VS異世界鴨嘴人 ~中編~
現時点で把握している敵の能力はこうだ。
最大の攻撃手段の要となるのはハンドガン。実弾と電磁砲を同一銃より放ち、再装填の必要がないことから、魔力依存のものと思われる。それを裏付けるように、
実弾の場合、一度に発射できる最大数が六に対し、電磁砲は一。段数の差異は、最大攻撃力が装填数の総和によって決定しているからと推測する。
このことから、予測される敵の能力は四種類。
一、他に二~五に対応した異なる性質の弾がある。その場合、七以降の存在も危ぶまれる。発砲時の銃声が一回分しか認識できないことからも、この可能性が非常に高い。また、実弾はほぼ絶え間なく発射するのに対し、電磁砲は一度も連続使用していない。考えられるのは再装填の間隔だ。これは性質毎に判定していると思われる。
二、弾数は任意で、実弾は単純に六発で発射しているだけ。一発で放つことも出来れば、電磁砲を六発で撃つことも可能。こちらの場合も同様に七発以上に分離もできる。
三、そもそもが
厄介なのは、この三番目。自分の発言に酔う知能指数と見せかけ、その裏で偽情報を相手に掴ませ動きを誘導する。非常に
そして、四番目は、何よりこの考察すら間違っていることだ。
次に防御面。
ローンパインコアラの名を持つ胸当ては、全ての魔法攻撃を無力化する。対象物ではなく対象者を標的にしても、無傷だったことから何らかの結果を付与する種類だと推測できる。
これが魔法に対してなのか、全ての攻撃に対してなのかは要検証。また、無効化上限が存在したとして、最大火力が防がれた以上、考察の余地はない。
更に、口から吐く部屋全体を覆い隠す水蒸気。視界は1mも利かず、気配すらも絶つステルス能力を有している。ここに追尾弾を併用することで、防御すら不可能になる。
以上が追い込まれていると見せかけ、暴いて来た敵の情報である。
目下、対象への攻略として選んだのは、魔力中毒。
部屋全体を覆うマナの濃度の致死率は、対象の魔力と体格によって変化する。魔力が大きければ、体格が大きければそれだけ中毒になりにくい。このことから導き出されるカモノハシの生存時間はあと四分十八秒後だった――
* * *
雨宮がくちばしに触れた瞬間、〝
正確には、魂の次元に干渉し対象の情報を読み取るのだ。条件は対象に触れることで、
強かか、それともただの阿呆か。それだけでも戦術を絞れる。
だが、次の瞬間、危惧していた最大級の警戒を敷くことになる。
『〝
精霊の真名に、雨宮は反射的に飛び退る。
同時に、カモノハシもまた距離を取り、形相を変化させた。
「お前……精霊か?」
わずかに開いたくちばしから、疑問を投げかけた。
敵が精霊ならば、さきほどの掠った時に
(さきほど言っておった二柱のうちの一柱か。どんなやつだ)
『交錯の次元管轄にして、分岐選択担当。奴が用意した分岐を選択した時点で、全ての結果が決定する』
(……ということは、四番か、厄介だの)
考察を修正するならば、こうなる。
引き金という分岐点に対し、引くという選択肢を選んだことで直撃の結果判定がされる。追尾はいわば、ただの演出だ。
(消し飛ばしても意味がないのは、そういうわけだったか)
ただし、これで胸当ては、魔力攻撃にのみ無効処理がされることが判明した。
能力は万能であって万能ではない。どんな能力も原因と結果が付きまとう。雨宮の場合、全ての攻撃を無力化するには、手のひらで受ける必要がある。もし、相手の様に防御しなくてもいいとなると、攻撃の種類、無効化上限を設定しなくてはならない。
殴るという行為に対して、殴られたという結果があるとしよう。
殴ってないのに、殴られた結果は発生しないし、強く殴れば、強く殴られる。
求める結果に応じて、要求される原因は常に変化するのだ。
ここへ来て、雨宮が攻撃に転じる。
(〝
『良いだろう。あれが相手では仕方ない』
それまでとは比較にならない超高速移動を以て、雨宮はカモノハシに接近した。
「なっ!?」
驚愕するカモノハシは防御が間に合わない。
潜り込むようにして放たれた右拳が鳩尾に突き刺さる。
唾を吐き、くの字に折れ曲がるカモノハシへ左のハイキックを側頭部へと叩き込んだ。
吹っ飛ばされ、壁に激突する。そこへ追撃をかけ、左右上下の乱打を見舞う。
背後の壁に押しつけられた状況からの脱出方法は左右と上だけだが、そう易々と逃げられない理由があった。
カモノハシは雨宮との距離が測れていないのだ。
彼女が普段ワンピース姿なのは、年齢を弄り身長を上下させるからだが、他にも低身長時は足首まで覆い隠すことで歩行技術を隠匿する意味を持つ。
そして、背が高くなるということは、当然、リーチも伸びる。特に見下ろしていた相手が、見上げなければいけなくなれば距離感は完全に狂う。
そこへ速度と腕力の増加も加われば、対処しなければならない項目が多すぎて処理がおぼつかないのは当然の帰結だ。
雨宮とて、戦闘中に突然身長が変われば、距離感を正しく測れなくなる。とはいえ、このスタイルを確立したのは二十年以上も前。長きに渡る経験値が初見の相手とのアドバンテージとなって現れる。
先刻までの一方的な内容は反転し、雨宮の猛攻撃がカモノハシを蹂躙していく。
血反吐を吐き、無数の打撃が黒のロングコートを赤く染め上げる。
そして――、倒れたのは雨宮の方だった。
「……やっとか、利かないかと思って焦っただろ!」
片膝をつき、全身を痙攣させる雨宮の額に銃口が突き付けられた。
「毒かの……」
考えられるとすれば、頬を掠めた鉤爪しかなかった。
「精霊の器に選ばれる主人公ってのは、イケメンか美少女が相場だと思ってたのにな。それがわかってたら、もうちょい警戒してたのにな――、ってうるせぇよ、〝
カモノハシが誰もいない宙に向かって叫ぶ。彼だけに見える主人〝
引き金に指がかかる。
「〝
「そうか、それは良かったの」
指に力が籠る。
カモノハシが致死量のマナを取り込むのに必要な時間は、残り二分三十二秒。
しかし、それより早く電磁砲が雨宮を飲み込んだ。
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