6-10  侵入のルート

「サーちゃんがいるのは、知ってると思うよ」

 と、あやかさん。

 それだけで、向こうは、慎重になるはず、ということ。


「そうですね。さゆりさんとお嬢さま…。

 その意味では、お嬢さまたちは、やっかいな邪魔者でもありますよね…」


 美枝ちゃん、急に、物騒なことを言い出した。


 でも、そういう意味では、妖結晶を狙うとすると、さゆりさんとあやかさん、これから先も、もっとも邪魔な相手、であることは確かなんだろうな…。


 そうだよ、あやかさん、やっぱり、命を狙われている可能性は否定できない。

 その辺になると、妖結晶を狙う目的と、あやかさんの命を狙うことは、もう、重なってきているんだ。


 おれ、自分の力、もっとどうにかできないのかな…。

 なんとしてでも、あやかさんを守りたい。



「今回は迎え撃つにしても…、そのあとどうしようか…」

 少しの沈黙のあと、あやかさん、さゆりさんに話しかけた。


「例の話しですか? そうですね…、1年くらいは必要かもしれませんね…、リュウさんと北斗君…」


 うん?なんの話だろう、おれだけでなく、おれと北斗君って…。

 1年くらい…?

 と、気になったのだけれど、関係なく、さゆりさんの話は先に進む。


「でも、今は、まず、どう迎え撃つかが先ですね。

 これからのことを考えると、少し、強いダメージを与えておく必要がありますね」


「妖結晶、飲んでくるんだろうからね」

 と、あやかさん。


「3人ということでしょうかねぇ…?」

 さゆりさん、3人単位で動く、と言うことの念を押した感じ。


「仙台で、お嬢さまと会った人間は、13年前に、お嬢さまと戦った相手ではありませんでしたよね」

 と、美枝ちゃん。


 仙台のデパートでは、浪江君が仕掛けたいくつかのカメラで、デパートとは別に映像を撮ってある。

 美枝ちゃん、それで、相手の顔や動きを何度も見ていたそうだ。


「うん、あの時の相手じゃなかったよ。

 今回の男は、あの時の相手と同じくらいの歳…、だから、一回ひとまわりくらい若いんじゃないかな…。

 それに、あの時…、13年前だけれどね、駐車場の奥の方にいたのは、たぶん、もっと歳を取っていたし…」


「今回とあの時の相手、同じ組織の人間かどうかわかりませんが…。

 ただ、3人一組でくるにしても、一組とは限りませんね…」

 美枝ちゃん、また、恐い発言。

 でも、あやかさん、平然と、肯定した。


「そうなんだよね…。

 3が好きなようだから、3組くらい来る可能性もあるよね…」


「3組ですと9人ですね…」

 さゆりさんが、呟いた。


「まあ、すべてが可能性だけの話だけれどね…」


 ここで、ちょっと話が切れたので、

「進入路…、あやかさんとしては、推定できるんですか?」


 と、おれが聞いたら、


「もう…、さっき話したじゃないのよ…。『あやかさん』はいいにしても、『推定できるんですか?』は、『推定できるの?』くらいだよ…」


 話は、とんでもないところに飛んでしまった。

 美枝ちゃんやさゆりさんたち、あやかさんは何を話しているのかな?と思ったような顔をした。


「なかなか…むずかしいんだ…けれどな…」

 こう話すのもむずかしいんですよ、あやかさん。

 おれの、あやかさんへの話し方、すぐには直んない。


「でも、さっき、変身したじゃないのさ」


「まあねぇ…。あっ、ちょっと、皆さんに、説明しておきますとね…」

 と、おれ、まず、さっきの話、おれのあやかさんへの話し方についてのことを説明した。

 だって、みんな、不思議そうな顔をしているのがわかるからね。


「それ、けっこう、むずかしそう…」

 と、美枝ちゃん、笑いながら言った。


「ですよね…」

 と、北斗君、同情するよ、といった感じで。


 さゆりさんは、ただ、クスクス笑っていた。

 するとあやかさん、美枝ちゃんに。


「そう言えば、美枝ちゃん、わたしのこと、お嬢さまと呼ぶの…、もうやめにしてもらおうと思うんだ。

