6-9  今回の目的

「二人の話を聞いていて、頭の中の霞がとれたような気がするよ」

 急に、あやかさんが、口を開いた。


「おじさんの目的、高校のときに考えたまんまだったからね…。

 おじさん自身のことを含めて、動機や目的、確かに、もう一度、見直す必要がありそうだね。

 で、美枝ちゃん、話の本題は?」


 あっ、そうか、美枝ちゃんの話、まだ本題に入っていなかったんだ。

 こう言う、話しの流れというか、その本筋というもの、すぐに忘れちゃうというところが、おれ、あるんだよな…。

 うん?もうわかってるって?

 これは、これは…。


 で、話しの本題は…、


「有田さんから、連絡が入りました」

 また、単刀直入に、美枝ちゃん。


 有田さんて、おれはまだ会っていないけれど、別邸の1階、西端にある部屋の住人のはずだ。

 有田一光かずみつさん…、確か、49歳の独身男性…。


「いつなの?」


「電話が入ったのは、ホクと、ここに来る直前です。

 お嬢さまに電話をかけたあとすぐに…。

 明日、もう少し詳しく解析したのを送ってくれるそうですが…。

 昨日からですが、この敷地の周囲を、何度か回っている車がいるとのことです。

 その車の情報はメールの添付ファイルできました。

 今日で、2日目ですので、取り急ぎ警戒を、という感じなのでしょうね…」


「昨日からなのね?」

 と、あやかさん、確認。


「はい。昨日、ここを数回廻ったので、変だと言うことで対応を始めていたそうです。

 そして、今日も確認できたので、とりあえず連絡をくれたということです」


「そうなの…。来るのかしら…」


「先ほどの動機がよくわからないので…、ですから、目的が…」


「そうよね…。仮にわたしが目的でも、リスクは大きいはずよね」


「でも…、1つの読み筋でもありましたよね…」

 横から、さゆりさん。


「ええ、わたしが狙いだというところでの、究極の手段だから…」


「ここには、妖結晶はないんですか?」

 おれ、つい、脇から口をはさんでしまった。

 そうしたら、あやかさんとさゆりさんが、顔を見合わせた。


「ないわけじゃ、ないけれど…。

 う~ん…、…。

 そうか…、おじいさんちゃんか…」


 お父さんたちの家には、厳重に管理された大きな金庫のような部屋があるらしい。

 場所は秘密。

 その耐火構造になっている部屋の中には、さらにしっかりとした金庫があって、そこに、『湖底の貴婦人』の次の位置付けとなる妖結晶のエメラルドが仕舞ってあるらしい。


 これは、大事なものは分散して仕舞っておくという、おじいさんのお母さん、だから、あやかさんのひいおばあさんが強く主張した、比較的新しい、櫻谷家のルールによる保存方法らしい。

