第34話『疾風、義の道を往く 1』
砦の魔物たちを討伐したエリシア一行は街道を進み、工業都市ヴェルへイムのゲートの前へ来ていた
入国管理の役人が忙しく動き回り、多数の審査待ちの行商人たちをさばいている
【うわぁ、すっげえ人だかりだな】
エリシアの盾の中からシンが声をもらした
「ここは色んな所から人と物が集まる場所だからね、情報収集にはもってこいな都市だよ
とはいえ私も何回かしか来たことが無いのだけれど」
「私は初めてですぅ、こんなに沢山人が居るのも驚きですねぇ」
【ララはずっとあの家にいたんだっけ?】
「そりゃぁたまには出ることもあったけどぉ、ほら私ってダークエルフだしぃお師匠があまり人間と関わらないようにって言ってたから」
【俺まだいまいちこの世界の常識に疎いからわかんないんだけど、ここって山ほど人が居るじゃん?ララは大丈夫なの?
俺は何とも思わないし、出会ったばっかだけどララはいい子だってわかるよ……幽霊の俺が言っても説得力ないかもだけどね】
「ありがとうシン、でもぉ私だってある程度は覚悟してきたつもりだよぉ、でもエリーちゃんにシンていうお友達ができたんだしぃ、なんとかなるよぉ」
「あぁ、誰が何を言ってこようと気にすることはない、ララはもう私達の大事な仲間なんだからね
さぁ受付をすませて中へ入ろう」
「うん!」
口には出さなかったが都市が近づくにつれ、かすかに不安げな表情を浮かべていたララを心配していたが、杞憂だったと安心したエリシアは意識の中でシンに話しかけた
『ありがとね、シンならそう言ってくれると思ってた』
『何が?』
『さっきの話だよ、ララに言ってくれたこと』
『あぁ、別に大したことは言ってないよ、普通に思ったことを言っただけだし』
『ふふっ、「普通」だね……その「普通」が私は嬉しいんだよ』
『またその話?恥ずかしいよ、それよりも早く行こうよ』
エリシアはシンの優しく素直な人柄に改めて感心していた
そうこうしているうちに入国管理官がこちらへやってきて通行証の提示を求めてきた
「えーと、お連れ様の通行証もご提示願えますか?」
ララはずっと森のなかで暮らしていたので公的な通行証などは持ち合わせておらず、無用な諍いを避けるためにフードを目深にかぶったままだった
「すまない、この子は通行証を持ち合わせていないんだ、私が責任者として同行するので通してはいただけないか?
その後に管理局で通行証の新規発行の手続きをしますので」
「んー……規則ですからねぇ、そんな簡単には……そもそもあなたが責任者と言ったって、……え?……え?えっ?えーーーーっ!?エリシア・アウローラって、あの勇者エリシア様ですか!?」
「はい、王国より聖光の勇者の名を戴きましたエリシア・アウローラと申します
この子は使命を帯びた私の大切な仲間です、どうかご配慮いただけませんか?」
「ももも、もちろんでございます!お通りください!
おーい、あの勇者様がおいでになったぞー!道を空けてくれー!」
管理官の一声に、周りの行商人たちや役人たちがざわめきだしゲートへの道を空けながら勇者に注目していた
「皆さん、お騒がせして申し訳ない、私のことは気になさらずお仕事を続けられて下さい
……管理官殿、もう少し穏便にお願い致します……ですが、ご配慮に感謝いたします」
「も!申し訳ありません!つい興奮してしまいまして……議長の官邸は北ブロックの議事館の隣になります、お気をつけて」
「ありがとう、すぐにでもご挨拶に伺います、さぁ行こうかララ」
「は、はいぃ」
周囲からの視線や応援の声に応えながら進むエリシアの姿にララは驚いた様子で声をかける
「すごい人気だねぇ、なのにエリーちゃんすごく堂々としてるしぃ」
「きっと珍しいんだよ、初めての女勇者ということで気になるんだろうね
そう見られることは騎士団で千人隊長になったときもそうだったから、慣れてはいるつもりだよ、まぁ……少しは照れくさいけれどね」
「そっかぁ、エリーちゃんは頑張りやさんなんだねぇ、私もエリーちゃんのお友達として恥ずかしくないように頑張らないと!」
「ありがと、でもねララ……私は勇者の前に1人の人間として、ララと仲良くしていきたいと思っているよ
これから多くの人と会うと思うけれど、ララのことをダークエルフだからとちょっかい出すようなら私が黙ってないからね、種族なんて関係ないんだから何を言われても気にしちゃだめだよ」
エリシアの言葉を受けて、少し考えたララはかぶっていたフードを脱ぎエリシアに向き直った
