第2話

「よく来てくれました、勇者。」



目の前に現れた茶髪をポニーテールにしている少女に私はそう言う。



「勇者? 私が? 」


「はい。」



私がそう返すと、少女は目を一気に目を輝かせた。



「うそ! 本当に? これってあれじゃん! 選ばれし者って奴じゃん! 」


「それで、貴女にはこれから……。」


「あれ? でも勇者って戦ったりするよね? 私運動能力皆無だけど……そこはなんとかしてくれるのか! 不思議な力で! 」




ところが、少女は私の話の続きを聞いている様子がない。


仕方なく、こほん と一回咳払いをするとようやく少女は我にかえる。



「……そこで、貴女には勇者として世界を救ってもらいます。」



私のその言葉に、少女は再び目を輝かせる。



「まっかせといて! なんか勇者らしくなってきた! 」



そう言うと、少女はまた自分の世界に入ってしまう。



「……貴女には、魔王の覚醒を阻止してもらいます。」


「てことは私、世界を救った英雄になるんだ! 」



そして、また私の話を聞いていない。



「…………ねぇじい、もしかしてこの人、間違ってここに来たんじゃ……。」


「鍵は持っておられますし……やはり鍵に選ばれた者ではないかと……。」



確かに、じいの言うとおり少女は鍵を持っている。


その鍵は歴代の勇者を選んできた鍵で、勇者にしか使えない。


ということは、やはりこの少女は勇者ということになる。



私は少女の意識をこちらに戻す為に、もう一度咳払いをした。




ヴンッ。




とりあえず、少女の意識がこちらに向いたので魔方陣を出して話の続きをする。



「……そこにある魔方陣にその鍵をのせなさい。」


「鍵? あ、これか。」



そう言いながら、少女は持っていた鍵をのせる。




パァアアア……。




鍵をのせた途端、魔方陣の光は強くなる。


少し待てば、この勇者に必要な物が出てくるはず。



「うおっ! 」


「そういえば、まだ名前を聞いていませんでした。私はユリ。隣にいるのがじいのコルク。貴女は? 」


「私は坂口唯です! 」




パアァァァ……。




お互いの自己紹介が終わった頃、魔方陣の光が弱くなり、赤い宝石がついた金色の剣が現れた。


さっきの鍵が剣になったのだろう。


鞘は黒い。



「では唯、それは貴女の物です。その剣を持って、勇者として世界をー。」


「おおー! 凄い! これ凄く勇者っぽい! 」



そう言いながら唯は、剣を手に取り眺めている。



「……じい、勇者選び直したほうがいいかしら。」


「うーむ……ですが魔王の覚醒まで時間がありませぬ……。」


「それもそうね……。」



ため息混じりにそう言いながら、私は唯の足元に魔方陣を出す。





ヴンッ。




「……唯、これから貴女を転送します。」


「いよいよ勇者として世界を救うんでしょ! まかせといて! というか、1つ聞いていい? ユリ……様は女神なの? 」


「まあそうです。」


「凄い、本物の女神……初めて見た……。」


「それより、転送先に貴女の力となってくれる人物を待たせているので必ず合流してください。」


「いよいよかー、いよいよ私が勇者に……。」


「それから、その剣のことですが最初はうまく使えないと思います。コツを言うなら、気持ち が大切です。」



後数秒で転送される唯にそう言うものの、唯は聞いている様子はない。





……パシュッ。




そんなこんなしている内に、唯は転送されてしまった。



「……じい、やっぱり勇者選び直したほうがよかったかしら。」


「まだ始まったばかりですし、少し見守ってみましょう。」
















女神ーユリに勇者になってくれと言われた後。


私は剣を1つ持たされ再びあの魔方陣で転送された。


転送されたのは、何故か森に囲まれた草原の中心。


背後には大きな石がある。



「よしっ、それでは魔王を倒しに行きますか! 」



私がそう言って、一歩踏み出そうとすると。




ザザッ。



背後で突然物音がし、私は咄嗟に振り返る。


そこにいたのは、刀を帯刀した赤い髪の男性だった。



【つづく】

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