説明できるかな?

さてさて、ここまで読んで頂けた方々は、説明も無しにワケワカメな展開ですっ飛ばす変な読み物ですことホホホ。

くらいに呆れて居られるでしょう。

どうか荒ぶる御魂を鎮まらせ、その上で説明をさせて下さい。

彼は私の言葉に面を喰らったものの、話だけは聞いてくださるようでした。ひとまず息を整えたいがために、なし崩し的に承諾しているのかもしれません。

それでも構いませんでした。私はニコニコしながら彼と席につきます。

「じゃあ、その黒い...カイくん?ってのは何なんだ?」

三度目の可愛らしい炬燵でのお話合いです。対面に座った彼...いい加減に名前が欲しいですね。先ほど紹介していただいて、「遠藤」というお名前を教えてもらいました。

エンドーさんです。

「おぉ、この子について尋ねてくださるとは。エンドーさんはお目が高い」

パチパチパチ。拍手を贈ります。ふざけてないですよ?私はとても嬉しいのです。

「この子は、私の家族です」

「ふーん」

「そういう回答は求めてないって感じですね。...えぇと、」

ちょっと考えを巡らせてみます。カイくんの事は、改めて説明を求められると何とも言い難く困ってしまいます。長い時間を一緒に過ごしてきているのは確かですが、わたし自身、よく解っていないのでしょう。ただ、何ができて何ができないのか、何をしてよくて何をしてはダメなのか、そういう面では確かによく解っています。たくさん失敗を重ねてきましたから。

でも、それを全て話しても、ずらずら言葉が並べられるだけで何一つ釈然としない状況が目に見えています。...簡潔には言えないのです。

「よくわかりません!」

だから、このように元気に答えるしかありません。

「ええ...」

呆れられることも織り込み済みです。いや、全く申し訳ない。

「けど、できる事はたくさんある優秀な子なんです」

「なんでもできるぞー」

何でもなんて言っちゃって。可愛いんだからこの子は。

「...じゃあ今日の晩飯をすき焼きにしてくれ」

「それはできないなー...」

はっきり断るところもキュートだわー。

「ランプの魔神とか玉を集めたら出てくる龍の類ではないので諦めてください」

それにしてもずいぶんと直球な欲望が口に出ましたね。疲れてるんだなぁ。

「では、現在位置を教えて欲しかった理由をお披露目しましょうか」

少し席を立って、先ほどパソコンに表示された地図で現在地を確認します。

「えっ何これすごい近い」

「は?」

「いやー私の居た場所と結構近かった。世界って狭いね」

同じ県内だと思わなかったけど...

今からやることに距離なんて関係ないんだけどね。

「ではーお披露目!カイくん」

「おっけー。おねーちゃん」

合図をすると、カイくんは帽子から飛び出て縦長の長方形の形を採ります。その後にカイくんの口に当たる赤い部分が、遅れて少し小さめの同じ形になりました。ちょうど、開閉部分が赤い黒枠の扉になったわけです。実際、開け閉めなんてしないでそのまま通るんですけど。

「せつぞくかんりょー」とカイくんアナウンス。

「はい、これで私の居候先と繋がりました」

「どこでもドアじゃねえか!!」

いや、まさにそれなんですよ。だいたい予想できてたと思います。

エンドーさんは前後からカイくんを観察しています。きっとこれに遭遇した人たちは誰しもがこの行動をとると思います。

「向こうの景色が見えないんだけど」

「そうなんですよー。ちょっと不安なんですけど、このまま通るしかないんです」

「このままって...」

赤い部分を、エンドーさんはじっと見つめます。今のカイくんは壁にクレヨンで描かれたような、子供の落書きに見えなくもないです。今は部屋のど真ん中に在ります。

「この部分って口だよな」

「通ってみます?」

「いいえ、俺は遠慮しておきます」

そういうと思いました、と悪戯な笑みを浮かべます。エンドーさんは少しむっとした顔をしますが、すいません、反応が分かっていても面白いんです。

カイくんが元の球体に戻って、帽子のつばにちょこんと乗ります。重さはありませんが、なんだか乗った感覚がある不思議。

もう一度炬燵に入り直して、改めて話し合い。

「さて、今のが出来ることの一つですね。あとはさっき言ったように、食べることができます」

「やっと本題ってところか。なんか随分と遠回りしてきた気がするな。要は、カイくんを使って俺の鬱な部分を取り除けるってことなんだろうけど」

おぉ、理解が早い。私にとってすごく都合が良いです。

「それって、危なくないのか...?」

「手順を踏めば、安全です。そのまま食べちゃうと危ないです」

正直に答えます。

「そもそも食べちゃう行為自体が相手を消滅させることを目的としていなくもないので、危険度でいったらMAXを超えて限界突破していると思います。しかし!!我々は研究を重ねて!遂にその安全な食し方というのを発見、会得したのです!成功事例もあります。残念ながら資料として残すの忘れてましたけど。と、言うわけで是非試して...なんで頭抱えてるんですか?」

「その説明を聞いて了承する人間が果たして存在するのかと思ってな...」

「な、涙声にならなくても...その、本当に大丈夫ですよ?」

しかしエンドーさん。頭を抱えた体勢のまま、目だけをジロリとこちらへ見遣って質問をしてきます。怖いです。

「その成功事例って一体何件あるんだ?」

「えっと、2件です。古い神社のカミさまと野良狸さん」

「少ねええええええええ!!しかもどっちも人外かよ!?」

「で、でも!御二方さんはすっっっごく喜んでいらっしゃいました!!」

違う、そうじゃないとエンドーさんはのたうち回っています。うぅむ、どうすれば納得してくれるでしょうか。

「やっぱりさ、何か追加特典がいるんだよおねーちゃん。通販番組でも必ず何か付いてきてるじゃん」

「あ、それかぁ!」

エンドーさんの体勢に身のひねりが加わって全力で「違う」と訴えかけてきます。どうやら明後日の方向に話を進めている模様。うーん。

「カミさまも、狸さんも、エンドーさんも、結局変わらないですよ?私たちがやっていることは浮き彫りになった魂に干渉して、それを食べさせていただくのです」

「...浮き彫りって?」

おっ、喰いついてきてくれました。

私たちにとってみれば皆さん同じようなモノなので気にしてなかったのですが、ここで暮らす人達は注意するんですね。勉強しました。

「貴方の心のしこりを話していただいたければ、それが私たちに視えてくるのです。そうすればその部分だけ、食べちゃうことが出来ます」

それを聞いたエンドーさんは、怪訝な顔をします。...というよりは嫌そうな顔でしょうか。見ず知らずの私に話すのは、やはり躊躇しますよね。

ですが、私は其れを、少し愛おしく思えてしまいます。

さて、彼は受けてくれるのでしょうか。

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