「エリーちゃん、私もエリーちゃんみたいに堂々とするよ!エリーちゃんのお友達として、コソコソしてる方が恥ずかしいもんね!」
「うん!そのほうが良いよ、キレイな顔が台無しだもの
ほら背筋もピンと、胸を張って……良し!」
姿勢を正したララはエリシアよりも背が高く、自分を見上げて微笑む顔を見て微笑みを返す
勇者を見る群衆が自分にも視線を向けてくるが、それがどんな視線であっても気にせず自分は自分でいようと、ララはエリシアとシンの言葉でそう思えた
2人は街の様子を見回しながら、議長の官邸へたどり着く
すでに役人から話が通っていたようで、すんなりと議長のもとへと案内された
「さっそくのご対応に感謝いたします、私は……」
「存じておりますとも!かの有名な勇者様がかように早くお越しいただけるとは、市民の喜びもひとしおでしょう
申し遅れました、私がヴェルへイム都議長のガダム・ゴダムと申します」
「よろしくお願いいたします、ガダム議長」
「そちらのお嬢さんが勇者様のお仲間ですな?」
「議長、そのことですが……」
「そちらもご心配なく、ダークエルフだろうがなんだろうが私は気にいたしませんよ
通行証の件についても便宜を図りましょう、お嬢さんの名をお聞きしても?」
「あ、はい!ララと申しますぅ、あのう……本当に良いんでしょうかぁ?」
「ララさん、勇者様があなたをお仲間と認めたのです、事情はわかりませんが自信をお持ちなさい
まぁ皆が皆私のように物分りの良い人ばかりでは無いことも、これからの旅路では肝に命じておくほうがいいともご忠告させていただきますがね」
まぁ気にしなさんな、とウィンクをした議長にララは屈託のない笑顔で応えた
「ガダム議長、お心遣い痛み入ります」
「何をおっしゃいますやら、他種族国家でもあるこのヴェルへイムを預かるものとして当然のことでございます
今後のご予定もお有りでしょうが、この官邸内のゲストルームを用意いたしますので、まずは旅の疲れを癒やしてくださいませ
都市におられる間はそこをご自由にお使いいただいて構いませんので」
「いえ、お気持ちは嬉しいのですが私たちはちゃんと宿を取りますので……」
「いえいえいえ、それでは私どもが他国の恥になります!セキュリティの問題もありますし、ここを勇者様ご一行の宿としてお使いくださいませ
それにこの官邸にいた方が色んな情報も集めやすいかと」
「重ね重ねお気遣い感謝します、それではお言葉に甘えさせていただきます」
「では早速ご案内いたしましょう、今夜は晩餐会も開催するつもりですので、まずはそれまでごゆっくりとなさってくださいませ」
議長がパパンと手を鳴らすと、奥からメイドが現れてエリシアとララを議長室の外へと誘導する
部屋を出るときまで頭を下げている議長を見ながら、エリシアにだけ聞こえるようにシンが口を開く
『あの議長さんすっげぇ話がはやいのな、ちょっと強引な気もするけどさ』
『ララへの対応を見ても大した御仁だとは思うよ、コレだけの規模の都市をまとめるだけのことはある
でも正直なところ、単に好意だけでここまでしてはくれないだろうとも思っているのだけれどね』
『それは俺もそう思う、疑うわけじゃ無いけど……何かあるかもね』
『だとしても、何か困っているなら出来るだけのことはするつもりだよ
それが勇者に選ばれた私の責務でもあるし、受けた恩には報いなければね』
『まぁ、それもそうだね、まずは休んで疲れを取ってそれから考えよう』
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「失礼します」
「あぁ待っていたよ次官、勇者様がおいでになった」
「承知しております、これでやっと事が進められます」
「勇者ならばどの組織にも属さない、しかもその気になれば王国の後ろ盾も得られるだろう
そうなれば彼とてこれまでのように大きな顔はできまいて」
「勇者様を利用するようで気が引けますが……事ここに至ってはそうも言っていられますまい、膿を出し切るには形振りかまっていられますんからな」
「そういうことだな、それに我らの動きを察知してヤツも動くだろう
それこそヤツの手を借りるようで癪だがね」
「綺麗事だけではおさまりません、ですが悪事に手を染めるものには報いが必要でしょう
次官としてその時は私が矢面に立ちます、それが議長の、ひいては市民のためであると考えます」
「気持ちはありがたいが……それは私の役目だよ、君には引き続き準備を進めてもらいたい
私もここが勝負どころだな」
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