第32話『エルフと魔人と人間と 3』
「と、いうわけなんだけど……」
「へぇ〜、実に興味深いねぇ、その絵理子という女の子の魂のことは私は知らないが……何か関係があるだろうとは思わざるを得ないねぇ、聞くだけ無駄だとは思うけど君は何か感じたことは無いのかい?」
突拍子のない話では合ったが、シンの話を真剣に受け止め考えるエリシア
「いえ、私は何も……すまないシン、せっかくの手がかりかもしれないのに力になれなくて」
「いやいや!エリーが謝ることじゃないよ、単に名前が似てるってだけだし」
「私はその名前が似てるという部分が重要なんじゃないかと考えるがね、ただその相手がエリシア君だと断定はできないというだけでね
アーシェら様でも所在を掴んでいない魂なんだろ?すべての可能性を考慮に入れるべきだよ」
「……確かにアルファス殿の言うことももっともです、最重要では無いかもしれませんがその絵理子という子の魂も探さなければいけませんね
シンの大事な友人なら、私にとっても同じこと……でしょ?シン」
「ありがとうエリー、そう言ってくれると俺も嬉しいよ」
「まぁそのことは一旦置いといてだね、私から勇者殿にお願いがあるんだが」
姿勢を正してエリシアに向き直ったアルファスが話を始めた
「君たちはこれから工業都市ヴェルへイムを目指すんだろう?その道中でちょっと頼まれてほしいことがあってね、じつはこの森を抜けてすぐ近くに廃棄された砦があるんだが、そこに魔人の斥候が集まり始めているんだ」
「それは由々しき事態ですね……前線の戦線を抜けてきたものがいるということですか?」
「その通り、勇者が現れたということは、周期的にも闇の軍勢が力を増しているってことさ
今はまだ小規模の部隊がたまに抜けてくる程度で済んでいる……私が直接出向くのが早いんだが、ここはこれからの勇者の武勲の一つにでもしてもらおうかなってさ、私は研究に忙しいからね」
「それは構いません、魔物の討伐は勇者の責務です、それで敵の規模は?」
「指揮官の魔人が1体に取り巻きが10体、あとは雑魚が20匹ほどだったな、まだ増えてる可能性もあるけどね」
「そんなに!?それにさっきから話に出てきてる魔人って?今までに見た魔物とは違うの?」
「シン君はまだ見たことないいのかね?魔物ではあるんだが、人型に近い姿をしていて言葉も話すし知能も高い
だいたい部隊の取りまとめをしたりするやつらさ、王国の近辺で見るような、知能の低い雑魚に比べると格段に手強いよ……とはいえ砦に集まってるのはあくまで斥候、勇者に選ばれるような人間にとってはそんなに苦戦するような相手じゃないと思うよ」
「簡単に言っちゃってますけど……大丈夫かなエリー……」
「それは相手を見てみないとわからないけれど、早いうちに対処しておかないといけないね」
「あぁあと、うちの弟子も連れて行っていいから
ぱっと見はぼーっとしてるふうに見えるけど、私に長年師事してる子だから役にたつはずだよ
おーいララぁ、いい加減起きてこっちに来なさい」
アルファスが奥の部屋へ声をあげると、眠さに目をこすりながら1人の女性が出てきた
法術士がよく着ているようなローブ姿の、第一印象は20歳頃に見える若い女性だった
「お〜はよ〜ございま〜すぅ、あぁもういらしてたんですねぇ」
「とっくに訪ねて来ていたよ、まったく……ともかく2人とも、彼女が私の弟子のララだ、ほら挨拶をしないか」
「はじめましてぇララと申しますぅ、種族はダークエルフでぇ歳は確か……153歳?」
「まだ152歳だよ、歳くらいちゃんと覚えなさい」
「えぇーっ!152歳!?全然見えない、俺と同じくらいかと思った……っと、は、はじめまして、坂崎真司といいます、シンと呼んでください」
「私はエリシア・アウローラ、聖光の勇者の名を戴いております、以後お見知りおきを」
シンの驚いた様子を意に介さず、ララはマイペースに話を進める
「シンにエリシアちゃん、こちらこそよろしくですぅ」
「それよりもアルファス殿、今彼女の口からダークエルフと……」
「あぁやっぱり気になる?心配しなくても魔人サイドとは何も繋がりはないから安心していいよ」
「エリー、ダークエルフって何なの?ハイエルフやハーフエルフとはまた違うの?
