戦友との別れ
通常は戦闘の邪魔になる天幕や馬車をどこかに置いて、騎兵と兵士だけで作戦をおこなうのだが、あまりに敵の拠点から近く、今回は
少しずつイブラントの町に近づいていく。攻撃するわけではないので、弓の届かない距離を取ることが一番肝要だ。薄暮の中で、徐々にイブラントの町がその姿を表す。なるほど、偵察部隊と出会わなかったのは、こういうことか。
深い堀に高い柵。出入り口には
「隊長、鐘の音です。あそこに見える
ツベヒの指さす方を見ると、かなり高い物見櫓が見える。周囲を
「計画通り敵に気づかれた。このまま進路を西に向けて進むんだ。まずは荷物を運んでいる騎兵と馬車、戦闘できる騎兵は一番最後だ」
十二分に距離は離れており、敵の弓兵の危険もない。見張り台の人間は、私たちがなにをしに来たかよくわからないだろうが、異形の騎兵が百六十騎もいるのを見れば、警告の鐘を鳴らすしかないだろう。
「こちらの敵は騎兵だけだ。敵がどう出るか、注意しておいてくれ」
イブラントの町からは警報の鐘の音が鳴り響いているが、敵の兵士が出てくる様子はない。この騎兵戦力に対抗するためには歩兵なら一個大隊が必要になるし、全部隊の半数を出撃させることを躊躇するのは当然だ。頭と手足を甲羅の中に隠しておけば安全な亀が、わざわざ手足を伸ばして歩く必要があるのだろうか。
「このまま、もう少しだけ南西に進む。そこで、ジンベジはライドスを連れて国王軍のところへ向かってくれ。これはタルカ将軍への手紙だ。無理に戦わなくていい。ライドスと帳簿を、タルカ将軍へ絶対に渡すんだぞ」
ジンベジは小さくうなずいた。現在の配下の中では最古参の兵士であり、鬼角族との訓練で槍の扱いにかけては名人の域に達している頼りになる男だ。だが、戦いがまるでダメなライドスの護衛として、ジンベジ以上の人物はいなかった。シルヴィオとイングは馬術が全くで、騎兵に追撃されると逃げることも難しいだろう。ツベヒは指揮官として優秀だが、個人の武勇はそれほどでもない。まるで片翼をもがれるようではあるが、ジンベジ以外に適任者はいないのだ。
一刻ほどゆるゆると進むが、敵は陣地から出てこなかった。そろそろ潮時だろう。
「では、ジンベジ君とライドス君は、ここから国王派の町へ向かってくれ。武運と幸運を祈る」
私たちの騎兵がいなければ、敵は少ないながらも騎兵部隊で伝令を襲ったかも知れない。しかし、この規模の騎兵部隊が町の近くに集結するとは夢にも思っていなかったはずだ。イブラントの町にいる駐屯部隊は、陣地に立てこもることで安全を選んだことになる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます