第2話 曲がり角の先で


 あの檻にどれくらいの間捕まっていたのかは、わからない。

 ただひたすら怯え、孤独で、腹ペコだった。


 僕は、緑色の檻の隙間から見える青い空に向かって、謝り続けていた。

 あんな風にみんなに見せびらかしてごめんなさい、と。



 反省したのが良かったのかもしれない。

 ある日、檻の扉がパッカリ開いて、僕を自由にしてくれた。


 ふらつく体で、僕は再び飛び立った。

 檻の気分が変わって、やっぱり閉じ込めておこうと思われたら大変だからだ。


 どんよりとした空が広がる、薄暗い日だった。



 しばらく飛んでいなかったからなのか、ハネがとても重たかった。

 それに、お腹がぐうぐう唸る。しかもそこは、僕の知らない場所だった。


 僕は花を探して、必死にハネを動かした。花はあっと驚く場所にいることもある。

 だから、狭い隙間も隈なく探した。


 でも、どこにもいない。あるのは硬くて冷たい、灰色の地面だけ。



 そのうち、空から何かか落ちてきた。それは、冷たくて大きくて、痛かった。

 雨だ。

 雨が降ってきたんだ。


 雨から身を隠さないと、いつか動けなくなる。

 それは小さい時からよく知っていることだったから、僕はせめて雨宿りをできる場所はないかとあたりを見回した。


 それすら、なかった。



 僕はとても疲れ切っていた。

 ハネを一振りすることが、とてつもなくむずかしかった。雨と一緒に力が流されていくみたいで、恐ろしかった。

 自信満々に飛び回っていたのが嘘みたいだ。


 もう、二度とあの青い空に飛び込むことはできないのかもしれない。


 そう思いながら曲がり角を曲がったその時。


「蜜もあるし、雨宿りもできるから……。諦めないで」

 幻聴かと思うほどに静かな声だった。


 それは、小さなピンク色の花だった。

 控えめな花びらを精一杯に広げて、僕を助けようとしてくれている。


 ポッと心が温かくなった。少しだけ力が湧いてきて、なんとかそこまで飛ぼうと僕は決心した。


 弱々しく飛ぶ僕を、彼女は小さな体ながら、しっかり受け止める。

 柔らかい彼女の匂いが、僕をそっと包んだ。

「ありがとう」

 ドッとあふれる疲労の中、僕は感謝の気持ちでいっぱいになる。


 それが、僕と彼女の出会いだった。

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