7-5  できるかな?

 それから、おいしいお茶とお菓子が出され、軽い話をしながら30分ほど過ぎたとき、お母さんがあやかさんに言った。


「そろそろ、お父さんの方に行ってみてよ。

 たぶん、今か今かと待ってるはずよ。

 それで、それが終わったら、お父さんを連れて、またこっちに来てね。

 お昼、用意しておくから」


 お昼は、近くの料理屋さんにお願いしてあるらしい。

 出前のようなものかと思ったら、あやかさんの説明では、料理屋さんの板前さんが一人来て、それに家政婦さんが加わって、ちゃんと給仕をしてくれるんで、お店で食べるような感じになるんだとか。


 その説明では、具体的な動きとしてはよくわからなかったけど、どうせあとでわかることだから、わかったような顔をしておいた。


 #


 おじいさんに紹介され、お父さんたちと同じような挨拶のあと、あやかさんの言ったとおりのことを、おじいさんが言った。


「ところで龍平君、目の色が変わるの、見せてもらえないかな…」


 今日はその話はまっだ出ていないけれど、あやかさんが話してあるんだろう。

 その他のおれの情報も、こちらでも、一通りゲット済みという感じ。


「ええ、今、やってみますね」

 と、ソファーからやや身を乗り出して、前に座っているおじいさんの方にやや近付き、目を大きめに開いておじいさんを真っ直ぐに見て、手で探るときの緊張した感覚を持ってみた。


「おお…。確かに、濃い、焦げ茶色になったね…。

 そういう色なんだね…。

 由之助さんも、そうだったんだろうな…」

 おじいさん、感慨深げにゆっくり頷きながら、そう言った。


 緊張を解き、おれ、またソファーに背中を沈めた。

 するとおじいさん、思っても見ないことを言った。


「それじゃぁ、龍平君、普通のエメラルドと妖結晶、見分けること、できるかな?」


 えっ?そんなこと、できるわけがないじゃないですか…。

 でも、どうして、『それじゃぁ』なんて接続詞を付けるんだろう?

 そうして、どうして、そんなできもしないようなことを言うんだろう。


 でも、これには、あやかさんも驚いたらしい。


「おじいちゃん、どうしてこの人に、そんなこと言うのよ?」

 やや、抗議の臭いのする言い方。

 そんなむずかしいこと、いきなり人に押しつないでよ、って感じで。


 おじいさん、逆に、ちょっと不思議そうな顔をしながらも、でも、あわてて、弁解するような感じで、


「いや、ほら、由之助さん、アヤさんのご主人の…、妖結晶を見ると、すぐに区別できたって言うじゃないか…」


「えっ? その話…、わたし、初めてよ…」


「あれっ?そうだったのかい? う~ん? そうだったのか…、それじゃ…、」


 と、そのあと、簡単な由之助さんについての話。

 由之助さん、目の色がセピア色になっているときには、妖結晶の色が普段とは違って見えるらしい。


 ほかの宝石は変化なしで、妖結晶だけ色が変わって見える。

 だから、区別が非常にむずかしい普通の宝石と妖結晶、簡単に見分けることができたんだとか。


「そうなの…、そんな話、知らなかったよ」

 と、あやかさん、ちょっと驚いた顔で。


 そうなんだろうな。

 知っていたら、もう、とっくに実験させられていただろうと思う。


 すると、おじいさん、『よっこらしょ』と立ち上がって、奥の机のところに行き、引き出しから、葉書ほどの大きさの、薄べったい、厚さ2センチほどの、木の箱を持ってきた。


 なかなか、年季の入った感じの、上質な箱。

 ソファーにかけて、その箱を、おれとおじいさんの間にある、低いテーブルの上に置き、蓋を開ける。


 中には、比較的大きなエメラルドが3つ、並んでいた。

 透き通った深い緑色で、どれも上質なものなんだろう。

 布の貼った板のくぼみに、ちゃんと納まっていた。


「龍平君。どれが妖結晶か、わかるかな?

 そうだな…、わかったら、あやかとの結婚を許してあげるよ」


 と、おじいさんが言ったとき、サ~ッと場の雰囲気が変わった。

 あやかさんから、ものすごいエネルギーが流れているのがわかる。

 ビリビリとするくらいの強い緊張感。


 驚いてあやかさんを見ると、その瞳が、赤い茶色に輝いていた。

 そして、その輝きは、金色となりキラキラとしている。


 初めて見たけれど…、これが、あの『神宿る目』なんだろう…。

『神宿る目』…。

 確かに、そんな表現が、ぴったりとする凄まじさがある。


 顔つきも、全体がピンと張って、鋭い感じ。

 まあ、きれいと言えばきれい、ものすごくきれいなんだけれど…。

 でも、ちょっと恐い感じがするかも…。


 おじいさん、ビクッとして、ソファーの背に張り付いたような感じになった。


「おじいちゃん…。わたしの結婚は、おじいちゃんが許すか許さないかじゃないんだからね」

 と、あやかさん、ゆっくりとしゃべる。

 普段より、やや低い声になっている。


「いっ、いや…、わ、わかって、いるよ…、まあ、今のは、ちょっとした、言葉のあやというもので…」


 おじいさん、あわてて言いつくろっている。

 かなり動揺しているのがわかり、ちょっと、かわいそうなくらいだ。

 確かに、あの目で、真っ直ぐににらまれたら、恐いかも…。


 でも、おじいさんのその言葉を聞くと、ス~ッと、あやかさんから出る強い波動が引いていった。


「フ~ッ、あやかの『神宿る目』だけでなく、龍平君の目の色まで黒くなって、生きた心地がしなかったよ…」

 と、おじいさん。

 本当に、冷や汗をかいたみたいだ。


 あれ?でも、おれが目の色変えたのは、その前だったんだけれど、今の言葉、どういう意味だったんだろう。


 こういう疑問に対しては、大抵、あやかさんも同じように感じるらしく、また、それへの反応は、おれより早い。


「この人の目の色もって、どういうことよ?」

 まだ、ちょっと、怒ったような感じ。


「いや、だから、今、あやかが『神宿る目』になったとき、龍平君の目の色も変わって…、うん?そうか…、え~とだな…、これも、アヤさんから聞いた話なんだけれどね…」


 おじいさんは、話しているうちに、このことも、あやかさんには話していなかったんじゃないのかと気が付いて、急に昔の話をし始めた。


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