第26話『神樹アルタナ 2』


内部へと入ると、薄暗く長い一本道の廊下があり、その両側には見覚えのあるランタン状の明かりが幾つか灯っていた



「これは……ソウルイルミネイト、という事は……」



エリシアは横にいるシンジの手に触れてみる



「あっ……やっぱり実体化しているね、前回より手が暖かく感じる気がする」


「うん、前よりも体が重く感じるよ

あの光が多いからかな?それになんかこの部屋の中、変な感じがしない?」


「確かに、意識がぼやっとするというか……アーミラ様が言うように気を抜かないようにしないとね」



現状の確認をしていた2人は、奥の透けたカーテンの奥の人影に気づかなかった……そこから声をかけられるまで



「ようやく来たか人間、近う寄るが良い」


「「っ!」」


「何を驚く、我に見(まみ)える為に此処へ来たのであろう

我は忙しい身ゆえ、早う来よ」


「は、はい!申し訳ございません、直ちに」



カーテンの前まで進み、膝をついてエリシアが言う



「聖フリオール王国より参りました、エリシア・アウローラと申します

この度は謁見をお許しいただきありがとうございます」


「良い、勇者が我を尋ねるのは当然の事

して、そこな男が異界の魂か」


「あ、はい、俺がそのシンと言います」


「ふむ……確かにこちらの死者とはいくらか違う様だが、まぁ今は良い

そなたは此処より奥にいる死神と話すが早かろう」


「死神?ほんとにいるんだ!」



アーシェラが、アーミラと同じ様に知覚できない言葉を紡ぐと、シンジの目の前の空間が開いた



「異界の魂よ、その先へ進むが良い

勇者には別に話があるゆえな」


「シン……」


「心配ないってエリー、何かわかるかもしれないし……行ってくるよ」


「ふむ……我にとれば些事であるのだが、1つ問うても?」


「は、なんなりと」


「……おぬしら、いつまで手を繋いでおる」


「「…………、あーーーっ!!」」


「ご、ごめんエリー!全然気づかなかったよ、わわ、わざとじゃないんだ!」


「わわわわた、わた、私の方こそ!安心してしまってつい……すまんシン!」



手を繋いだままであった事にようやく気づいた2人は、双方真っ赤な顔をして弾けるように手を離し慌てていた



「…………本当に大丈夫かのう、ちと不安になるわい

まぁ良い、シンとやら、先へ進み話をしてくるが良い」


「わ、わかりました」



シンジは言われた通りに、神樹へと入った時と同じ様に空間の亀裂に体を滑り込ませた



「はぁーーー、やってしまった……シンの手を握っているとつい安心してしまって……キャー!だって普段触れないし、話したくなかったなんて言えないし……」


「勇者よ」


「でもでも、やはりいささか厚かましかっただろうか?でもシンも嫌がっている様子は無かった……と思っても良いんだろうか、はぁーーー」


「勇者よ!」


「はいっ!……と、取り乱してしまい申し訳ございません

どうかシンには何卒内密にお願い致します!」


「…………聞いていた人物像との乖離があるのう、いや乙女かおぬし

まぁそれも些事であろう、気にするまい

して勇者よ、そなたの持つ聖剣には過去の勇者全てを宿しておると聞いた

その者たちへ意識を向けよ」


「は、はい、わかりました……」



エリシアは気を取り直し、目を閉じて聖剣が封じられた指輪に意識を向けた

その様子を見て、アーシェラはエリシアの方へ手をかざすと、ルートヴィッヒ、ハインライン、ダンテの3人が実体化して現れた



「ふむ、久しいのうハイン、ルートヴィッヒ……ダンテ様もしばらくぶりでございます」


「おぅアーシェラ!お前は変わんねえなぁ、相変わらず硬っ苦しいやつだぜ」


「おぬしも変わらぬの、あの頃のガサツなままではないか」


「んなもん俺は死んでんだから変わりようがねえじゃねえか」


「ふむ、おぬしもたまには正しい事を言うのう

ダンテ様、母様が奥にてお待ちです

積もる話もございましょう、ここは気にせずお通りくだされ」


「そうか……アーシェラ、気を使わせてすまぬ

ではここは若い者たちに任せて昔話でもしてこよう」



そう言ってダンテは、アーシェラが開いた空間の亀裂に入っていった



「ダンテ様もすみに置けないなぁ」


「邪推するでないわルートヴィッヒ、おぬしも知っての通り母様はもう世界に関わる事を良しとしておらぬ」


「どういう事ですか?ルートヴィッヒ様」


「エリシアは知らなかったね、アーシェラ様とアーミラのお母様であられるアイラ様はダンテ様と行動を共にした初代パーティの一員だ

その時点で既に500歳に達していたらしく、現在2000歳を超えておられ、全てのエルフ族の祖と言われているんだ

だからもう存在がこの世界の神に等しく思われている、あの方はそれを重く見て自ら別空間にご隠居されたと言うわけさ」


「存在自体が世界に与える影響が大きすぎる、という事でしょうか?」


「母様とすれば、気兼ねなく話せる相手というのも限られるゆえ……という事、ただそれだけじゃ」


「で?俺らも実体化させたって事は何か考えがあるんだろ?アーシェラ」


「その事なのだがの、王国の法術士長シエナからの報告によると、未だ聖剣を扱いきれておらぬようでな

そなたらに直接指導させようと思うての」


「なるほど、アーシェラ様が我々を実体化させて下さっていればエリシアに負担はかからない」


「そういう事か、エリシア!そんなに時間はねえかもしれねえが、せめて俺の力を扱えるくらいにはしてやるよ!」


「はいっ!よろしくお願いします」


「では、我が場を用意してやろう」



アーシェラがまた知覚できない言語で呪文のように言葉を紡ぐと、エリシアたちの後方の空間が裂けた



「その空間の中はおぬしの法力の上昇を促し、現実世界よりも時の流れが遅くなっておる

そこで存分に励むが良い」


「ありがとうございます!」



エリシアたち3人はその空間へと進んでいった



「勇者たちの方は心配無かろうが……問題はやつか

後ほど様子を見に行った方が良いかの……」


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