第25話『神樹アルタナ 1』
『そろそろ見えてくるよ、シン』
エリシアを乗せた馬車は渓谷の出口の近く、最後の曲がり角を過ぎて奥にある森が見える所まで来ていた
『おぉっ!何アレ!?バカでっかい真っ白な木が見える!』
『あれが神樹アルタナ、アーシェラ様たちハイエルフの住まう場所だよ』
「勇者様、ここから先は入れねえんでここで待ってまさぁ」
「ご苦労さま、よろしくお願いします」
馬車を降りたエリシアは歩き出す
渓谷を出て少し進むと生い茂る森林に差し掛かった
道と呼べるものは無く、木々の間をクネクネと進む
幸い、見上げると真っ白にそびえ立つ神樹が見えるので、進行方向に迷うことは無かった
「なんか入ってくんなって言わんばかりの森だな、道なんて無いし」
聖剣を収めたエリシアの隣に浮かぶシンジが言う
「それはそうだね、この世界では神樹は聖域とされる場所なのだし、普通はおいそれと足を踏み入れるべきではない場所なのだから」
「そういえばエルフたちはこの森にいるんだろ?全然姿を見ないけど」
「きっと警戒しているんだろう、アーシェラ様は私が訪れる事を知っているけれどその知らせが行き渡ってはいないんじゃないかな
姿は見えないけれど気配はチラホラ感じるし、様子を見ているといったところだろうね」
「ふぅん、そんなもんなんだね……まぁ普通は人が来ない場所なんだったら勇者が来るってのも知らなくて当然なのか
だからこそ人間が入ってきたら隠れちゃうのかな」
「だからなるべく刺激しないように、慎重に進もう」
エリシアは注意深く慎重に、木の間を進む
1時間ほど歩くと木と木の感覚が開いていき、さらに進んでいくと視界が一気に開けた
それまでの緑々しさが一変し、目測で直径20mはあろうかと思われる真っ白で神々しい大木がそびえ立っている
周りの地面も茂みさえも真っ白で、そこだけ時間が止まっているような感覚を感じさせた
「シン……私はこの景色を形容する言葉を知らない……美しいのは美しいのだが、それだけではない冷たさというか……」
「うん、わかるよ……なんかゾクッとする感じ、森を抜けた瞬間に毛がゾワっとしたというか」
普通の人間が無闇に立ち寄ってはならない理由を直感で納得した2人は立ち尽くすだけだった
そこへ声をかけてくるエルフの女性、この場の空気にそぐわない様な、あっけらかんとした話し声だった
「やっほー!来たね、エリシアちゃん!」
「アーミラ様、お久しぶりです」
「なになに?見違えたじゃん、その鎧!勇者っぽいね、てか勇者じゃんね!はっはー!
それに確かあんたは……シンジだったよね?ちゃんと役目果たしてるぅ?」
「あっ、俺見えてます?お久しぶりです!」
「ここは神域、お姉ちゃんのアーシェラは死者の魂を導く者……死者のあんたはバッチリ見えてるよ、相変わらず冴えない面してんねぇ」
「ほっといてくださいよ!ところで、ここは確かハイエルフっていう人達が住んでるんですよね?アーミラさん以外見かけないんですけど」
「よく知ってんじゃん、多少はお勉強してるみたいだね
みんなは奥にいるよ、まぁ着いてきてよ」
2人を促したアーミラは神樹の前に立ち、太い幹に手を当てて何やら呪文のような言葉を綴る
その言葉は人間である2人には理解できない言語だった
アーミラが言葉を言い終えると、人1人が入れるくらいの空間が開いた
「さっ、入って入って!」
あっけに取られる2人は言われるままにその空間に入っていくと、目の前には1面に色とりどりの花が咲く平原に立っていた
所々に白いログハウスのような家が建っており、奥には長い階段の上に木造の神殿のような物も見えた
「えっ……えっ!?どういう事?入ってきた穴も無くなっちゃってるし!神樹の中って事!?」
「空まである……アーミラ様、ここは一体?」
「ここは神樹アルタナの内部、って言っても空間が違うから……アタシにも難しい事は説明出来ないんだけどさ、とにかく着いてきなよ、お姉ちゃんに会いに行くんでしょ?
詳しい事はお姉ちゃんに聞けばわかるよ」
「そ、そうですね……では案内よろしくお願いします」
「はいはーい、ではレッツゴー!」
3人は平原の奥にある神殿へと歩き出す
周りを見るとチラホラと他のハイエルフの姿も見えた
話に興じている者や、木にもたれて本を読む者など
数は多くないが確かにここで生活しているように見える
そんな光景を観察しながら歩いているとアーミラが話しかけてきた
「ハイエルフたちってエルフ族全体で見ても希少種なんだよ、他にもダークエルフやハーフエルフってのもいるんだけどそいつらも数は少ないね」
「それは初耳です、エルフ族にも色々おありなのですね」
「まぁ人間ほどややこしくはない気がするけどねぇ、まぁ人間の事を気にするハイエルフなんてもっと少ないよ
アタシみたいな変わりもんくらいじゃないかな」
「変わりもんって自覚はあるんですね」
「うっさいシンジ、あんたの方がよっぽど変わりもんじゃん!」
「返す言葉もございません、だけどアーミラさん
アーシェラさんて方は重要な役目をされてるって話ですけど、ほかの皆さんは何してるんです?」
「見ての通りだよ、みんなのーんびりやりたい事やってるだけだよ
まぁでも凝り性なやつが多いから、歴史とか法術とかの研究に没頭してるやつが多いかな
人間よりはるかに寿命が長いからね、時間はたっぷりあるって事さ」
「ガネシャ様のお師様もエルフ族と聞きます、機会があればお会いしたいのですが……」
「それは難しいかもねエリシアちゃん、アタシも知らないことはないけど相当な変わりもんだしね
人間の弟子なんか取るくらいだからよっぽどだよ
約束は出来ないけど、運がよけりゃ会えるかもね
さ、そろそろ着くよ」
木造の白く長い階段をのぼり、大きな扉の前まで来た3人
アーミラが振り返って言う
「ここまで来といてなんだけど、アタシはここで待ってるからあんたたちだけで行ってきて
アタシこの場所好きじゃないんだ……
一つだけ忠告、意識を強く保って気を抜かないように」
要領を得ない2人はとりあえず返事をして神殿内へと入っていく
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