第24話『聖峰の渓谷 3』


捕らえた盗賊の案内で進んだ先、枯れ木の茂みの奥に人1人が入れる幅の亀裂があった

茂みをわけ入り体を滑り込ませると、少しずつ広くなっていき、岩山の天井が吹き抜けたスペースに行き着いた



「首尾は……っておい、誰だそりゃ?のこのこ連れてくるんじゃねえよったくよう……



奥の岩に腰掛けた細身の人相の悪い男が言う



「んで?うちのもんを可愛がってくれてるあんたは何者だ?」



関節を極めて拘束していた男を解放して応える



「人に名を尋ねるのならそちらから名乗るのが礼儀だろう、まぁ盗賊に身をやつす男に礼儀を求める方が酷というものか……」


「へっ、言ってくれるじゃねえかネエチャン

気の強い女は嫌いじゃないぜ、俺に勝ったら名乗ってやるよ」



そう言うと腰に装備している短剣2本を両手に構えて切りかかる

上下左右順手逆手と、器用に持ち替えつつ縦横無尽の連撃を仕掛けるが、エリシアは全ての斬撃を最小限の動きで躱していく



「荒っぽいがなかなかの打ち込みだ、頭をはるだけの事はあるね」


「うっせ!なんで当たんねえ!」



連撃のしめとばかりに両手で突きを放ってきたところをエリシアは盾で受け、『鏡装(ミラーリフレクト)』で相手の突進力そのまま弾き返した



「うわっ!ってて……なんだそりゃ!?ただの盾じゃねえな

……やめだやめだ!降参だ、勝てる気がしねえぜ」


「やけに潔いいじゃないか」


「へん、こちとら命あっての物種だからよ、勝てねえ勝負を続けるのはバカのやるこった」


『ちょっとあっさりしすぎてないか?なんか引っかかるんだよなぁ』


『あぁ、それは私も感じている……なにかあるのかもね』


「まぁ約束は約束だ、俺はここらの盗賊連中を束ねているジョーってんだ、で?あんたは?」


「私はエリシア、エリシア・アウローラ……聖フリオール国王より『聖光の勇者』の二つ名を頂いている」


「へぇーっ、あんたが噂の勇者さんか……どおりで勝てねえわけだぜ」


「大人しく投降するならば手荒な真似はしない、抵抗するようならその限りではないが……それに抗ったところで後から王国騎士団の部隊がこちらへ来る手筈になっている」


「もう手詰まりじゃねえか、抜かりのねえこった」


「にしてはえらく余裕があるように見えるな、それに手下共も逃げたまま頭の元に助けにも来ない」


「察しがいいやつだなぁ……さすが、元千人隊長様だ」


「知っていたのか?」


「あんた有名人だぜ?自覚ねえのかよ」


『エリー、もしかしてこいつ時間稼ぎしてんじゃね?

手下連中の動向も気になるし……』


『ただ逃げたのではない……?だとしたら!』


「ジョーとやら、無駄話はここまでだ……手下たちはどこへ行った?」


「さぁて……どおだろうな……っと!」



ボフッと目の前が煙に包まれる、ジョーが懐から煙玉を投げつけたらしい事は勘づいたが視界を奪われてしまった



「ゲホッゴホッ……くっ!」


『逃げちまったぜ、追いかけないと!』


『うん、でも大丈夫だと思うよ』


『なにか考えでもあるの?』


『予定通りならね、彼ならすぐに来るはずだ』


『彼?』






*****





「ちくしょーっ!待ち伏せまで用意してやがったのかよ!」


「盗賊風情がわめくんじゃねえよ、おい!さっさと連れて行け!」



エリシアが乗ってきた馬車の方へ戻っていくと、騎士団数名の部隊にジョーが捕えられていた



「よう、久しぶりだなエリシア」


「来ると思っていたよ、チャーリー」


『誰?この人』


『王国騎士団千人隊5番隊長チャーリー・スタインベック

今日は東の平原で演習が予定されていたからね、そこに要請書を届けてくれたら彼ならすぐに来るはずだと踏んでいたのさ』


「上に報告する前に来たんだから、何もなけりゃお咎めもんだったんだぜ?」


「お前なら来ると思っていたよ、騎士団も対応に苦慮する地域だけど私が動いているなら何かあるはずだと」


「勇者が直々に要請を出すんだ、それにお前の事だから俺の隊が近くにいた事も承知の上なんだろ?見透かした真似しやがって……

だから誘いに乗って有難く手柄を頂きに来たってこった」


「懸案だった東側の盗賊一味の捕縛、いいボーナスになっただろう?ほら、これを」


「何だこの書状は?」


「団長殿への口添えだよ、チャーリーの協力があったからこそ成功しました……ってね」


「お前ってそんなしたたかなやつだったっけ?まぁいいや、そのおかげで懐も温まって評価も上がるんだしよ」


「代わりと言っては何だが、商工会の会長に馬車の代金を支払っておいてくれるかな?」


「ふん、そんくらいなら安いもんだ、お前からどうしてもって預かったと言っといてやるよ

じゃあ俺らは行くわ、せいぜい頑張んな」


「あぁ、そちらもな」



チャーリー以下数名の小隊は盗賊のリーダーであるジョーを連行して去っていった



『彼は野心が強い方でね、こういう話には飛びついてくるだろうという算段があったのさ』


『エリーの元同僚なのか、なんか態度のデカい人だったなぁ』


『だが腕は確かだよ、それに他の隊だったらこんなにすぐには動けなかっただろうし、偶然5番隊の演習の日程と重なっていて幸運だった』


『でもエリーなら1人でも制圧出来ただろ?仮に商工会に盗賊たちが向かっていても、そこになら騎士団は間に合っていただろうし……チャーリーさんて人に花を持たせたって感じ?』


『そこまで気づいたのか、すごいなシンは

まぁ今後も騎士団に助けを求める場面もあるかもしれないし、その辺を汲んでくれたからこそ馬車の代金も私の顔を立ててくれようとしているんだろうね』


『すごいのはエリーだよ、あの短時間のあいだにそこまで考えていたんだから、尊敬しちゃうよ』


『私なんてまだまだだよ、とにかく、そろそろ神樹へ向けて出発しよう

もうすぐ渓谷を抜けるし、その先は神樹の森、そこを超えるとハイエルフたちの住まうアルタナに到着だ』


『そうだね、アーミラさんもエリーの事を待ってるだろうしね』


『シンの事もなにかわかればいいね』



意識内で話しながら馬車に乗り込むと

岩場の悪路をガタゴトと渓谷の出口を目指して走り出した


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