傘、持ってる?
ソルア
傘、持ってる?
「今日は傘、持ってる?」
ニュースを観ていれば今日は誰だって傘を持って登校しただろう。
僕だってちゃんと、朝のニュースはチェックしていたから、今日の天気が大荒れの予報だって事を知っている。
「持ってきたよ、持ってきた。帰りまでに盗まれてなければ、今日は君の傘にお邪魔しなくても大丈夫さ」
「そっか。そうだよね」
彼女は少し照れながら、笑う。
雨が多い。
雨が多い季節が、僕らの街にはある。
だから大体の人はこの季節、傘を持って登校するんだ。
僕みたいな変わったやつを除いて。
「傘、あった?」
「今日は雨の予報だから、普通持ってくるだろ、傘。誰だ……、僕の傘を借りて行ったのは」
よくある話。僕はある雨の日に傘を盗まれた。
特に学校指定の紺色の傘は他と見分けが付きづらいから、入れ替わったり、盗まれたりなんて話はよく聞く。
「困ったね」
彼女は水色の傘を雨空に広げながら言った。
「駅まで入ってく?」
ちょっと制服の肩やカバンが濡れるけど、そんな事は気にしない。
傘がなければ彼女と並んで帰ることができると気付いてしまい、数日間は「傘をまだ買ってない」と言って持ってこなかった日がある。
けど、今日はダメだ。今日はお互い傘がなければタダでは済まない、と予備に買っておいた傘をついに出した。
「あれ、傘がない……」
それは数日前まで僕が口にしていた言葉だ。
彼女の水色の傘が昇降口のどこを探しても見つからない。あんなに目立つ傘を盗むだなんて、度胸のある人間がいたもんだ。
「傘、持ってる?」
「あるよ」
今日は僕の傘がちゃんとある。盗まれてもいない。
「……駅まで入ってく?」
「うん、よろしく」
結局二人でずぶ濡れになって帰った大荒れの天気から数日、水色の傘はどこかで見つかったって言っていたけれど。
「本当はわざと家に置いてきたんだよ」って聞かせてくれたのは、僕らが一緒になった後の話。
傘、持ってる? ソルア @sorua
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