起きたけど

小さい炬燵で沈黙を保ったまま、男女は向かい合っていた。

男は対面をじっと睨みつけながら、女は怯え俯いているが、時々様子を伺うように、男をチラチラと見ている。...この状態が、とりあえず5分は続いている。

状況的に一見すると男女の痴情のもつれあいのような、いわゆる修羅場に見えなくも無い。この状態の5分は本当に長い。

何を言えば良いのか、もし相手から何かしらの発言が行われたとき、一体自分はどう対処すれば上手く躱せるのか、相手と和解は出来るのか。そもそも今は和解など考える時ではなく、喋ることで情報を引き出し合うのが最優先なのでは?いや、そもそもなんで和解なんて言葉が出てきたの?私はここ?何処は誰?

...あ、これは全部女性側のいま考えてることです。何一つ冷静では無いね?

「なあ、あんた...」

「あああああ!!??私はただ道に迷って多分ここにきたと思われますううううう!??」

うーん、滅茶苦茶だ。でも見てる側からするともの凄く楽しいし、もう少しこのままにしててもいいか。

「急に大きな声出すなって!てか、怯えるな!何もしてないし、これから何かすることも無いから!」

「え!?いや、でも、わたし、何かご迷惑をお掛けしていたのではっ」

「あぁ、正直迷惑だったぞ」

「うわあああああああああああやっぱりそうなんだああああああああああごめんなさいいいいいいい!!!」

「ああもう!住んでる人間に迷惑だから大声だけは止めろ!」

男はだんだん苛ついてきたようだ。流石に止めるかー。

「へ?あ、そういえば...」

「んん?」

かくかくしかじか。

「うん。うん...ふむふむ...あ、そうかー。なるほどねー...というか早く言って?」

「やっぱ、危ない奴を部屋に上げちまったのか...?」

あー、傍からみると帽子と会話する危ない人だもんね。

「あ、ごめんなさい!えっと、危なくないですよー?ただの変な人ですよー?」

「どっちにしろ嫌だから出てけ」

と、男がドアに向かって歩き始めました。

「ストーップ!もうちょっと話をしませんか?ね?」

ドアを開けました。

「メール!お兄さん、私にメールしてくれましたよね!?」

止まって、こっちを横目で睨んでくる。これって、どう話しても怪しさ抜群なんだろうな。相手からして見たら、メールしてみたら急に人が叫んで訪ねてくるホラー展開だもんね。

「わ、私に相談してくれたら、その鬱屈した心もスッキリドッキリですよ?換気扇についた油汚れが一拭きで白くなっちゃうくらい気持ちいいですよ?」

「だからなんで深夜のテレビショッピング風なの?」

ツッコミをくれるいい人だぁ...

「それは横に置いといてください」

「そうか、じゃあ帰れ」

あ、ダメだなこりゃもう。

おねーちゃん。無理強いしてもだめだよ?次の人探そう?

「うぅ...」

ゆらゆらとおねーちゃんは立ち上がって、扉までトボトボと歩いていきます。

そして最後に挨拶。

「ご迷惑お掛けしました...」

おじゃましましたー。

「.........気をつけて帰れよ」

この男は聖人か。惜しい人を逃しちゃったね...

「はい...」

バタン。っとドアが閉まる。


閉まったドアの前で、おねーちゃんは少し落ち込んだ。冬の冷たい空気も合わさって、更にその上に物悲しさがのし掛かる。でも、僕たちは立ち止まっては居られないのだ。

...さーて、先ずはここを出て、次の作戦考えよう。

「おねーちゃん。とりあえず外に出ようよ。これ以上あの男の人に頼っても仕方ないから」

「うん、...そうだね」

声を押し殺したような返事と鼻をすする音がした。

あー泣いちゃうのは辛いなー。自業自得なんだけどさー...

「ところでさーカイくん」

「なーに?おねーちゃん」

「ここ、何処だろね...」

「あっ」

冷たい風が、僕たちの前をひとしきり去っていきました。

一部が、僕たちの心を笑いながら冷やして通り抜けていったような気がします。

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