第6話

勇者となった私が、ユリに転送された後。


私は、王国騎士のレオンと出会った。


歳は私と同じくらいに見える。


どうやらレオンは、ユリの言っていた私と一緒に魔王を倒しに行く人物らしい。


つまり仲間。


そんなレオンと2人で、私は魔王への道のりを歩いていた。


「幼馴染み? 」


「そう、水留真央っていうの。知らない? 」



私は歩きながら、すっかり忘れていた真央のことを聞く。


「…悪いが知らない。」


「そっかー。」




…多分一緒にこっちにきたと思ったんだけどなー。




私は、そんなことを思う。


「…心配なら、捜し人として捜索してもらうことも可能だが、そうするか? 」


「いや、大丈夫! あいつ何でも出来るし、結構強いからなんとかなるでしょ! 」


「…そうか。」



私の言葉を聞いて、レオンはそう言う。


「そんなことより、魔王を倒せって言われたけどレオンは魔王がどこにいるか、知ってるの? 」


「魔王が今どこにいるかは知らないが、魔王が向かう場所は分かる。それから、俺達の任務は魔王を倒すことではない。」


「あれ? そうだっけ? 魔王が向かう所ってどこ? 」


「覚醒の地だ。俺達はその地で魔王が覚醒するのを阻止するんだ。」


「……倒してもよくない? 」


「駄目だ。魔族をおさめる者がいなくなる。それはそれで困る。」


「ふーん。」




…ちょっとよく分からないなぁ……。


だって魔王は倒すものだと思ってたし……。



「…お前、理解していないだろう。」



私の思いを見透かすように、レオンはそう言う。


「いいか、知ってると思うが魔王はな─。」



そう話していたレオンが突然言葉を切り、私の腕をつかんで引っ張る。


「わっ! な、何!? 」




キィィン!




次の瞬間には、私の前に立つレオンが剣で攻撃を受けとめていた。




ザシュッ。



そして、襲いかかってきたものを斬った。


「あ、ありがとう…。」



突然のことに驚きながらも、私はそう言う。


「怪我はないか? 」


「うん。」




ザザッ。



そんな会話をする私達の周りに、さらに5体の何かが現れる。


「何なの、こいつら? 」


「魔族だ。」



そう言って、レオンは剣を構える。


「なるほど。」



私もそう言って、剣を抜く。


「何してる。」


「まかせといて、勇者の私がパパッと倒してあげる! 」



そう、私は勇者!



そう思いながら、私は剣を振り上げて魔族へと向かっていく。


「うりゃあああ! 」


「おい! 」



だけど。


「おっと。」



私の剣は簡単に避けられてしまった。


「ま、まだまだぁ! 」



私は負けじと、剣を振り回す。


剣の扱い方なんて知らない。


運動神経が良い訳でもない。


でも、私は勇者。


ユリという女神に選ばれた勇者なのだ。


不思議な力くらい授けられているでしよ!




しかし、剣は空を斬るばかり。



キィィン!




そしてついに、私の剣は魔族に弾かれてしまう。


「終わりだ、人間。」


「えっ…。」



魔族が剣を振り上げそう言う。



私に不思議な力なんてわきあがる気配はない。


代わりに沸き上がってくるのは、死への恐怖。


もう駄目だ、と目を閉じたその時。




ガキィィン!




