6-7  あとでお話が

 残りの段ボール箱はおれが運んだ。

 床に段ボール箱を並べ、まず、全部のガムテープをとって、段ボール箱の蓋を開けてから、片付け開始。

 初めに、服などを床に出して、整理しながら運び始める。


 あやかさんは、テーブルのところの椅子に座って、遠くから、興味深そうに見学。


 クロゼットと整理ダンスに服を仕舞うと、まだ、中を片付けていない段ボール箱は、大が1つと小が2個。

 おれのノートパソコンや本など、まあ、雑物…と言っていいのかどうか分からないけれど、そんなものがはいっている。

 一部を床に出して…、さて、どうしよう。


 それを見ていたあやかさん、


「今度、机を用意したほうがいいみたいだね。

 狭くて北側になるけれど、使っていない部屋、もうひとつあるんだよ」


 と、言って、案内してくれた。

 狭いとはいっても、アパートでの6畳間くらいは充分にある広さ。


 部屋の南側は、押し入れのような感じの、引き戸が着いた棚になっている。

 ただ、押し入れほど深くはなく、その半分くらい。


「残った荷物、ここにでも入れておいたらどう?」

 と、あやかさん。


 さっそく残った段ボール箱を持ってきて、中身を入れた。

 全部入れたんだけれど、まだ、ガラガラだ。

 これは、はいりそうだ。


 この部屋、位置としては家の隅っこになるようだが、北側と西側に窓があって、まさにおれ好みで、いい感じ。

 この部屋、『あなたの自由に使いなよ』とのことで、おれの部屋となった。


 うん?おれ、この部屋、どのくらいのあいだ、使うんだろう…。

 あやかさんと結婚しての…、あやかさんのうちでの部屋…だもんな…。

 あやかさんに使う言葉だけでなく、やっぱり、ちゃんと、考え方から変身しなくっちゃ、思考が対応できなくなってることに気が付いた。


 そんなとき、あやかさんに、美枝ちゃんから電話。

 これから、話したいことがあるので、こちらに来るとのこと。


 さてさて、そう言えば、向こうは、どうなったんだろうかな。

 あれから、かなり時間が経っての今だから…。

 いやいや、余計な詮索はしない方がいいな。


 #


 お昼ご飯、お祝いということで、豪勢なおかずの付いた散らし寿司になった。

 朝の話で、静川さん、こうなるだろうことを考えて、吉野さんや沢村さんに声をかけて、お祝いの食事、急いで用意してくれたらしい。


 あやかさんに、結婚をすることの報告をしにきた美枝ちゃんと北斗君も、一緒に食べることになっていた。

 美枝ちゃんたちがあやかさんに報告に来るの、もっと後だったのならば、静川さん、とりあえず、お弁当にして、持っていくつもりだったらしい。


 今日は、吉野さんや、静川さん、沢村さんも、一緒に食事をする。

 さすがに、8人での会食となると、この広い食堂もいっぱいに近い感じだ。


 吉野さんお薦めの日本酒での乾杯で始まった。

 お昼から酒やビールの入った食事となったが、まあ、簡単な披露宴のようなもの、しかも、二組まとめてのだから、当然のことなのかもしれないな。


 吉野さん、おれとあやかさんの結婚、ものすごく喜んでくれた。

 おれが来たときから、いつになったらこうなるんだろうと思っていたらしい。

 そうでなくては『あやかお嬢様が、お連れするわけがございませんから…』とのことだった。


 まあ、そう言われればそうなんだろうな…、ということなんだけれど、どうして、もっと早く、おれが、こういう状況にあったのに、あやかさんが想ってくれていたことに、気が付かなかったのか…、もんだいは、そこなんだよな…。

