白茸
食事は素朴だが、同じものばかり食べていた私たちにとっては、とてもありがたいものだった。
豚肉は骨付きのものを水で煮ただけだが、噛みしめるごとに脂がにじみ出てうまい。
ふとユリアンカをみると、唇をテカテカに光らせながら骨をしゃぶっている。
皿に積まれている、白いブツ切りにされた得体のしれないものに手を伸ばす。柔らかいが、みっちりと中身の詰まった触感で、どんな食材かがわからない。
「村長さん、この白いのはなんですか」
わからないことならば、きけばよい。村長は酒が入って、少し赤くなった顔で答えてくれた。
「それは
そういわれて、あらためて指でつまんだ白い塊をしげしげと見つめる。
「茸は毒にも薬にもなる優れた食品であることは知っています。ただ、茸だけを食べて人間が生きていくことはできないのではないでしょうか」
私の問いかけに、村長は難しい顔をした。
「たしかに、ここの白茸以外ではそうだろうな。だが、白茸はそれだけを食しておっても、人が生きることができる特別なものだ」
これがルビアレナ村の秘密なのだろうか。人々は、それだけを食べて生きていける特別な茸を手に入れたかわりに、なにかの栄養が不足して身長が伸びなくなったのではないか。そして、井戸がないことへの答えも見つけた気がした。茸が日光の下でスクスク成長するとは思えない。これだけの人間が生活できるほどの茸が育てられる場所、つまり広い洞窟かなにかがこの村にはあって、そこには水があるのではないか。
この情報は、心の中にとどめておくことにしよう。草原において、水源はどんな財産よりも価値があるはずだ。ルビアレナ村の人々は、鬼角族から水源を隠している可能性がある。
「教官殿、このキノコめちゃくちゃおいしいですよ。コリコリした歯ごたえがたまりません。食べてみてくださいよ」
酒で顔を赤くしたジンベジの声で、思索は妨げられた。
食べたからといって、急に背が縮むわけでもあるまい。
指でつまんだ茸を口に放り込む。
コリコリとした歯ごたえと、中からあふれ出てくる汁の良い香りが、鼻の奥をくすぐる。
悪くないが、この茸そのものが、ものすごくおいしいわけではない。
毎日食べるものなので、変に癖があると困ると考えれば、この味にも納得ができる。
「ユリアンカさん、このキノコめちゃくちゃおいしいですよ。食べてみてください!」
あまりユリアンカにからまないジンベジが、酒の力で気が大きくなったのか盛んに茸をすすめているようだ。
「あたしはキノコって、あんまり好きじゃないんだよ。肉喰ってるから、ほっとけよ」
ユリアンカが露骨に嫌そうな顔をしているが、そんなことでジンベジはくじけない。
「絶対においしいですって、食べてみてください。ほらアーン」
ジンベジは思ったより、酒癖が悪かったようだ。隣で黙々と酒を飲み、肉を食べるホエテテを見習ってほしいものだ。
はじめは断っていたユリアンカも、最後には根負けして渋々茸を口にしたが、一口だけ食べるとジンベジに突き返した。茸の味は、お気に召さないようだ。
「ノアルーさん、この村はいいところですね」村長との距離を近づけるために、名前でよぶ。「この白茸は、どこで採れるんですか」
さりげなく、茸のことをききだそうとするが、村長はそれほどバカではなかった。
「白茸はこの村の宝だ。もし、この白茸が気に入ったなら、麦でも羊でもいいから交換してやるぞ」
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