「それは私が解説しよう、人間とエルフの混血がハーフエルフだってことは話したよね
ダークエルフってのは魔人とエルフのハーフなんだ」
「魔人とのハーフ!?」
「そりゃ驚くよねぇ、さっき魔人の話をしていたばっかりだしね
エルフってのは元来好奇心が旺盛な種族でね、だから人間と一緒になるやつもいるのさ
それに人間にも良いやつと悪いやつがいるのと同じで、魔人の中にも、極まれにこちら側に付くやつもいるってわけさ、まぁけどいくらいっても魔人の子だからね……迫害も受けるし疎まれもする
そのせいでダークエルフってのはだいたいがあちら側になってしまう、無理もないことだが」
「でもララさんは違うってことですよね?」
「ララはまだ幼い頃に私が拾って面倒をみている子なんだ、いらぬ軋轢を生まないためにも、あまり外と関わらないようにこの家で暮らしてきた」
「なるほど……それでアルファス殿はあのような結界を……」
「まぁ個人的にも研究を邪魔されたくないってのもあるがね」
頭をかきながらそう言ったアルファスは少し照れくさそうに見えた、その様子にエリシアはアルファスが信用に足る人物であると確信する
「ララ殿は良い方と巡り会えましたね、力を貸してくださいますか?」
「ララでいいですよぉ、てゆうか私なんかが勇者様御一行に参加してしまって良いんでしょうかぁ?」
「もちろんですララ、ガネシャ様の姉弟子でもあるあなたの力をお借り出来るのなら、これほど頼もしいことはありません」
「俺も賛成だよ、エリーと同じ年頃……に見える子が一緒ならきっと楽しいよ、俺は男だし幽霊だから話し相手が増えるのは大歓迎さ」
「ユウレイィ?シンの世界ではそう呼ぶんですねぇ、私もお友達ができたみたいで嬉しいですぅ」
「これで話は決まりだ、久しぶりに1人になれて研究が捗るよ」
「ってアルファスさん、ほんとは寂しいんじゃないっすか?」
「君も一言多いクチかね?まぁいい、ララ
今回の件だけでなく、その後も勇者たちと共に旅をするんだ、広い世界で自分を高めなさい
そして歴史に名を残す英雄となるんだ、そうすれば私の評価もあがるだろ?」
アルファスは冗談っぽくウィンクをしてララに言い、エリシアに向き直った
「勇者エリシア、神聖な役目にダークエルフの娘なぞ不釣り合いだろうが……彼女のためにも君にララのことを頼みたい」
「出自など関係ありません、ララが自分の意志で来てくれるのなら」
「私はぁ……外の世界に言ってみたいです、ついて行ってもいいですか?」
「えぇ、もちろん!これから宜しくねララ!私のことはエリーでかまわないよ」
「ありがとうございます、エリー……シンも、宜しくお願いしますぅ」
「感謝する、ふつつかな弟子だが宜しく頼む……それと、気をつけておいて欲しいことがあるのだが……この文にしたためておいた、後で目を通しておいてくれたまえ」
アルファスはララに気付かれぬようにエリシアに手紙を渡す
「?……承知しました、では早速砦へ向かいます」
「ララ、お前はずっとここにいて世間の常識を知らない……迷惑をかけるんじゃないぞ
それと、これまで教えたように力の制御に気を配れ、くれぐれも注意しておくんだ
それとララ」
「お師匠!……もうわかりましたってばぁ、……私、頑張ります!
私がヘマしたら、大法術士と言われたお師匠の名前に傷がつきますもの
今までありがとうございます……お父さん」
にこやかに告げたララの顔から目を背け、後ろを向き背を向けたままアルファスが応えた
「……近くにくることがあれば、顔を出しなさい
お前が見聞きし学んだことを、私に聞かせなさい」
「…………、はい!」
闇の門を目指す勇者に、新しい仲間が加わった
ダークエルフのララ、魔人の血を引く彼女には何か秘めた事があるだろう事は、アルファスの口ぶりから想像はできたが
2人の関係を見たエリシアは、子を思う親心として受け止め、託された以上は何があろうとも力になろうと心に誓った
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