 おれって鈍すぎ? かも…。


 ちなみに、席順は、おれ、あやかさん、さゆりさん、吉野さん。

 反対側は、北斗君、美枝ちゃん、静川さん、沢村さん。

 これは、吉野さんが決めたのだそうだ。


 吉野さんと静川さんのすごいところは、芯の強い2人が、決してけんかをしない、言い合いすらしないところだと、先日、あやかさんが言っていた。

 2人とも、相手の力やどこを信頼すべきかなど、人の器量を見極める力が優れているのだろう。


 楽しい、賑やかな時間が経っていく。

 みんなのおかず、まあ、飲み代なんだろうけれど、それが残り少なくなり始めた頃、美枝ちゃん、正面に座るあやかさんに、


「こうなるの、思っていたよりも、時間がかかりましたね」

 と、からかうような感じでひとこと。


「まあね…、仙台で、変なヤツが出てきちゃって、なんか、急に、わたしから言えなくなっちゃったのよ」

 あやかさん、ちょっと照れたような感じで答えた。


「やはり、そういうことだったんですか…。

 そのことに関して…、あとでお話があるんですけれど…」


「あとって、今日、と言う意味?」


「ええ、このあとにでも…」


「わかった、はしゃいで飲み過ぎないようにするよ」


「リュウさんも、一緒ですからね」


「えっ?」

 いきなり、話がおれの方に飛んできた。


「お話、一緒に聞いていただきますので、飲み過ぎないように、と言うことですよ」

 美枝ちゃん、おれに、しっかりと念を押した。

 はい、わかりました。

 もう、これ以上は飲まないようにします。


 と、言うことで、

「うん、そうするよ」

 と返事した。


「ホクもだよ」

 北斗君も、枠をはめられた。


「おれも?」

 北斗君、ちょっと意外そうだ。


「そうよ、これからは、なるべく一緒に動いてもらうつもりだから…」

 北斗君、完全に美枝ちゃんの支配下、といった感じ、なのかな?


「ああ…、そういうことなんだ…」

 北斗君、何となく、納得した感じ。

 と言うことは…、うん、たぶん、さっきまで、美枝ちゃんの部屋で、いろいろと話があったんだろうな。

 結婚の条件、っていうヤツかもしれない…。


 おれの場合は、あやかさんから出された条件ではないけれど、あやかさんを必ず守り抜いてみせる、というのは、結婚の条件以上に重い、おれの責務と考えている。

 なんせ、自分で宣言しちゃった…ような、もんだからね。


 あやかさん、美枝ちゃんと北斗君との会話を聞いて、ニッと笑って、

「そっちも相棒になったと言ったところなんだね」


 美枝ちゃん、あやかさんを見て、ニコッと笑って、

「ええ、今日、やっと二組の相棒が完成した、と言うことですね。

 間に合った、と言うことです」


「それが…、あとでの話?」

 ふと、あやかさんに緊張が走っての質問。


「ええ…、楽しく食べてからの、お話です」

 美枝ちゃん、ニコッとして答え、お寿司を食べ始めた。


 あやかさんも、ニコッと笑って、ビールのグラスを置き、お寿司の皿を引き寄せた。

 なるほどね、お酒はこれで終わりよ、と言うことなんだろうな。

 もう、これ以上飲まないぞ、と思ったおれも、当然のように寿司を食べ始めた。


 うっ、うまい!



 お昼の食事が終わり、あやかさんとさゆりさん、美枝ちゃんと北斗君は、応接室に移動した。

 あっ、もちろん、おれも一緒。


 美枝ちゃんの隣に座っていて、ニコニコとおれたちの話を聞いていた静川さん、この予定を理解していて、昼が終わる少し前には席を外し、コーヒーを淹れておいてくれた。

 と言うことで、コーヒー付きのお話会となった。


 この辺の動きが、なんともすごいもんだな、と思った。

 特に、誰が何を指示するわけでもないのに、みんながあやかさんの動きを支えて、流れがうまく運んでいる。


「初めに、ちょっと、お嬢様にお聞きしたいことがあるのですが…」

 まず、美枝ちゃんが、そう切り出した。


 美枝ちゃんが、あやかさんに確認することってなんなんだろう?

 おれがそう思ったら、あやかさんも、ちょっと緊張した感じで。


「なあに?遠慮しないでいいわよ」

 と言った。


「それじゃあ、申し訳ありませんが、ストレートに…。

 お嬢さまのお身内で、敵に内通している人がいる…、という可能性についてですが、お心当たりは?」


 まさに、美枝ちゃん、単刀直入。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る