇道」に。この主人公が王道を選ぶならば、俺は隣で覇道を進もう。愛されなくとも構わない。ハーレムにチート?そんなものは要らない。

欲しいのは「自分」ただ一つ!

隷属するだけの役回りは死んでも御免だ!


「シェリル……ううっ……」


「おい、勇者サマ。あいつを倒さなくていいのか?」


「うう……」


「なら仕方ない。俺がやる」


「ま、待て!まだ僕らは何も力が……!」


そう。力はない。ここで俺が前に出れば、それは「主人公を守って死ぬ奴二号」となるだけだ。「戦う理由の二個目」と言ってもいい。


だが違う。捻じ曲げるんだ。


俺は主人公に宣言する。


「俺は今までの自分を捨てる。それを代償にしよう。軽蔑してくれ、いくらでも詰ってくれ。いくらでも幻滅してくれて構わない。だが俺は」


マントの男は余裕のある態度だ。ナイフを弄び、人を殺せた喜びに満ちた声を出す。

なるほど。噛ませ犬。

ならば。


「捻じ曲げる」


俺の人格キャラクターが書き換えられるのが分かる。今までの与えられた役回り、ツッコミ役ではない。何でも知ってる相談役ではない。ここで今俺は、「何者でもなくなった」のだ。

多分この一瞬だけだ。次のイベントが起きる頃には元に戻って加筆修正されているだろう。でもこの一瞬だけでいい。

今、俺の人格キャラクターが固まっていない今なら、この噛ませ犬を……


「殺せる!」


詰め寄り、ナイフを蹴り落とす。

蹴った反動を生かし壁の美術品に手を掛ける。いくら模造品でも、尖っていれば人には刺さる。

そのまま壁にかかっていたジャベリンをマントの男に向かって突き出す。

ずぶり、と刺さる音にしてはなんとも言い難い二流な音を出し、男が崩れる。


こうして、俺と勇者サマは助かった。

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一緒に転生した奴が痛い主人公なんですが 煽詐欺 @Heron

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