都へ
アブラビルの町に入ると、また私たちは見たくないものを目にすることになった。
町の中心にある広場には、また三人の兵士が吊されている。ギュッヒン侯の西方での施策は、地元の人々からかなりの恨みを買っていたようだ。このことがわかっていれば、別の策を取ることもできたはずだが、いまさらいっても仕方ない。
「国王陛下万歳! ローハン・ザロフ将軍万歳!」
私は大声で、歓声を上げる人々に語りかける。
「私は将軍でもないし、軍団長でもない。将軍万歳はやめてくれ!」
歓声が
「ローハン・ザロフ隊長万歳! 国王陛下万歳! ローハン・ザロフ隊長万歳!」
沈黙を破るように、イングが叫ぶ。町の人々は、それを合図に再び歓声を上げはじめた。
「国王陛下万歳! ローハン・ザロフ隊長万歳!」
イングはおどけたような顔をしている。
「親父、これでいいんだよな。だけど、なんで将軍じゃだめなんだ」
「もし、戦争が本当に終わったのであれば、これからは別の戦いがはじまることになる。論功行賞というやつだな。西方にくるまで、いつ死んでもいいと思っていた。だが、いまは死にたくなくなった。お前たちを士官に推薦してやらなければならないしな」
本当はそれだけではない。隣を行く鬼角族の女傑を自分のものにしたいのだ。心から、自分を愛してもらいたい。私を裏切らない、本当の愛が欲しいのだ。こんなことを口にすれば、気持ち悪いオッサンと思われるかもしれない。そのことを口にしないだけの分別はある。
「ふーん、死にたくないのは別の理由じゃねえのかな」
ニヤニヤしているイングは無視してはなしを続ける。
「
「そんなもんなのか」
イングは納得できない顔をしていた。もちろん、私の考えすぎなのかもしれない。ギュッヒン侯は紛れもない軍人だった。その行動原理は軍人そのもので、戦場での働きを公正に評価してもらえることを誰もが信じていた。だが、タルカ将軍は違う。優れた軍人であるとともに狡猾な政治家である、というのが私の印象だ。自分の役に立たなければ、冷酷に切り捨てることができる男にみえる。
人々の歓喜の声の中、私たちは待ちの権力者らしき人物のところへ連れていかれることになった。
英雄である私たちは、都へ戻る道すがらどこへいっても歓待された。イングも各地で女性にいい寄られ、毎夜どこかへ姿を消していた。
ギュッヒン侯は私たちに懸賞金をかけており、そのためか、西方の都市において私たちを知らない者はいない。悪名が名声に転換されたのだ。
タルカ将軍には、キンネク族とナユーム族への羊の支払いと、ツベヒやイングたちの任官を依頼しなければならない。自分のことはどうでもよかったが、西方に残る軍務があれば軍に残ってもいい。都で兵学校の教官をするくらいなら、退役してルビアレナ村に暮らすという方法もある。ルビアレナ村への物資輸送も忘れてはならないので、そのことも依頼しよう。
できることを最後までしっかりとやり遂げる。次はタルカ将軍との折衝という戦いがはじまることになるのだ。
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