 わたし、結婚するんだからさ、もう、いつまでも、お嬢さまじゃないんだから」


「あら、結婚しようがしまいが、お嬢さまはお嬢さまなんですよ」

 と、美枝ちゃん、平然と。


「でも、ダメ。これからは、『あやか』…、まあ、せいぜい『あやかさん』。

 そう、『あやかさん』と呼んでよ。

 そうだ、これ、サーちゃんもだよ。

 二人とも、ちゃんと、そう呼んでね」


 と、あやかさんが言ったら、美枝ちゃん、


「わたし、『お嬢さん』という言葉の雰囲気が好きだから、それ、却下します」

 と、はっきりと拒絶した。


 こんなこと、できるんだ…。


「えっ、却下って?」

 あやかさんの方が驚いた。


「わたしにとってのお嬢さまはお嬢さまです、と言うことですね。

 お嬢さま、話し方を変えるのは、リュウさんだけにしておいて下さいね」


「そうですね。わたしも、お嬢さまのままの方がいいですね」

 と、さゆりさんも、柔らかく、却下した。


「え~っ、サーちゃんまで、そんなこと言うの?

 ショックだな…。

 結婚したら、お嬢さまをやめて、櫻谷の枠から離れて、純粋な『あやか』になろうと思っていたのに…」


「お嬢さまは、お嬢さまのままでも、純粋な『あやか』でもあるので、それでいいじゃないですか…」

 さゆりさんが、わかったような、わからないような、変なまとめ方をしたが、話はこれで終わってしまった。


「しょうがないな…。じゃあ、あなただけでも、変えてちょうだいね」

 と、あやかさん、おれのこと『リュウ』じゃなくて『あなた』と呼んで、おれだけには、方針変更をしないことを宣言した。


 まあ、おれは、従わざるを得ないんだろうな…。

 美枝ちゃんみたいに、簡単に、却下、できないもんな…。



 そして、

「推定できるルートはね…」

 と、あやかさん、いきなり話しを元に戻した。

 まあ、例によって、おれはすっかり忘れていたんだけれど…。


「こんなところだから、入ろうと思えば、どこからでも入れるんだけれどね。

 ただ、警備に引っかからないように、なんて考えるとぐっと少なくなって…」


 今回、侵入が推定できるルートは3通り、だから、あやかさん、3組が来る可能性もひらめいたらしい。

 この推定、警備会社のデータだけをもとにしている。

 だから、まず、この不備を埋めるようにして、今、浪江君が担当している警戒網を作り始めたんだとか。


 2つは、裏から、と言うか山の向こう側から。

 昔、あやかさんが、こっそり家から抜け出したルート、いくつかあったらしいが、その後、順次、警備の見直しが進んで、隙間が埋められた。

 しかし、一部は、さすがにこれはないだろうという感覚で、まだ残っているものなんだそうだ。


 もう一つは、警備の程度も何も関係なく、ここかご両親の家への最短コース。

 案外、これが、距離の割には手薄なんじゃないか、と、あやかさん、考えているようだ。


 ちなみに、ご両親の家は、体育館の近くにある。

 広い道路に面した門から、真っ直ぐに家の前まで道がある。

 その距離二十数メートル。


 どこから入ってくるのかはわからないが、門の近くからだと、それから対処したのでは、いずれにせよ、家への侵入そのものは防げない。

 そもそも、敷地内に堂々と潜入されても、けっこう、警備会社が確認するには手間取るのではないかと、あやかさんは思っている。


「まあ、ざっと、こういうルートが考えられるけれど、さっきも言ったように、強引に、入ってくることだけが目的ならば、どこからでも入れるような場所だからね。

 もちろん、家の周囲は、もっと厳重だけれど、山に潜伏なんかされても嫌なんで、別の警戒網も作っておいたんだよ

 3つの想定ルートは、警備会社にある、センサーや防犯カメラの位置なんかのデータを手に入れたのなら、という仮定での話だね」


 と、あやかさんの説明は終わった。

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