剣がぶつかる音がする。


「ちっ! この─。」




ザシュッ。




剣を受けとめられ、不快な表情になった魔族を斬ったのは。


「…生きてるか。」



レオンだった。


「う、うん。」



そう言う私に、レオンは私の剣を渡す。


「さがっていろ。」




レオンはそう言うと、1人で魔族を倒した。
















「では、ごゆっくり。」



そう言って部屋を貸してくれた女性は、扉を閉める。


「す、凄いぞ! 本当にバレなかった! 」



女性がいなくなった瞬間、騒ぎだすマリー。


「なかなかやるではありませんか、真央。」


「いや、俺は別に…。」


「いえ、本当に凄いですよ真央さん。」


「はあ…。」



マリーほどではないが、サナさんとシリルさんも少なからず興奮している。


俺はそんなにたいしたことはしていないんだが。



今日の宿を決める時に交渉したのと、3人が魔族だとバレないようにつのを隠す帽子でもかぶったらどうだと言っただけだ。


どうやら、これまでは空き家などに泊まっていたらしい。


「でも何で1つしか部屋を借りないんだ? ベットだって2つしかないし、不便だろ? 」


「何か問題あるか? 」


「ありませんね。私とマリー様の2人分あればいいので、ベットの数は足りています。」



俺の質問に、当たり前のようにそう答えるマリーとサナさん。


「真央さん、私は外、真央さんは中でお願いします。交代するときはお知らせします。」


「…何が? 」



そう聞きつつも、返ってくる答えは薄々予想できた。


「見張りです。」





















「…食べろ。」



俺がそう言って焼いた肉を差し出すが、唯はうつ向いたまま顔をあげずに拒否する。


しかたなく、俺はため息をついて肉を食べ始める。


日中、魔族に襲われた後からずっとこんな調子だ。



唯はここまで来る途中、自分は違う世界からきたと言っていた。


自分のいた世界は魔族なんていない世界で、剣なんて勇者になってからはじめて握ったと。


そんな話を聞いても俺は半信半疑だが、とりあえずそういうことにすると唯の着ている見たことない服は納得がいく。



「…日中のことは気にするな。」



自分の不甲斐なさに落ち込んでいるのか、魔族が怖かったのか、その両方なのかよく分からない唯に、俺はそう言う。


「…だいたい、そんなに怖いなら、何故向かっていった。」


「……怖くなかった。」


「は? 」


「何の力もない勇者なんて……。」



どうやら自分の不甲斐なさに落ち込んでいるらしい唯は、段々言葉に力が入る。


「……剣は鍛練すればなんとかなる。それに、俺もいる。そう悲観的になるな。」


「無理だよ! 」



俺の言葉を聞いて、唯はうつ向いたままそう叫ぶ。


「真央ならそれでも出来たかもしれない。でも、私は無理だよ! 勉強が出来る訳でもなければ、運動が出来る訳でもない! 」




…真央?


ああ、探しているとかいう幼馴染みか。




「…落ち着け。」


「…何でユリは真央を勇者にしなかったんだろ。真央の方が頭もいいし、剣だって……勇者向きだよ。」



俺の言葉を無視して、話続ける唯。


「…それはお前が、その剣に選ばれたからではないのか。」


「こんなの、触ったのが私ってだけだよ。もう勇者なんて無理だよ……真央なら……。」


「その幼馴染みは今いない。」


「分かってるよ! そんなこと! 」



そう言う唯は、もう完全に心が折れてしまったようだった。


「…お前が勇者をやめるというなら、俺は止めない。」


「えっ。」



俺がそう言うと、唯は顔をあげる。


「もう少し歩けば村がある。その村で暮らせばいい。」



唯の戦闘能力は皆無だ。


その上心まで折れてしまったのなら、勇者であろうと連れていく意味はない。


「幼馴染みはお前のように珍しい奴なんだろう? それなら村にいたって、噂ぐらいは流れてくる。」


「…レオンはどうするの。」


「俺は1人でも魔王の覚醒を止める。」


「どうしてそこまで…。」


「魔王の覚醒は世界の終わりだ。誰かが止めなければいけない。」



俺がそう言うと、唯は黙りこむ。



「……ただ俺は、剣が幼馴染みではなくお前を勇者として選んだのは、偶然や間違いなどではないと思っている。」



…俺も諦めが悪いとでも言うべきか。


こんなこと、唯に言っても仕方がない。



「…まあいい。それ食べて寝ろ。」


俺はそう言って、唯に背を向け横になった。




【つづく】

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