第1話

「ふわぁぁ……ねむ。」


「どうせまた、夜更かししたんだろ。」



あくびをしながら歩く私 坂口唯さかぐちゆいの隣で、そう言う彼は幼なじみの 水留真央みずどめ まお


私達は家が近いので、よく一緒に登下校する。


最近は真央が剣道部の練習があるからその回数は減ったけど、今週はテスト期間で部活も休みだ。


なので今日もこうして、一緒に登校している。



「だって、面白いから続きが気になって寝れなくて、結局全話見てから寝たんだもん。」


「ふわぁぁ……またアニメか? 」


「うん。てか、真央も眠そうだね。」


「ん……ちょっと最後の敵に手こずった。」



少し伸びをしながらそう言う真央。



「最後の敵って、もしかして私が貸したゲーム? 」


「そう。」


「ええっ!? もう最後まで行ったの!? 」


「いや、もうクリアした。」


「嘘!? ……相変わらず早いね…………。」



真央はとにかく何でも出来る。


運動も勉強も評価5、みたいな欠点を探したくなる奴だ。


最初は私が教える立場だったゲームでさえも、すぐにコツをつかんだ。


今では、時間があれば2週間以内には1つのゲームソフトをクリアしてしまう。



「でも、テスト終わるまでは俺が預かってるからな。返したら勉強しないだろ、お前。」


「はいはい、分かりました。」


「つか、アニメ見てたって言ってたけど今日のテスト大丈夫なのかよ。」


「そ、そういう真央はどうなのよ。」



全く大丈夫ではないことはきっと、真央はお見通しだと思うけど私はごまかすようにそう聞いた。



「俺はゲームやる前に軽いまとめをしたから平気だ。」


「さっすが真央。で、どんな何を覚えとけば大丈夫なの? 」



私がそう聞くと、真央は呆れた顔をしてため息をついた。



「……少しは勉強しろよ。」





ヒュオォォォ……。




「う゛。」


「俺だって、いつまでもお前と同じテスト受けるわけじゃないんだからな。」




そう、私達は高校3年生。


来年には別々の大学に進学する予定だ。


私の学力で、まず真央と同じ大学なんて無理だしね。



「わ、分かってるわよ。」






ヒュオォォォォ……。




「でも今日は教えて。」


「お前なぁ……。」



真央が、呆れながらそう言ったその時。






ヒュッ…ドーン!





突然、私達の目の前に何かが落ちてきた。



「「え。」」



突然の出来事に、私達は会話を中断して何かが落ちてきた方向を見る。


落ちてきた物の衝撃で煙が立ち込めていたけど、それも徐々に晴れてきた。



「……何だこれ。」



煙が晴れた所にあったのは、地面に刺さった……鍵?


私と真央はしゃがんでそれを見る。



「鍵……かな? 」



刺さっているそれは、金色で赤い宝石がついた鍵のように見える。





「いや、そうかもしれないけど何でここに刺さってんだよ。」


「そりゃあ、さっき落ちてきたのがこれだったんでしょ。」


「誰が落とすんだよ、こんな所に。」



真央はそう言いながら、鍵を指す。


確かに、私達の頭上には空しかない。


近くにマンションとか高い建物もないし、第一、この鍵は道路の真ん中に刺さっている。



「飛行機? 」


「いや、ないだろ。」


「まあ、よく分からないけどまずは抜いてみようよ。」


「はぁ!? 」



私の提案に、意味が分からないという顔をする真央。



「だって、本当に鍵だったら……。」


「……だったら? 」



そう、こんな所に偶然落ちてくるなんて考えられない。


……だとしたら。



「異世界に行けちゃうかもよ! 」


「はぁ!? 」



目を輝かせる私に、真央は再び意味が分からないという顔をする。



だって、偶然じゃないなら、必然。


つまり、私達は選ばれし者ってことじゃない?


しかもこの鍵、凄く異世界に連れて行ってくれそうな雰囲気だし!



「ね! 早く触ってみて! 」


「あのなぁ……。」



真央は呆れながらも、鍵に触った。


……が。



「………ほら、何も起きねぇ……ぐ…それに、抜けねぇ。」



満足したか、という感じに真央は鍵から手を離し、そう言う。



「まあ……そうだよね……。でもちょっと残念だなー。」



そう言いながら、何の気なしに私が鍵を触ると。






ヴンッ!




突然地面に、白く光る大きな魔方陣みたいなものが現れる。


軽く触っているだけなのに、鍵は奥に刺さっていっている気がした。


……もしかしてこれは!



「な、何だ!? 」


「異世界だよ! やっぱり異世界に行けるんだよ! 」



驚いている真央に、私は鍵を握りながらそう言う。



「行こう! 真央! 」



そう言って、私は真央の腕を掴む。




ヴンッ!





すると、それと同時に今度は黒く光る魔方陣が現れた。



「はぁ!? つか、お前異世界なんか行って何すんだよ! 」


「なんか楽しそうじゃん。」


「楽しい世界じゃなかったらどうすんだよ! つか学校! 」


「なんとかなる! じゃあいくよ! 」



多分鍵だから、こうすれば!


私は、地面に刺さった鍵をドアを開けるように動かした。







カチッ。





すると、突然私達は強い光に包まれる。



「眩しっ! 」


「うわっ! 」





そして、完全に周りの景色が見えなくなった。

















一方その頃。


何かの気配を察知した一人の女性が、はっ と顔をあげる。


偉い立場なのだろう、高い台座に座り、着ている服も気品を感じる物だ。



「いかがされました? ユリ様。」



女性につかえている男の老人がそう問う。



「……来るわ。」


「来る? ……はっ、もしや! 」


「ええ。新しい勇者が。」
















「今度はうまくいくかのう……。」



そう言いながら、一人の少女は目の前にある黒く光る魔方陣を見つめる。


年齢は12歳くらいだろうか。



「大丈夫です! マリー様ならきっとできます! 」



少女の隣で、20代前半くらいの女性がそう言って励ます。



「だといいがのう……。」


















「……っ。」



突然強い光に包まれた後。


次に私が目を開けた時に見たのは、通学路じゃなかった。


目の前には何だか女神みたいな人が台座に座っている。



「ここ……どこ? 」



私がそう口にするのと同時に、女神みたいな人が立つ。



「よく来てくれました、勇者。」



【つづく】

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