第30話『エルフと魔人と人間と 1』

 「しんちゃん、私行きたくないよ」


 「そんなこと言っても仕方ないじゃん、おじさんの仕事なんだろ?……」


 「それはわかってるけど……ここからうんと遠いってママが言ってたし、もう会えないかもしれないんだよ?」


 「僕だってえりちゃんと遊べなくなるのは嫌だよ、でもお母さんが仕方ないんだから我慢なさいって」


 「うん、えりのママも言ってた……ねぇしんちゃん、えり大人になったら絶対帰ってくるから!」


 「僕も会いに行くよ!手紙も書く!」


 「ほんとに?うれしい!

 待ってる!ねぇしんちゃん、もし、よかったら……大きくなったらえりと……」





**********





 「……ン……シン、起きてシン」


 「ん、ふわ〜〜、ん?あぁエリー、おはよう」


 「良かった、ひょっとしたら起きないんじゃないかと思って……」



 不安な表情を悟られまいと、エリーは努めて笑顔でそういった



 「そんなこと……ってそういえば俺ってこの世界に来て初めて眠ってたんだよなぁ、ごめんね心配かけて」


 「シンが謝ることないよ、少しだけ不安になっちゃって

 でもシンの寝顔を見れたのって考えてみればすごく特別なんじゃないかな?って考えたら不謹慎だけどちょっと嬉しかったかな」


 「なんか恥ずかしいな」


 「それを言うならおあいこだよ?私なんて何回も寝顔を見られているのだしね」


 「はは、確かにそうかもね

 眠るって感覚が久しぶりすぎてなんだか変な感覚だよ、それに何か夢を見ていたような気がするんだけど思い出せないな」


 「どんな夢見てたのかは気になるけれど、夢なんてそんなものだろうしね

さ、支度をすませてアーシェラ様のところへ行こう」


 「そうだね、これからどうするか話さないとだしね」



 シンは自分の見たであろう夢の内容を思い出せない事が気になったが、これも随分久しくなった『顔を洗う』という当たり前の行為の新鮮さでかき消された





**********





 「来たね二人共、昨夜はゆっくり休めたかい?」



 そう声をかけてきたのはルートヴィッヒ、ハインラインとダンテも揃いアーシェラの隣で2人を待っていた



 「おはようございますルートヴィッヒ様、ハインライン様、ダンテ様

 アーシェラ様、昨夜は快適に過ごさせていただきました、誠にありがとうございます」


 「良い、見たところ十分に回復したようだな、さっそく今後の話に入るのじゃが……シンジよ、昨夜お主は眠ったであろう、何か夢は見なんだか?」


 「はい、眠ることはできたんですが……気がついたらもう朝になってまして……夢は見た気がするんですけど何も覚えてないというか、すいません」


 「ふむ、気にするでない、小さなことでも何かに繋がるやもしれぬと思うたに過ぎぬ。

 して勇者エリシアよ、お主に会わせたき者がおる」


 「は、そのお方はどのような方なのでしょう?」


 「ハーフエルフの法術士で名はアルファス、お主の国にその弟子がおるはず……聞き覚えはないか?」


 「ガネシャ様のお師匠様で……名は聞いたことはございませんが、その方にお会いすれば良いのですね?」


 「今後は仲間を集めねばなるまい、さしあたり工業都市ヴェルへイムへ向かうにしても道中そのアルファスの居の近くを通ることになる

 変わり者じゃが何かの助けにはなろうて、詳しい場所はアーミラが知っているゆえ聞いておくがよかろう」


 「かしこまりました、ただちに向かいます」


 「そなたらの旅の無事を祈っておる、シンジの件は引き続き調べさせておこう」


 「ご迷惑をおかけします、よろしくお願いします」



 アーシェラに一礼し、2人は神殿をあとにした

 その姿を見ながらルートヴィッヒが口を開く



 「アルファスか……大丈夫だろうか」


 「なんだよルー、やべぇやつなのか?」


 「うーん、性根は悪人ではないのですが……」


 「なら問題ないじゃねぇか、アーシェラが会ってこいってんだから大丈夫だろ」


 「ハインラインの言う通り、意味があるから会わせるのだろうし、もし何かあっても勇者は1人ではない

 若者たちを信じてやるのも我らの役目であろう」


 「……はい、そうですね!先輩方の言うとおりです、信じましょう、2人を」



 顔を見合わせ微笑んだ3人は、光となって実態を失いエリシアの聖剣へと帰った






**********






 「お師匠、朝食の用意ができましたぁ……って、何してるんですぅ?」



 暖炉のある部屋の奥の扉から気だるそうに声を掛ける女性に、振り返らずに長髪の男が答える



 「アーシェラ様から直々に知らせが来た、珍しいこともあるもんだ、何やら新しい勇者が訪ねてくるらしいぞ」


 「あ〜そう言えば話題になってましたねぇ、初の女性勇者らしいですよぅ」


 「勇者が女?前の勇者は青臭い若造だったが、確かアーミラの男だったろ?」


 「だったろ?と言われても知りませんよぅ、私まだ生まれてませんしぃ

 それにしてもこんな変な人に会ってどうするんでしょうねぇ?」


 「私が知るものか、それと一応私はお前の師匠のはずだが?……まぁいい、来るなら来るでちょいと雑用でも頼むとするよ」


 「お師匠の言う雑用はいっつもヘビーなんですよねぇ」


 「私が自分で動くのがバカらしい事しかやらせた覚えはないぞ?大概のことは自分でやる手のかからん師匠として名を馳せたんだがね」


 「なら朝ごはんも自分で用意してくださいよぅ、まだ寝足りないんですからぁ」


 「ガネシャがここを出てからお前しかおらんのだから文句を言うな、……ガネシャで思い出したが、変わった魂の話をしていたな、その件も絡んでいるのか」


 「変わった魂?」


 「まぁ来ればわかるさ、久々に退屈しのぎになりそうだ」

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