追放、いや放置!?
一個大隊の定員は五百四十名である。
私の記憶では、ターボルにおかれていた大隊からチュナム集落を含めて六か所の防衛拠点へ二個中隊、つまり六個小隊がバラバラに配置され、予備として一個中隊がターボルに置かれていた。兵力を分散することへの批判もあるが、
考えていてもしかたないので、炊煙のあがっている比較的大きな家へ向かうことにする。三人とも、ターボルの町ですごした時間がほとんどなかったため、どこになにがあるかまったくわからないのだ。
「申し訳ありません。チュナム集落から戻ってきたものです。ここにいた軍隊はどこにいったかご存じありませんか。チュナム集落から戻ってきたものです」
何度かドアを叩くと、扉を開けずに中から返事が返ってきた。
「五、六日ほど前に、軍はここから撤退したよ。くわしいことはギボ町長のところできけばいい」
「町長の家はどちらになりますか。すぐにチュナム集落にいったので、この町のことはまったくわからないのです」
扉越しの声が、露骨に警戒したものにかわった。中から、そっと
「三軒隣の屋根が茶色い家だ。そっちできいてくれ」
それきり、中からの返事はなくなった。仕方ないので、三軒隣の茶色い屋根の家に向かう。
ターボルの町も、干し
「ギボ村長さんチュナム集落からきました、ローハンといいます。ワビ大隊長がどこへいかれたか、ご存じないでしょうか。チュナム集落からきたローハンといいます」
今度はすぐに扉がひらき、中から無精ひげを伸ばした初老の男性が姿を見せた。ふと、この男性は自分より年下かもしれないということどうでもいいことが頭をよぎるが、いま考えることではないだろう。
「あんたがローハン・ザロフさんか。ワビ隊長からあんたが来たら渡すように、手紙を預かってる。まあ中に入れ」
おそらく村長だと思われる人物に導かれ、なにかが煮える良い香りが漂う部屋に入る。
「村長のギボだ。そのへんに座ってくれ。飯は食べたか」
私たちが首を横にふると、男性は奥の部屋へ怒鳴った。
「おい、ババア。三人分の食事を追加だ。なんでもいいから、持ってきてくれ」
村長と同じくらいの年齢の女性が奥から顔を出し、私たちを一瞥すると隣の部屋に戻っていった。
「奥さん、お気遣いなく」
女性に私のことばが届いたかどうかはわからない。
すぐに村長も奥の部屋に姿を消し、しばらくすると一通の封筒をもって戻ってきた。
「これをワビ隊長から、あんたへ預かった。中は見てないから、確認してくれ」
手渡された封筒には、上下にしっかりした
二枚の紙のうち、一つは手紙、もう一つは指令書のようだ。まずは手紙に目を通す。
ローハン・ザロフ小隊長へ
大隊に撤収命令が出された。本国でなにかがおこり、わが部隊は本来の一個軍団としてフェイルの町に集結する。その後もどこかへ移動する予定だが、行き先は不明。君には正式な命令書を出していなかったので、ここに同封する。現地勢力の調略任務が終了すれば、本隊へ復帰するように。
追伸
部隊の移動を命ずる士官は、ザロフ小隊長の所在をやたらと知りたがっていた。私が君を調略任務に派遣したことを伝えると、脱走したのではないかといいだしたので、正式な命令書を持たせて任務に派遣していると伝えておいた。正式な書類があるとはいえ、私がいなければ君は脱走兵に
さらに追伸
君の剣はニビに預けてある。この手紙は一読後焼却するように。
テーブルの上へ、乱暴に木の椀が置かれる音で我にかえると、村長の奥さんが我々の前に食器を配っていた。表情は非常に不機嫌で、歓迎されていないことがありありとわかる。だが、そんなことはどうでも良かった。
なんてことだ。私は軍にも捨てられたのか。
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