 何が起こるかわからない…、関東大震災と第2次大戦からの教訓なんだとか。


 ただし、その保存場所を知るのは、あやかさんのご両親とおじいさんだけ、もちろん、あやかさんとさゆりさんも知ってはいる。


「あそこは安全だと思っているから、おじいちゃんにとっては、秘密でも何でもないんだろうねぇ…」


「会長様が山根社長にお話…したと?」

 美枝ちゃんがあやかさんに聞いた。

 会長はもちろんあやかさんのおじいさん。

 でも、美枝ちゃんが話すときには、会長に、様が着いていた。


「可能性としてはね…。

 う~ん…、でもね…、考えてみると、相手がおじさんだと、親父さんが何気なく話した可能性すらあるね…。

 わたしは、お母さんに『これは特別な秘密なのよ』と言われて育ったけれど…。

 超極秘事項だと思っていたの、わたしだけなのかもしれないね…。やれやれ…」


「お嬢さまとは、秘密を共有する人たちの範囲が違っていたのかもしれませんね」

 さゆりさん、柔らかく話をまとめた。


 ひとつ頷いて、美枝ちゃん、

「いずれにせよ、こちらも動き出す必要があると思いましたので、さきほど、連絡を受けてすぐにですが、浪江君に警戒の強化を頼んでおきました」


「それは安心ね」


「浪江君には、車の情報も転送しておきました。

 それに、田一さんに、浪江君を助けてもらおうと思いまして、お願いメールを出し、了解の返事も来ています」


「ありがとう…。完璧な動きね。

 ふ~ん…、まさかとは思っていたけれど、本当に、来るかもしれないのね…」


「妖結晶がはいっている金庫の場所、つかめているんでしょうか?」

 美枝ちゃんがあやかさんに聞いた。


「それこそ『本当の秘密』のはずなんだけれどね…。

 でも、管理会社もはいれない一角ということで、範囲を絞れることは絞れるのよね。

 高校生の頃かな、『それで秘密って言えるの?』って聞いた覚えがあるわ」


「まあ、櫻谷社長は、周囲の管理で、そこまではたどり着けないとみているんでしょうけれど…」

 と、美枝ちゃん。

 ちなみに、櫻谷社長はあやかさんのお父さんのこと。


「お嬢さまを狙っているという可能性も、無視してはいけないと思いますよ」

 さゆりさんが言った。


 それはそうだ。

 相手の目的は、まだわかっていない。

 あわよくば両方、どちらかでも、なんて可能性もある。


 でも、ここの状態、外からじゃそんなに詳しくわからないと思う。

 ネットで、地図と比較する航空写真を見ても、うまくぼかしてあるし…。

 でも、相手が相手…、そうか…、空中写真を撮って、詳しく解析している可能性も、あることはあるんだな…。


 警備のレベルはどうなんだろう…。

 普通なら、見当もつかない…かな?

 でもな…、これも、警備会社から、何とか資料を入手できれば、そうでもないか…。


 ただ、あやかさんが独自でやっている警備体制は、誰も知らないはず。

 さっきの、浪江君が集中し始めたと言うものだけれど…。

 うん?相手は、こういう可能性も予測は、しているのだろうか?

 しないわけはない、のかな…。


 そうなると…、やっぱり、襲撃する立場からすると、その前に、一度、中にはいって、様子を見てみたいだろうな…。

 様子見か…。


 うん? 失敗したら様子見…。

 と言うよりも、失敗しても、様子がわかる上に、相手に動揺を与えることができれば、それはそれなりの成果、なんて考えると…。


「様子を見るために侵入する…って言うの、ありませんかねぇ?

 こっちが、どのように対応するのかを見るような感じでの…」


 ちょっと、話が途切れた空白に、また、つい、余計なことを言ってしまったおれ。


 あやかさんといい関係になって、口が軽くなったのかもしれないな…。

 ある意味、あの記憶がチラチラしていて、まだ、のぼせているからね。

 しかも、昼に、アルコールも入ってしまったし…。


 おれ、ずっと以前から、迂闊なところが多い人間だから、みんなの前では、軽い発言は控えなくっちゃと、そう思って暮らして来たんだけれど…。

 ここは、なんだか、自由に話をできる雰囲気だから…、つい、な…。



「なるほど…。その可能性、なくもないですねぇ…。

 意味がないことのようでも…、う~ん…。

 なるほど、それ、思いのほか、おもしろい見方ですね…」


 思いもよらず、美枝ちゃんが褒めてくれた。

 軽く言って、まずかったかなと思うと、どうも、そう言うのって、美枝ちゃんに受けるみたいだ。


「それって、襲撃を受けて、親父さんが、妖結晶をどうするか、という意味で?」

 あやかさんが、美枝ちゃんに聞いた。


「ええ、それも含めて、どのような反応をするのか…。

 もちろん、うまく盗むことができれば、それが一番いいんでしょうが…。

 できなければできないで、こちらに圧力をかける…」


「圧力ね…。

 もう、充分かかっているんだけれどね…」


「そうですね。でも、向こうは、こちらが、ここまで警戒していることは知らないんじゃないでしょうかね…。

 とは言え、今まで手を出さないでいるところから、そう甘くはない、とも見ているんでしょうけれど…。

 ですから、一度入ってみれば、内部での警戒の状態もつかめるかも…とか…」


 美枝ちゃん、いろいろと考えながら答えている。


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