疑問
ルビアレナ村に立ち寄ると、黒鼻族が暮らしていることが知られてしまう。
真っすぐにキンネク族の秋営地に向かうと到着まで十二日は必要だ。しかし、装備の関係で私たちは往復分の食料しか持ってきておらず、大太刀の回収とツベヒたちと合流するためにルビアレナ村に立ち寄る必要があった。
正直なところ、ナユーム族に支援してもらえるとしても、これほど早く兵士を派遣してもらえるとは思っていなかったのだ。自分の見通しの甘さと、遊牧民がいかに即応が高いかという事実に驚かされたが、こうなってはどうしようもない。
「ハーラントさん、黒鼻族の羊たちをナユーム族に見られたくない。だから、ルビアレナ村に戻るわけにはいかないのだが、直接秋営地に向かうだけの食料が不足しているんだ。十名の重騎兵と
若き族長は、少しなにかを考えているような表情だったが、事も無げにいった。
「だったら、エナルクスに頼めばいいじゃないか。百人も騎兵がいるんだ。何人かなら一緒に眠らせてもらえるだろう」
敵の天幕に泊まる、ということの危険性について考えるが、意外と悪くないかもしれない。
威嚇の意味でつけていた重騎兵の胸甲や兜も、行軍が決まってからは脱いでいる。脱いでいるというより、着なれない鎧を着たまま長距離移動ができないのだ。もし、私たちがかなりの手練れだとしても、二十人に満たない兵士で百名の鬼角族に勝つことはできないだろう。エナリクスという指揮官がその気になれば、いつでも私たちを全滅させることができるはずだ。つまり、どのみち相手に私たちの命が委ねられているのであれば、兵の寡多は問題ではない。
「それでいきましょう。こちらは私とイングが残ります。あなたと二人の戦士で合計五人。理由は――そうですね、私たちの騎兵部隊と合流するためということでお願いします。別れるのは四日ほど過ぎてからです」
ハーラントはうなずくと、馬をエナリクスの方へ向けた。
長身の指揮官と何事かをしばらくはなした後、ハーラントが戻ってくる。
「おい、ローハン。族長の天幕で客人としてもてなしてくれるらしいぞ」
懸念が一つ解消したので、その日の行軍は心も体も軽かった。
日が暮れると、私たちは大きな竪穴を掘り、雪を壁として天幕を張った。馬とすべての兵士が同じ天幕に入る。ナユーム族の方をみると、私たちのものより二回りくらい小さな天幕を張り、馬は天幕の外につないでいた。ひとつの天幕を十人ほどの人間で使うようで、天幕を囲むように馬がつながれ肉の風よけになっているようだった。
食事を取りながら、兵士たちにこれからの計画を伝えることにした。
「諸君、食べながらきいてくれ。私たちはこのまま秋営地に向かう。ギュッヒン侯の末っ子が防御陣地をつくったあそこだ。だが、食料が足りないし仲間達とも合流しなければならない。このままあと三泊し、そこで二手に分かれる。私とイング、ハーラントさんとキンネク族の戦士お二人。五人は、このまま道案内をしながら進む。残りはホエテテ君とシルヴィオ君とともに、ルビアレナ村へ向かってくれ。ツベヒたちと合流し、大太刀と食料をもって秋営地まで来てもらいたい」
「隊長、五人だけで大丈夫ですか。殺されたりしませんか」
シルヴィオが声をあげた。
「心配してくれてありがとう。だが、エナリクスさんがその気になれば、今すぐ私たち全員殺すことは
ナユーム族の目的はなんなのか。五百頭の羊ではあるまい。しかし、その協力を断る余裕は私たちにはなかった。
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