vs異世界鍬形虫
某日、早朝。
俺は指定された場所へ向かっていた。
そこは街からもずいぶんと離れた郊外であった。
こんな
まあ、転送魔法を使うとか言っていたから結構な大掛かりな魔方陣でも使うのだろう。
だからこういう場所じゃなければならないのかもしれない。
だがなんにせよ、俺から言わせればこんな距離はたいしたことはない。
だが、依頼の内容があれだったから、それなりに警戒はさせてもらっている。
もしかしたら、あの内容はデマで俺をヤルためにこんな場所に呼びつけたという可能性もなくはないからだ。
危険な芽は小さいうちに摘もうとするのが悪党のやり方だからな。
だが、何者かが襲ってくることもなく無事指定された場所についた。
そしてそこには小さな小屋が建っておりその玄関の前に一人の男が立っていた。
貴族に仕える執事のような格好ではあるが少し違う。
まず、細い布を括り首から掛けており、手袋もしていない。
それに雰囲気もシッカリとした感じではなく、どこか気の抜けた、締まりのない、疲れが滲み出た感じであった。
「どうもデルト様。お待ちしておりました。
私の名前はサトウと申します。
今回の実験の案内を担当させてもらいます。
どうぞよろしくお願いいたします」
サトウと言う男はそう名乗った。
しかしサトウとは変わった名前だな。
だが、それよりも気になったことがあった。
「お前、サトウとかと言ったな」
「はい、そうでございますが」
「今回、俺はこの依頼状を受け取って来たのだが……この紙に書かれている名前はなんだ?お前の名とは違うのだが。
それに旧友がどうとか書いてあるがその小屋に住んでるやつの名前か?
そもそもこの名の人物は存在しているのか?」
そう言うと男はその質問が来ることが分かっていたかのように話始めた。
「その件でございますか。
申し訳ございません。今回は諸事情の理由で偽名を使わせてもらいました。
別に我々はあなたを騙すつもりで偽名を使ったのではございません。名前以外は全て事実でございます」
「この魔獣がどうこうって言うのは?」
「もちろん、事実でございます」
別に嘘を言ってるようではなかった。
なぜ偽名を使ったのかは言いそうになかったのでそこは聞かないことにした。
無駄なことには時間を使いたくはないからだ。
それよりも気になることがある。
「それで、転送とかはどこでやるつもりなんだ」
そう聞くとサトウは待っていましたと言わんばかりに説明を始めた。
「今回、会場までの移動はこの小屋にあります機械、言うなれば魔導具のようなもので行います。これ事態は外でも使えるのですが人の目もありますからね。一応街外れにお呼びしましたが念には念をと言うことで屋内で行わせてもらいます」
魔導具で転送。そんなことができる魔導具など聞いたことがない。
もしや、その魔導具は神器レベルの物なのかもしれない。
だが、そんなことは俺には関係ない。それよりも早く会場に行きたくて仕方がないからだ。
「移動は分かった。なら、早いとこやって来れやしないか」
「分かりました。では、こちらの方へどうぞ」
サトウは愛想笑いを浮かべながら部屋の方へ入って行ったので俺もそれについて行った。
ーーーーーーーーーーーーー
小屋の中はガランとしていた。
机が一つあるだけで他は何も置いてなかった。
「それでは、転送を行わせていただく前にこの書類にサインの方をお願いできますかね」
そう手渡された紙にはこんなことが書いてあった。
『本実験を行うにあったりその責任問題に関する同意書
(一)本実験で負ったケガ等は自己責任で行うこと
(二)本実験で死亡した場合、その一切の責任を自らが負うこと
(三)本実験で…………』
こんな感じの具合であった。
わざわざこんなものに同意しなければならないのか。
別に死んだからどうこう言う訳がないのに。
冒険者の仕事じたい全てが自己責任なのだから。
だが、面倒だがこれにサインしなければ先に進みそうになかったからしぶしぶそれにサインをした。
「ありがとうございます。それでは、今から転送を行います、舌を噛まないように注意してください。では、失礼します」
そう言って、サトウは俺の腕を掴んだ。
そのあとは一瞬であった。
一瞬で目の前の風景は簡素な部屋から、一面真っ白な床と壁の部屋に変わった。
まじかよ、こんなこと出来る魔導具が存在してるのかよ……
俺が少々呆然としている中、サトウは話かけてきた。
「無事、転送が完了しました。時間が来しだいお呼びしますので、それまでしばしお待ちを」
そう言い終わるとサトウは目の前から一瞬で消えてどこかに行った。
…………さて、呆然としている場合じゃないな。
俺は部屋をぐるりと見渡した。
この部屋は相変わらず白く、いくつか観賞用の木が植えてあるのと、ソファーが四つ置いてあるだけであった。
この部屋には俺以外にも何人か人がいた。
そいつらの格好は皆変わっていた。
どこかの組織の制服らしきものを着ていれば、Tシャツにジーパンというラフな格好のやつもいた。
それよりも女が結構いるな……
俺はそこにいる人間をつぶさに観察していた。
まぁ、一人明らか人外なやつがいるのだが、すごい頭と手の数だな。
誰も気にしてないから、俺も無視するのだが。
しかし、ガキまで連れて来てるやつもいる。
そんなので戦えるのか?俺はそいつをじっと見ていたがある違和感を覚えた。
なんだ、あのガキ。本当に生きてやがるのか?
