VS異世界鴨嘴人 ~後編~
更に考察を修正。
電磁砲の最大直径が、前回よりおよそ五割増しになっていた。これは
その上で、カモノハシには慎重な側面があることもわかった。
圧倒的優位な場面ですら、最大出力を選んだことがそれを裏付けているからだ。とはいえ、悪手であることに違いはない。
「は? どうなってるんだよ!?」
銃口の先、確かに全力で撃ったプラズマ砲に晒され、それでも傷どころか汚れすらついていない雨宮を見て一歩後ずさった。
「何を驚いておるのだ?」
痙攣の収まらない状態で、雨宮は強者たる位置を崩さず、不敵に笑う。
「僕は勇者だぞ! 僕をそんな目で見るな!!」
怒りに支配されたカモノハシが引き金を引く。
超至近距離から放たれた六発の銃弾のことごとくが雨宮の身体を打ち抜く。文字通り貫通し、背後の床に炸裂し爆ぜる。
肉を貫かれ、血を噴出させなければならない状況にも関わらず、雨宮には何も起こらなかった。
『わかっているのだろうな? これは奥の手だぞ?』
(だからこそ、このタイミングであろう)
条件が厳しくなればなるほど、優位な結果を得られるのが能力だ。毒状態でかつ静止下の高難易度で得られる【企画のゴリ押し】の力は絶大。新たに適用させたのは[全ての攻撃を透過する]法則である。
その性能はカモノハシの持つ、ローンパインコアラを上回る。
必中であるはずの弾丸ですら結果を押しつけられないのには、カラクリがあった。ほとんど賭けに近いものだったが、防御の有無でダメージ量が変わるなら、接触させさせてしまえば良いと雨宮は踏んでいたのだ。
つまり、追尾が演出なら、見た目上当たりさえすれば、同じ理由で命中判定がされる。
大事なのはダメージではない。直撃した演出さえあればヒールズビルは攻略できたのだ。
(欠点はこちらから攻撃に転じれんことと、毒が回って死にそうなところかの)
それでも、
銃口が額に押しつけられ、透過する。
雨宮は顔に出さなかったが、看破されたと内心穏やかではなかった。
絶対防御である透過能力を逆手に取った、体内への侵入。頭の中にハンドガンの全てが埋まる。
「僕のローンパインコアラは装備することを契機に発動する。ヒールズビルは撃てば当たる。それと同じだよな? お前がさっきまで防御してたのは全部手で受けてた時だ。じゃあ、何かしら条件がある。おそらく動かないってところか?」
「なるほどの。そこまで阿呆ではなかったか。してどうする? 根競べでも挑むかの?」
「はぁ? なんの話だ?」
動けば、その瞬間、透過能力を失い脳を損傷し絶命する。かといって動かなければ解毒もできず、どちらにせよ死ぬ。
勝ち誇るカモノハシに、それでも優位な立場を崩さない雨宮に彼は苛立ちを覚えた。
「すでに妾も罠を張らせてもらった。この部屋を満たすマナは今この瞬間にも濃度を増しておる。そなたはあと二分も絶たずに中毒症状を起こし、死に至るであろう。どちらが先に毒で死ぬか勝負ということだ」
自らの策を暴露し、カモノハシが一瞬狼狽える。
「ふ、ふざけるな! 僕をどこまで馬鹿にすれば気が済むんだ!!」
意味がないと知りつつ、頭の中に埋め込んだ銃を発砲する。銃声が何度も鳴り響き、床へと叩き込まれていく。
だが、能力が展開している限り何の変化も訪れない。変わらない状況にカモノハシの顔に力が籠る。
「良いのかよ。仮にこのまま僕が先に死んだとしてもお前も死ぬってわかってんのか?」
「ほう、そこまで頭が回ったのか。お利口なことだ」
「いい加減にしろ。僕を馬鹿にするなと何度言ったらわかるんだ。僕は選ばれた勇者なんだぞ! こんなところで死んでいいはずがないんだ!!」
カモノハシの言う通り、もし先に彼が死んだ場合、壁際にいる関係上、雨宮の上に覆いかぶさるように倒れるだろう。そうなれば片膝をついた彼女の下半身を埋め尽くす。
仮に勝利したからと動けば、雨宮は下半身を破裂させ死に至る。
