第4話

外に出ると、そこには沢山の魔族と思われる死体が転がっていた。


「こんなに来てたのかよ……。」


俺はそんなことをつぶやきながら、歩いていく。



「やめろ! 」



するとその先で、聞き覚えのある少女の声が聞こえる。


「やめろ? 誰のせいでこいつがこうなっているのか分かってて言っているのか? 」



会話の聞こえる方へ行ってみると、そこにはさっきの少女と女性がいた。


少女の目の前には多分敵のリーダー格だと思われる魔族が立っている。


女性の方は、他の魔族に首を締めつけられていた。



「くっ……に、逃げてください…マリー様! 」


「嫌じゃ! 」


「言うことを聞いてください、マリー様! 」


他の魔族と戦いながら、さっき部屋を出ていった男性もそう言う。


「嫌だと言ったら嫌じゃ! お前達を置いて逃げるなど……出来るわけがなかろう! 」


だけど、少女は2人の言葉に泣きながらそう答えて従わない。


「そうだ、最初から大人しく殺されていればよかったんだよ。まったく……1人じゃ何も出来ず、使い魔も召喚出来ない奴が魔王なんて笑わせる。」


「…っ、黙りなさい! マリー様は紛れもなく、先代魔王マーシャ様の血を受け継いでおり、魔王となるお方です! 」


「はっ、なら力を使って少しは反撃でもなんでもしてみろよ。」



女性の言葉を聞きながら、そう言って魔族は持っていた剣を振り上げた。




このままだと、あの少女が斬られてしまう。




そう考えた時、時間が遅く進んで見えた。


少女の従者は助けに行けない。


女性は魔族の手から逃れようと必死にもがいているが、魔族もなかなか離さない。


男性の方も、魔族達に阻まれて少女のところへ行けない。


今、少女を助けられるのはー。





俺だけだ。





そう思った瞬間、俺は走り出した。


「無理だろうけどな! 」


そう言って、魔族は少女へと剣を降り下ろす。


「っ! 」


少女はその場を動かず、強く目を瞑った。



ガキィィン!



「…くっ……。」


「…っ……なんだ、お前。」


降り下ろした剣をとめた俺に、魔族は顔をしかめながらそう聞く。


「お前…何故…。」


異変に気づいた少女も目を開け、そう呟いた。



……何で、か。


それは俺にも分からない。


この状況で、俺はまだ迷っている。


この少女を助けることが、本当に正しいことなのかと。



「くっ……。」


「な、何をしている! 早くそこをどけ! 死にたいのか! 」


魔族の剣に押し負けつつある俺に、少女はそう叫ぶ。



……この少女はいずれ魔王となる。


考えてみたけど、やっぱり魔王は悪だ。


だけど、もしかしたらこの少女はー。



「…っ、動けたら苦労しないんだよ! つかお前、力が覚醒していないだけで本当に魔王なんだな!? 」


俺は魔族の剣を押し返しながら叫ぶ。


「……そうだ。」


「じゃあ約束しろ! 」


そう言いながら俺は魔族の剣を跳ね返し、斬った



…ッ、キィィン! ザシュッ。



「ぐっ……! 」



「はぁ…はぁ…魔王になっても、人間滅ぼ…いや、世界滅ぼすとか、魔族に従えとか、言わないって。魔族の王として、魔族をまとめるって。約束出来るなら……俺はお前を助ける。」



魔族がよろけて膝をついている間に、俺は少女にそう言う。



「なっ…。」


少女は俺の言葉に、驚いた表情をする。


「どうする? 」


「そんなの簡単だ。」



俺の問いかけに答えたのは少女ではなく、さっき俺が斬った魔族。


「お前らが死んで、俺が魔王になる。」


魔族は立ち上がりながらそう言う。



ガキィィィン!



そして、俺たちへと剣を降り下ろす。


それを俺はまた受け止める。



「ガキが…さっきは油断したがそいつと一緒に仲良く切り刻んでやる! 」


「っ…、どうする! 」


俺はさっきより重い魔族の剣を受け止めながら、再度少女に問いかける。


「お、お前がそいつに勝てるわけなかろう! 」


「勝てる! 」


「何を根拠にそんなことを……。」


「こいつは、俺よりも弱い! 」



……多分。


つか、勝たないと俺も死ぬ。



「ふん、寝言は寝て言え、ガキ。」


魔族はそう言いながら、さらに力を強める。


「くっ……。」



……やっぱり無理かもしれない。


そんな考えが頭をよぎったその時。



「…よかろう。その約束、交わそう。」


そう言いながら、後ろから少女が歩みよってきた。


「お前だけで勝てるわけなかろうが。」


そしてため息混じりにそう言うと、俺の持っている剣に触れた。




ブワッ!





するとその瞬間、剣についている3つの宝石のうちの1つが赤くなり、剣からなにか力のようなものを感じる。


「…私の力を貸してやる。」




…いける!




「…っあああ! 」


そう思った俺は魔族の剣を跳ね返し、魔族に斬りかかる。




ガキィィィン!




だが今度は、魔族が俺の剣を受け止めた。


「ふざけるな…お前、一体何なんだ! 」


「…あいつの使い魔。」



そう言いながら、俺はもう一度剣を振り上げる。




「冗談はやめろ。あの出来損ないが使い魔を召喚なんて出来るわけないだろう。」



魔族もそう言って、俺に攻撃をしようとする。



「出来たんだよ。」


そう言って、俺は剣を降り下ろした。



ガキィィィン!



だが、魔族はまたそれを受け止める。


「…それが本当だとするなら、お前に俺は斬ることなんて無理だな。あの出来損ないの使い魔、お前の実力などたかが知れている。」



「……いや。」




ギギギ……ピシッ。




俺が口を開くと同時に、魔族の剣にひびが入る。


「その出来損ないの力のせいで、あんたは俺に斬られるんだよ。」



ピシッ…ザシュッ!



そう言いながら、俺は剣ごと魔族を斬った。


「な…。」


今度はちゃんととどめをさせたらしく、倒れた魔族はもう起きあがってくることはなかった。


「マリー様! 」


そう声がする方を見ると、少女が女性に泣きながら抱きつかれていた。


どうやら、男性が他の魔族を全て倒したらしい。


その様子を見ていた俺に少女が気がついた。


「…礼を言う、人間。」


そして、そう言いながら俺の方へと歩み寄って来て、右手をさし出した。


「私の名はマリー。先ほどの約束は必ず守ろう。だからお前は、私の使い魔として、私と契約しろ。」





俺はさっきまで迷っていた。


悪と言われる魔王を助けることが本当にいいことなのかと。


だけど─。





だけど、もしかしたらこの少女──マリーは、そんなに悪い奴じゃないのかもしれない。





「……俺は、水留真央。」


そう言いながら、俺も右手を差し出した。



【つづく】

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