どうも違う何かを感じる。まるで、アンデットとかそんなのに近い感覚なのだが。
だが、ここにいる連中全員が明らか何か違うものを感じている。もしや、あのガキもこんな場所に来ているのだ、特別な何かを持っていてもおかしくはないな。
そんなことを思うと今まで壁だった場所に穴が空きそこから人が出てきた。
「それでは準備が整いましたので、順番に控え室の方へ移動してもらいたいと思います。では、まず…………」
そうして、名前を呼んでいき次々とここにいるやつらを控え室とやらに案内していった。
そして、十番目になりようやく、
「それでは、デルト様。控え室の方へ」
俺は呼ばれたので、そいつがいる方へと歩いた。
今まで気づかなかったが呼んでいる男の後ろにはサトウがいた。
「それでは、デルト様。こちらへ」
どうやらここでも案内はサトウのようだ。
俺は永遠と同じような廊下を静かに歩き、一つの部屋の前で止まった。
「では、こちらの部屋の方で。このあとは我々職員のものでなく、合成音声の方で案内させてもらいます。ここからは死地でございます。それでは、ご武運を」
そう言い終えると、サトウは部屋の入り口横に立ち、手を胸に置き、軽くお辞儀をして止まっていた。
つまりは、この部屋に入った瞬間から試験開始ということだろう。
いいな、この緊張感。相当楽しめそうだ。
俺は部屋へ入る。すると俺が入った入り口は完全に閉まった。
もう、逃げることはできないらしい。
そして、部屋の中に無機質な声が響いた。
「これより、移動を開始します」
それを聞くと部屋が微かに揺れた。
おそらくこの部屋ごと移動してるのだろう。
なんて、技術だまったく。
しばらくしてまた部屋が揺れた。
その直後にまた無機質なあの声が響いた。
「三十秒後に戦闘を開始します。これよりカウントダウンを開始します」
無機質な声が数を数え始めた。
さて、これより行うは殺し合いだ。どんな怪物が相手だろうと負けるわけにはいかねぇ。
俺はグローブを取り出しきつく手にはめた。
数字が十五をきった。
俺は背中に差してあった、刀を抜くと軽く素振りをして調子を確めた。
数字が十をきりだした。
よし、それじゃあ始めますか。俺の強さを上げるためにせいぜい利用されてくれよな。俺が全てを守りきる力を手に入れるためのな。
「二、一、ゼロ、戦闘開始」
目の前の壁がガタリと落ちた。
ーーーーーーーーーーーーー
俺は目の前の扉が開いたのでそちらに歩いた。
部屋を出ると扉は一瞬にして閉まった。
そして、俺は目の前を見つめた。
そこには虫がいた。
おそらく俺以上のデカさの虫がいた。
そして、それはどこからどう見てもクワガタであった。
特徴的なのは図体がデカイだけじゃない。
顎だ。そいつの足より明らかに大きく、鋭利な顎を持っていたのだが。
なるほど、あのクワガタが俺の対戦相手か。
うん、あれが、あいつがか…………
なんだよそれ、思っていた敵とは大分違うのだが。
もっとなんか漆黒の魔獣的なものを期待していたのによ。
いや、ボディは確かに黒いけども、そうじゃないのだが……
ってかあれは、魔獣なのか。魔獣じゃなくて魔虫ではないのか。
もう、いいさっさとヤろう。
刀を俺は背中に戻し、とりあえず戦闘体勢にはいった。
その時あのクワガタが何かおかしな動きをし始めた。
顎を大きく広げ始めたのだ。その時、背筋に寒気が走った。マズイ、本能的にそう思いすぐに横へと跳んだ。
ちょうどその時、俺がもといた場所が弾け跳んだ。
床には綺麗に抉りとられ壁には大きな斬りあとが残った。
これをあのクワガタがやりやがったのかよ…………
なんだよ、面白いじゃないか!
