袋のネズミ
考えなければならないことは、いくらでもあるが、まずは移動だ。フェイルの町からは誰も逃げ出していないはずだが、なにかの命令や補給のための兵士がこの町を訪れることで、私たちの存在が露見する恐れは十二分にある。まずは速やかに移動し、ルスラトガを攻撃することで、私たちはギュッヒン侯に対して正々堂々と名乗りを上げなければならない。そして、神出鬼没の私たちを討伐するために、騎兵を戦線の後方へ送りこませるのだ。
出発前に、挨拶の為に村長宅へ向かうことにする。町長のハズブソンは、私たちが出立の準備をしているのを見ていたようで、玄関から表に出てこちらを見ていた。
「町長さん、それでは出発します。申し訳ありませんが、ケガ人の世話を頼みます。私は嘘をいうことも、誰かを脅すことも好きではありませんので、本当のことだけを伝えます」
町長はゴクリと唾を飲み込む。
「鬼角族は、自分たちを助けてくれた相手には感謝と信頼を捧げますが、仇名すものには容赦しません。ケガ人に万一のことがあれば、そのことを思い知ることになるでしょう。ただ人を助けるだけです。いざとなれば、ローハン・ザロフに脅されたといってもらっても構いません」
そういい残すと、私たちはフェイルの町を出発した。
町と町の中間くらいに来たところで、捕虜のガスパともう一人の兵士を解き放った。フェイルの町に戻ると、後続の鬼角族に殺されるかもしれないと告げて。
ここからは東北東に真っすぐ進み、町や村には立ち寄ることはない。ほんの少し速度をあげ、おおよそ三日で城塞都市ルスラトガに到着することになる。現状ではあまりにも無策なので、道中、ただ一人ルスラトガに行ったことのあるライドスを質問攻めにした。
「ライドス君、その南門にある
「そうですね、それぞれの櫓に二人、いや三人くらいでしょうか」
「シルヴィオ君の弓で、その兵士を排除できるか」
前をいくシルヴィオが、ちらりとこちらを振り返った。
「当たり前ですが、外から矢で射られないように、身を隠すための大楯の様な分厚い板で兵隊は守られていますよ」
「火矢ではどうだろうか。火矢で櫓を燃え上がらせれば――」
「大楯には、鋼の板が貼ってありますから、数本の火矢では無理です」
よく考えれば当たり前のことだ。遠くから弓で射られるような櫓では戦争の時に役に立たない。
「櫓にはどうやってのぼるんだ。
「梯子は見当たりませんでしたから、上から縄梯子でも下すのではないでしょうか」
つまり、兵士の交代の時以外、こちらから櫓に入り込むこともできないことになる。
「一日に何度、櫓の兵士は交代するんだ」
ライドスは、少し困ったような顔をした。
「私も、櫓をずっと見張っていたわけではないので、そこまではわかりません」
「櫓に屋根はあったか」
しばらく考えてから、ライドスはいった。
「ありました。下からははっきり見えませんでしたが、
曲射で上から攻撃しても無理だということだ。
「最後に、左右の櫓はつながっているのかな」
「いいえ、つながっていません。それぞれ完全に独立しています」
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