第3話

幼なじみの唯のとんでもない思いつきで、変な強い光に包まれた後。


俺は何故かどこかの家の部屋にいた。


しかも、目の前には服装からしてそれなりに身分が高いと思われる少女とその少女の従者だと思われる20代前半くらいの女性がいる。



「えっと……ここ、どこ……ですか? 」



2人が何も言わずに固まったままなので、俺はとりあえず話しかけてみる。



「しゃ、喋った! この使い魔、喋ったぞ! サナ! 」


「そ、そうですね……。」


「……使い魔? 」



目の前で目を輝かせながら話す少女の言葉に、俺は首をかしげる。




「どういうことだ、使い魔って。」



俺が立ち上がりながらそう言うと、2人は少し後ずさる。



「つ、使い魔ではないのか? 」


「いや、だからー。」


「人間、ですね。」



少女の質問に俺が返そうとしたのを遮り、2人とは別の人物が部屋に入ってきてそう言う。


今度は30代くらいの男性で、執事という感じだった。



「「人間!? 」」



男性の言葉に2人は驚いてそう言う。


まるで、自分達は人間でないかのような反応だ。



「まあ……つか、あんたらも人間だろ。」


「なっ! 無礼な! 口を慎みなさい! 」


「よい、サナ。使い魔を知らんのだ、もしかしたらとてつもなく常識を学んでいない奴なのかもしれん。」



そう言いながら少女は俺の方へ歩みより、こほん と一回咳払いをする。



「私達はお前と同じ人間ではない。魔族だ。」


「……魔族? 」


「魔族も知らないのですか!? 」



俺の言葉に、女性は驚きながらそう言う。



「いや、使い魔とか魔族は知ってる。」



知ってるけど、それはアニメやゲームなどの創作物の中での話だ。



使い魔扱いされたり、自分は魔族だと自己紹介された経験はない。




「何だ、知っておるのか。」


「まぁ……ただ、状況が掴めないだけだ。」


「なるほど。そうだな……お前は私の使い魔として召喚された。これでどうだ? 」


「いや、全然掴めない。」


「やはり人間、低能ですね。」


「サナ、分かりやすく説明してやってくれ。」


「はい。」



俺は、訳の分からない状況で2人に馬鹿にされる。



「……まずですね、私達は使い魔を召喚していたんです。」


「うん。」


「どんな使い魔が出てくるかと待っていたら、魔方陣の中から出てきたのは貴方だったんです。」


「うん。」


「……つまり、貴方が使い魔ということです。」


「…………誰の? 」


「私だ。」


胸を張りながら、少女はそう言う。



「そうです、貴方は光栄なことに魔王の使い魔として召喚されたということです。」


「魔王? 誰が? 」


「だから私だ。」


そう言われて目の前の少女をよくみると、確かに頭に角のようなものが生えている。



「ですがこの人間、本当に役に立ちますでしょうか……。」


「うむ……。」



なんとか状況を理解した俺の前で、そんなことを話す2人。


するとその時。




ドーン!




外で何やら大きな音がする。



「……奴らです。」


「またか。」



窓から外の様子を見た男性が言葉に、少女はため息混じりにそう言う。



「逃げましょう! 」


「ああ。……人間、お前は好きにしろ。」


「え。」


「いいんですか!? こんなでも、初めて召喚出来た使い魔じゃありませんか! 」


「よい、行くぞ。」



俺に散々言うだけ言って、2人は行ってしまった。



「何なんだよ……つか、唯はどこだ? 」


「逃げないのですか? 」



突っ立ったままの独り言を言う俺に、男性がそう聞く。



「……つか、何から逃げてんの? 」


「魔族です。」


「は? お前らも魔族なんだろ? 」


「マリー様が魔王というのは聞きましたよね。」


「マリー様? あ、ああ。」



あの少女のことか、と思いながら、俺はそう言う。



「まだマリー様は、力が覚醒していないのです。18歳になれば覚醒すると思われますが……。そればかりか、歴代魔王の中でも覚醒前の力が弱い。そこで、それを補う使い魔の召喚に幾度となく挑戦した結果……。」


「俺が出たと。」


「そうです。今、魔族をおさめる魔王のイスは空いています。それもマリー様が覚醒すれば問題ないのですが……。」


「つまりあれ? 襲ってきている奴らは、魔王殺して俺が魔王になってやるっていう。」


「そうです。……で、貴方はこれからどうされるのですか。」


「どうって……。」



まずここは、俺が元いた世界とは違うと思う。


魔族なんて言葉が普通に使われてる時点でそうだ。


それに、一緒にいたはずの唯の姿が見当たらない。



「マリー様はああ言いましたが、貴方は召喚された時点でマリー様の使い魔です。そうですね……人間なら、この剣が扱えるのでは? 」



そう言って、男性は俺に布で包まれた剣を渡す。


布を取ると、中から銀色の剣が出てきた。


抜いてみると、窓から射し込む光が反射して光った。



「やはり貴方は抜けるんですね。それは魔族を倒せる剣です。私達魔族には、その剣は抜けません。」


「へぇー。」



男性にそう言われるものの、俺はあっさり抜けたので実感がわかない。



「その剣を使って、マリー様を守る。というのが、使い魔としての貴方の使命です。」


「は? 」



剣を鞘に戻しながら、俺は混乱する。


確かに、この訳の分からない世界ではこいつらの所にいたほうが安全かも知れない。


だけど、あの少女は魔王だと言った。


俺が知っている魔王は、世界を闇に染めてやるとか、人類を根絶やしにしてやるとか、とりあえず悪の中の悪だ。


そんな奴の手助けをしていいのだろうか。



「……あとは、あなたが決めてください。」



混乱する俺を置いて、そう言って男性も部屋を出ていってしまった。


この剣は魔族を殺せる……てことは魔王も……?


でも…………あんな女の子を殺すのか?


というか、あの子が魔王?



「……何かごちゃごちゃしてきたな。」



どうすればいいのかさっぱり分からなくなった俺は、とりあえず剣を持って外に出た。



【つづく】

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