第5話
「…俺は、水留真央。」
そう言いながら人間─真央は、私の手を握り返す。
「よろしくな、真央。」
「ああ。」
そう言って、私達は手を離す。
「あと、こやつらはサナとシリルだ。」
私が2人を見ながらそう言うと、2人はよろしくと頭を下げる。
サナは少し不満げだ。
「では行くぞ、真央。」
そう、私にはゆっくりしている時間はないのだ。
「…どこへ? 」
「覚醒の地だ。」
ユリ様の命により、俺は勇者と共に魔王の覚醒を止める任務をすることになった。
その勇者に選ばれた奴と、この待ち合わせ場所で会うはずなのだが……。
「よしっ、それでは魔王を倒しに行きますか! 」
今まで俺以外誰もいなかったはずのこの場所で、突然そんな言葉が聞こえた。
しかも岩を隔てたすぐ後ろから聞こえる。
ザザッ。
すぐさま声のする方を確認すると、そこには見たことのない服を着た少女がいた。
俺と少女は数秒間向き合ったまま、何も言わずに固まる。
「…お前、何者だ。」
驚いていた俺は我にかえり、そう言いながら剣を抜く。
この場所に人はめったに来ない。
だからこそ、勇者との待ち合わせ場所に指定されたのだと思う。
なのにこいつはここにいる。
しかもいきなり現れた。
妙な服も着ているし、怪しすぎる。
「えっ? ちょ、ちょっと待って! 何か分かんないけど、とりあえず殺さないで! 」
「…なら質問に答えろ。」
俺がそう言うと、少女は少し安心した表情をする。
「私は…坂口唯。」
「…何故ここにいる。」
「それは、勇者に選ばれたから。」
「…は? 」
俺は、少女の言葉に耳を疑った。
「勇者? お前が? 」
「そう! 」
そう言って、少女─唯は胸を張る。
「あ、そういえばユリに誰かと会えって言われたんだ。」
そして、突然思い出したようにそう言う。
…勇者?
この怪しすぎる少女が?
でも、ユリ様のことは知っているみたいだ。
呼び捨てにしているが。
それによく見ると、勇者の証である剣を持っている。
「…お前、本当に勇者なんだな? 」
俺は剣を下ろしてそう聞く。
「そう言ってんじゃん。てか、あんたこそ誰よ? 」
「俺は、王国騎士のレオン・デュフナーだ。」
「騎士!? へぇー、初めて見た…本物の騎士…。」
そう言って、唯は俺を見る。
「で、えっと…レオ…いや、デュフ…。」
「レオンでいい。」
「レオンはどうしてここにいるの? 」
「俺は…勇者を待っていた。」
「そうなんだ。…ん? それって…。」
そう言って少女は、少し考える。
「ユリの言ってた人って、レオン? 」
「…そうなるな。」
「そうなんだ! よろしくね! 」
笑顔でそう言う唯を前に、俺は不安しかなかった。
…本当に大丈夫なんだろうか。
見たところ、唯は戦闘能力がありそうに見えない。
大体、危機感というものが唯からは感じられない。
「…ああ。」
そんなことを思いながら、俺は唯と歩き出すのだった。
[つづく]
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