「ほれ、どうするのだ。早く選ばなければ中毒で死に至るぞ。最も密室のこの部屋から逃れる手立てはないのだがの。それでも〝
「その手に乗るか。
「そう簡単にはいかんか。賢いの。だが、時間がないのはお互い様であろう?」
「ぐ……」
言葉を詰まらせたカモノハシは次の瞬間、手足を震えださせた。
「中毒症状が始まったの」
刻限を自覚したカモノハシは、突破口を見出そうと思考を巡らせる。雨宮は、その一瞬の隙を待ち望んでいた。千載一遇のチャンス。
「《
突如吹き付けた暴風がカモノハシの身体を浮かし、雨宮の身体から全てを抜き去る。
(待たせたの)
『問題ない。詰めは誤るな』
絶対防御の条件である毒状態を[毒が利かない人間]にすることで解毒する。これにより失う透過能力だが、同時に攻撃に転じる契機となる。
一気に地を蹴り、十分な距離を保つ。
「クソが!」
中空を舞うカモノハシが出鱈目に銃弾を打ち放つ。
あらぬ方向へと飛ぶ鉛玉はホーミングし、全てが雨宮へと引き付けられるが、それらを手のひらで迎撃。
「毒如きで僕が死ぬか!」
魔力中毒の症状が出ていたカモノハシの手足から震えが消えた。
『生か死の分岐を作ったようだな』
(それも想定の範囲だ)
着地したカモノハシと雨宮の距離は8m。
にらみ合う両者。互いに毒が通じなくなったことによる振り出し。再び始まる死闘。だが、しかし、勝敗はすでに決していた。
カモノハシが倒れたのだ。
「な……んで」
今度は全身を震えさせ、うつ伏せのまま信じられないという顔でカモノハシが混乱していた。
「まだわからぬのか?」
カモノハシの前でしゃがみ込み、雨宮が彼の顔を覗き込む。
「根競べと言ったのは、妾にそれ以外の打開策がないと印象付けるため。その後の挑発は冷静な思考を奪うため。魔力中毒を明かしたのは、そちらに意識を向けさせるため。こう見えて理詰めは得意での。ふむ、そうであった。肝心なことを言っておらんかったの」
ワザとらしく、手のひらを叩いて思い出した風を装う。
人差し指を立て、笑顔を振りまく。
「空気を毒に変えておいた。正確には酸素の重量を軽くして、天井に張り付くようにの。最後の風魔法はいわゆる最後の仕上げであって、お主から距離を取るためではなくての。気づかなかったであろう?」
「でも……」
苦しむカモノハシに雨宮は無常にも突き放した。
「分岐したのであろう? 魔力中毒で死なない方へ? 低酸素で死なない方へ分岐しなかったお主が悪い」
カモノハシの最大の誤算は自身の能力に対する知識の乏しさだ。
ヒールズビルの必中条件は、引き金を引くこと。
ローンパインコアラの防御の条件は、装備すること。それでは条件として単純すぎるので、魔法防御のみとなっていること。
これらを冷静に分析すれば、自ずと答えは見つかる。
マナ濃度が致死量に達するということは、常に死の選択を迫られるのだ。中毒症状で死なない選択をした瞬間、再び死の選択を受ける。つまりこの部屋から脱出しない限り能力を封じ込められるということだ。
対して雨宮の能力は、彼女だけに適応されるのではない。全ての人間に対して発動する諸刃の剣。故に、発動条件は優しく簡単に使える。ただ、相手がそれに気づかず誰も試さないだけの話なのだ。
「お疲れさまです。雨宮様。今回も流石で御座いました。実験への御協力感謝致します」
実験終了のアナウンスが流れ、奥の扉が開いた。
『頭の回らない器だったな』
「そうだの。もっと広い見識を以て[実験が諸事情で強制終了される]などの分岐を作れば、扉が開いて助かっておっただろうにの」
扉を潜る瞬間、雨宮は振り返り、中央で横渡るカモノハシの遺体を見やる。
「勝敗を分けたのは、そなたが勇者で、妾が国々を束ねる理事だったことかの。物事を俯瞰して見れねば、上の連中には勝てぬぞ。生まれ変わったら、また相手をしよう」
誰も聞いてない言葉を投げ、雨宮は出口を潜った。
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