そりゃ、俺と戦うんだから雑魚をよこすわけねぇよな!
「なら俺も、それなりに本気でいかせてもらうぞ!」
俺はあまりの嬉しさに笑みをこぼしながら距離を縮めた。俺が近ずくや否やすぐさま顎で斬りかかってきた。
なかなか俊敏な動きをしやがるじゃんかよ。だがな背後を取った、喰らいやがれ。
「ボンドりゃーーー!」
俺は掛け声と共に虫の背中に思い切り拳を叩きこんだ。
叩きこんだと同時に高い金属音のようなものが響いた。
硬てぇ…………どんだけ硬いのだよこいつ。
クワガタはすぐ背後にいる俺に向かい三回斬り込んできた。
頑丈な装甲に切れ味抜群の顎。これは想像以上の相手じゃんかよ!
久しぶりにこいつを使ってやろうじゃねぇか。
俺はクワガタから距離を取ってから背中の刀を抜き取り、地面と水平にそれを身構えた。
「覚悟しやがれ、クワガタ」
俺は静かにそう言い放つとクワガタはこちらに突進してきた。
やっぱ、移動のスピードもなかなかあるなこれは、捌くのも大変だな。
そう考えるうちにも、虫は目の前に迫ってき、斬りこんできた。
刀と顎が触れあうたびに、軽く火花が散る。
まじかよ、鉄とアンダマタイトが混ざったこいつと同じ固さとかふざけ腐ってやがる。
俺は斬撃を捌きながら何度か体に食らわせてやっているが、あまり効果はねぇ。
だが、全くというわけでもなさそうだ。
俺は再びそいつと距離を取り戦況を確認した。
あいつの斬撃、これは捌くことができる。
だが、それはずっとはさすがに無理がある。
あいつの体力切れを狙って仕掛けようにも結構なスタミナを持っていて、それが切れる様子は全くない。
何度か喰らわせてみて分かったが、あまりダメージを浴びてる様子はない。
だが、微かに喰らった部分はへこんでるのは確かだ。
今できるのは、多くやつの体にぶち込むことだが、それじゃあ勝てる気がしない。
何か弱点を探さなければ。
もっと確認したかったが、相手がそれを許さなかった。
チッ、このままじゃ防戦一方だぞ。なんか手立てはないのかよ。
なんとか、斬撃を受け止めてはいるが、これではまずい。
俺は体に打っても意味がないので足に向かい打ってみた。
だが、もちろんの如く足も同じような固さであり、火花が軽く散った。
しかし、この攻撃を喰らったことにより少し体勢をクワガタは乱した。
それを見逃す俺じゃない。
体を屈め、刀を後ろに下げ、渾身の力を込めやつの口元に向かい振り上げた!
「吹き飛べ、クソがぁぁぁぁぁ!」
攻撃はやつの口に直撃する。
クワガタ謎の奇声を発しながら吹き飛び、壁に叩きつけられた。
壁は崩れ、瓦礫が跳び、砂ぼこりがクワガタを包んだ。
俺は静かにその一点を見つめていた。
すると砂ぼこりでよくは見えなかったが、影が蠢いたのを確認した。
どうやら、まだくたばりはしないみたいだ。
クワガタはほこりを振り払いながら、突進してきた。
今ので分かったがある。
足を狙うのはそれなりに使えるが致命傷にはならないということ。
それともう一つだ。
それは、やつが吹き飛んでるときに偶然見つけたものなのだが……
恐らく、これをつけば倒せるはず。
突進してきたクワガタの猛攻を捌きながら、俺はその弱点を狙えるのを
もう一度、体勢を崩すことができれば勝機は間違いなく俺のものになる。
再び俺は足に向かい攻撃を放った。
しかし、それはかわされた。
まるでそこに来ることが分かっていたかのように。
ヤバい、こいつには学習能力がちゃんと備わっていやがった、今この状況で無防備なのは…………!
