7-6  判別できる

 おじいさんが話した、由之助さんのこと。

 その内容を端的に言うと、由之助さんがアヤさんの近くにいるときに、アヤさんが『神宿る目』になると、それに同調するように、自然と、由之助さんの目の色も変わったんだそうだ。


 そもそも、由之助さんも目の色が変わるということがわかった切っ掛けがこの現象だったようだ。

 アヤさんと由之助さん、二人で妖魔の探索をして、山に入っているときに、近くで妖魔現象がおこった。

 その、現象の放つ雰囲気で、アヤさんの目が『神宿る目』へと変わる。


 その時、ふと、アヤさん、隣にいる由之助さんの気の質が変わったような感じがした。

 それで、由之助さんを見ると、由之助さんの目の色が、深いセピア色になっていたんだそうだ。


 で、『あら、あなたの目の色だって、変わるんじゃないの』っていうような感じだったらしい。


「まあ、そういうことらしいんだな…。

 龍平君がそこまで同じなんで、内心、驚いたけれどね。

 それで、龍平君、ちょっと、目の色を変えてから、このエメラルドを見て、どう見えるのかを、教えて欲しいんだけれどね…。

 あっ、もちろん、何も変わりがなくったってかまわないんだよ」


 おじいさん、最後の一言を付け足した。

 あやかさんを怒らせたくないんだろうな…。

 ちょっと、おじいさんの大変さがわかってしまった。


 それで、チラリと、あやかさんの方を見ると、まあ、それならしょうがないよ、と言うような顔をした。

 おれ、ニコッと笑って答えると、やっと落ち着いた感じのあやかさん、ニコッと微笑みを返してくれた。

 やっぱり、あやかさん、すてきだな…。


 それで、今度は、ちゃんと、気持ちをおじいさんの方に向ける。

 頼まれたことに、しっかりと答える気持ちは、相手が誰であれ、とても大切なことだと思うから。


 まず、手で感触を探るときのような感じで緊張を高めて…、

 この時は、別に、手で探っていたわけではなく、そんな感じを持つだけで、うまくできるようになっていた。

 そして、箱の中のエメラルドを見る。


 すると、驚いたことに、確かに、今までとは色が違って見えている。

 正確に言うと、違って見えたのは2つ、1つは、何ら変わるところがなかった。

 まず、その石から。


「この、まん中のエメラルドは、普通に見たままの感じ、きれいな緑色です…」


「ふ~ん、そうなのか…、これが、普通のもなのか…」

 と言って、おじいさん、指でつまみ上げ、箱の蓋に置いた。


「それで、これは、すごく濃い紫色に見えますね…」

 と、右の石を指さす。


 本当に、ビックリするくらい、普通に見るときと色が違って、透き通った濃い紫色に見えるのだ。


「そうか…、すると、これが、上質の妖結晶なんだろうな…。

 となると、これは『並』と言うことになるのかな?

 龍平君、これは、どう見えるんだい?」


「ええと…、何と言ったらいいのか…。

 元のエメラルドの色ではなく、紫っぽい色ではあるんですが…、こっちのほど濃い紫色じゃなくて…、それに、濃い紫と薄い紫がまだらになっていて…。

 薄い紫って言うのは、ちょっと藤色のような感じもしますが、白っぽいというのではなく…、透明感がありますね…」


「う~ん…、なるほどね…、すごいもんだね…。

 いや、これはね、由之助さんが、妖結晶をランクわけするときに、基準として使っていた石だったらしいんだがね…。

 妖結晶には、上質なものと、並のものとがあり、それを区別して値段をつけるということを、由之助さんが始めてね…」


「その、由之助さんが、上質なものを区別して値段をつけたというのは、聞いたことがあるわ」

 と、あやかさん。


「ああ、そうかもしれないねぇ。

 それが、うちの会社の、そもそもの、スタートだったんだからね」


「なるほど、そういうことなのね」


「まあ、それで、あとになると、『上』をさらに上と下、『並』は上、中、下に分け、それに特上の6段階に分けたんだがね…。

 そのランクわけのとき、初期のだがね、まん中に『並』の最上質のものを置いて、これより上質ならば『上』、悪ければ、『並』、右側にある最上のクラスは『特』としたんだよ。

 だけれど、由之助さんのあととなると、ランクわけも何も、これら3つの石の違いすら、区別できるものがいなかったんだよな…」


「じゃあ、わたしが聞いた、インクルージョンが少ないとか、緑が濃いとか言う、妖結晶の特徴は?」


「まあ、それは、上質なものの特徴であって、エメラルドとしても特別に上質なものはほぼ同じで…、

 いずれにせよ、そんなものはほとんどないという意味で…。

 実際ねぇ、この箱を、第2次大戦のときにひっくり返してからは、ここに、もとあったように戻すこともできなかったんだよ。

 母からそう聞いていたんで、気になっていたんだけれど…、そうか、左にあるはずの普通のエメラルドが、まん中に入っていたんだな…」


「じゃあ、このあいだ仙台に持っていった妖結晶、あれの鑑定は誰がやったの?」

 急に思い出したように、あやかさんが聞いた。


「昔、由之助さんがやったのを元にしていて…、まあ、そのままなんだな…。

 ただ、第2次大戦のときにちょっと混乱したらしくって、いろいろと紛れているらしいんだがねぇ。

 だから、本当は、ちゃんと確認したいのだけれど、できる人がいなかったからね。

 と言うことで、こんど、妖結晶全部を、龍平君に、もう一度、鑑定し直してもらいたいんだよね。

 たぶん、雅則まさのり君から、お願いされると思うよ」


 雅則は、あやかさんのお父さん。

 思いもしなかったおれの仕事が出てきた、ということなんだろうな。

 おれ、ここで、どんな仕事ができるんだろうと思っていたので、役に立つことがひとつでもあれば、なんか、すごくうれしい感じだ。


「でも、そうすると、本当のところ、妖結晶を見分けることができる人って、ほかにはいないの?」

 と、あやかさんが聞くと、おじいさんから驚くような返事が来た。


「いや、翠川みどりかわ一族の中では、稀に、見極められる人がいるらしいんだがね…」


「翠川一族?」

 あやかさんが聞いた。


「ああ、ほら、あの…、体が大きくて、妖結晶を舐めると力がでるという、あの人たち。その中でも、中心となって、全体に影響を及ぼしている一族だよ…」


「え~っ、その話も聞いたことなかったな…」

 と、あやかさん、驚いたようだった。


「うん?そうだったかな…。まあ、お前に話したのは、アヤさんを中心とした話が多かったからな…」


 あの、敵となる人たちは、この一族の人たちではないのだろうが、でも、その周囲にいる、同じような血筋の人たちであることは間違いないことなのだろう。


 その、翠川みどりかわ一族の話を、あやかさんがいろいろと聞いているうちに昼になり、おじいさんと一緒に、ご両親の方に移動した。




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 すみません、お盆休みとなります。


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