激しい衝撃が俺の体を走った。
今度は俺が壁に強く叩きつけられることになった。
マズイな……今ので利き腕を思いっきり深く斬りこまれた。
切断はされていないが、大分血が出ていやがる。
ヤロウ、中々の知能を持っていやがりよって。
こっちが弱ったのを向こうは察知し、ここぞとばかりに助走をつけてこちらに向かってきた。
次だ、次の一撃が外れたらたぶんもうこっちの負けは確定だな。
だかな、虫野郎。こっちは負ける気なんざ微塵もないぞ。
お前の
俺は向かって来る虫を睨んだ。もう、大分近づいて来ている。
後、数メータといったところか、そこで俺も敵に向かい走りだした。
クワガタは飛び掛かってき、攻撃してきた。
それを俺はスピードを落とすことなく膝を地面にこすりつけながら腹の下に潜りこんだ。
そして、
「せいやぁぁぁぁぁぁぁぁー!」
俺は腹に向かい両手で全力の突きを繰り出した。
刀は腸を突き破り背中の装甲も砕け、刀身が突きだした。
刺した部分から黄緑色の液体が飛び出しそれを浴びた。
クワガタは跳んだ勢いそのままに地面に衝突。刀が刺さった状態なまま仰向けになった。
俺も勢いのまま吹き飛ばされクワガタとは逆方向に転がった。
やっぱりだ、あいつの腸までは装甲がなかった。
やつが飛ばされたとき腸の部分が見えたが、あそこだけ黒くなかった。もしやと思いやってみたらビンゴだ。
しかし、あの装甲。内側からの攻撃には弱かったのだな。
さすがにあそこまで刺さったときは驚いた。
そんなことを考えてる最中にも、クワガタは謎の奇声をいまだに放っている。
だが、それも途切れ、途切れになり、ついには何も発することはなかった。
俺は痛む腕を庇いながらゆっくりと立ち上がった。
クッソ、さすがに最後のは調子のり過ぎたか。
さっきよりも血が出てやがる。
服もボロボロにされたから買い換えねぇと。
アーもう、無駄な出費だ。
俺はクワガタの死体にゆっくりと近づき刺さっている刀を抜いた。
刀は黄緑の液体にまみれていた。
クッセーな、これも。こんなもの全身に浴びたのかよ俺。
今日は絶対風呂屋に行く。これはいくら何でも臭過ぎる。大枚叩いても絶対行ってやる。
すると部屋にあの控え室で聞いた無機質な声が響いた。
「実験を終了します。被験者の方は控え室にお戻りください」
すると閉まっていた扉が降り先ほどの控え室が出てきた。
なるほどな、もう、これで終わりなわけか。
しかし、どれほどの時間戦ってんだろうか。
俺から言わせちゃあ、数分ほどにしか感じなかったが、実際はどうだったのだろう。
俺が控え室に戻るとすぐさま扉は閉まり、軽い振動と共に移動を開始し始めた。
さすがに立っているのもしんどくなってきたので壁に
そして、俺は中に着ていたタンクトップを脱ぎ、それを破り包帯代わりとして腕にくくりつけた。
これはなかなかいい経験だったな。
普段はあまり魔獣とは戦うことはなかったからな。もし、そいつと戦うことになったときのため、少しでも魔獣にたいする知識を持っていた方がいいな。
すると部屋が揺れた。どうやら、着いたらしい。
扉が開くと、そこにはサトウが立っていた。
「デルト様、お疲れさまでした。これにて依頼の方は完遂ということになります。
それでは一度ホールへお戻りになりますか?」
「いや、このまま街に帰るでいい。俺は今、さっさと風呂に入りたいんだわ。それにここにはもう、用はないしな」
「わかりました。では、元の世界で帰るでよろしいですね」
「あぁ、元いた場所でいいが」
「かしこまりました。それではまず、依頼金の方をお支払したいと思います」
そうしてやたら頑丈そうなカバンを俺に渡してきた。
「通貨はそちらの世界で使えるものとなっております。ほんの少しではありますが、金額の方を上げさしてもらいました。それでは、転送の方を行います。舌を噛まないようご注意下さい」
そうしてサトウは俺の腕を掴もうとした。
明らかに少し嫌そうな顔をしていやがった。
別にこっちだって好きで粘液まみれになったわけではないからな。
まったく…………………
ーーーーーーーーーーーーー
「異世界鍬形虫の実験、完了いたしました」
「それで、何か分かったかい?」
「はい、やつの腹部が弱点だと判明しました。それに合わせ現在、異世界鍬形虫の殲滅作戦の計画を立てています」
「なるほど、了解。その計画はそのまま進めといてくれ」
「わかりました」
「我々の行いは、これから産まれてくる子ども達の未来を決める行為だ。なんとしてでも成功させてくれ」
「わかりました。では、私は一旦部所の方へと戻ります」
その空間にいた一人の人間はどこかえ消え、ここにいるのは一人だけであった。
「さてと、これからの未来ため、名誉ある仕事を続けようか……………………………。
デルト(VS100参加用) 坂口航 @K1a3r13f3b4h3k7d2k3d2
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