第2章『諸国巡りの勇幽道中』

第17話『勇者の凱旋 1』


聖剣の試練から1週間

往路と同じように野宿と拠点休息を行いつつ復路を進んだ

王国に近づく事に魔物の襲撃は減っていったが

襲ってくる魔物は聖剣を手にしたエリシアには触れることすら出来なかった


「お、もう城壁が見えてきたよ」


「帰りも何事も無くて良かった、魔物は何回か遭ったけどエリーの敵じゃ無かったね」


「この辺りは比較的安全だからね、これから先はそうもいかないだろうけれど

でも私にはこの聖剣と勇者様方、それにシンもついているんだ、負ける気がしないな」


「足を引っ張らないようにしないと、……てアレ?

なんか大門の近くが物々しい感じだけど」


「騎士たちの陣形を見るに……こんな時に要人警護か?」


「ちょっと見てくるよ」



そう言ってシンジはその集団へと近づいていくと

警護の騎士の中心にいたのはアンナだった



「アンナ!?なんでこんな所に!」



シンジを見つけたアンナは、一気に表情を晴らして手を振る



「いかがなさいましたか?アナスタシア姫様」


「あ、あぁ向こうにエリシアが見えます!

お帰りになられたようですよ、出迎えに参りましょう」



誤魔化しながら言ったアンナは騎士たちに気付かれぬようシンジにウインクする



『わざわざ迎えに来てくれたってのか?こんなに護衛を引き連れて……

奔放というかなんというか、でも嬉しいな!』



「!?アナスタシア姫様!」



アンナを見つけたエリシアは駆け寄って跪いた



「姫様直々のお出迎え、恐悦至極に存じ上げます

エリシア・アウローラ、ただいま聖剣の試練より帰還致しました」


「畏まらずとも良い、よく無事で戻られました

まずは城の方へ、王へご報告を

騎士たちも、わたくしのワガママに付き合わせてしいました……許すがよい

では参りましょう、勇者エリシア」


「はっ!」



敬礼したエリシアはシンジに目配せをすると、それを合図に盾の中へと入っていく


3勇者の魂がいる所より手前で留まる事で、2人は思念で会話出来ることを道中で発見していた



『びっくりしたぞシン!まさか姫様が直々にお出迎えにおいで下さるとは……』


『俺もびっくりだよ、でも嬉しいじゃないか

その為に何人も護衛に割かせるのは感心しないけど、こんな理由でもないとおいそれと外には出られないんだろうな』


『ふむ、それは確かにそうだな……

でも姫様のお目当てはお前ではないのか?シン』


『えっそうなの?』


『そうなの?って……仮にもアナスタシア姫様の友人となったのだろ?友の無事の帰還を喜ぶのは当然のことだろう

国王殿下との謁見のあとは私も色々あるだろうし、1度姫様の元へ出向いて差し上げた方がいいんじゃないかな?』


『それもそっか、エリーともそうだけど幽霊の俺の事を友達って思ってくれてるなんてほんとに嬉しいよ

なかなか聞けない土産話でもしに行ってやるか』


『あぁ、それがいい』



そうこうしているうちに大門をくぐったところで、早速盛大な歓迎を受けた


通りを挟んで大勢の人たちがエリシアの帰還を歓声と共に祝福していた

用意されていた屋根のない馬車に乗り込み、民衆に手を振りながらゆっくりと城へと向かっていく





*****





「エリシア・アウローラ、聖剣の試練を終え帰還致しました」



謁見の間で跪き、恭しく国王へと報告を述べる


出立式典の時と同様に宰相カムラン、騎士団長ガイラス、法術士長シエナ、アナスタシア姫の4人も左右に控える



「大儀である、そなたの無事の帰還心より喜ばしく思う

早速ではあるが、勇者の証を」


「はっ!」



エリシアは柄を握り、盾の中のシンジへとイメージを伝達する

盾から柄を引き抜き、光り輝く細身の長剣を国王に見えるように高く掲げる



「なんと……!王国に伝わるどの剣とも違う、かような輝きを放つ剣があるのか!

まさしく勇者が振るうにふさわしい、文字通り闇を祓う剣と見える!」



感嘆の声を漏らす王、周りの者も伝え聞く聖剣の様子と全く違うエリシアの剣に目を奪われた



「勇者エリシアよ、その光の剣を以てまさしくこの世界の光として世を照らさん事を願い、『聖光の勇者エリシア』の称号をそなたに与えよう」


「はっ!ありがたき幸せにございます!」


「今後の事は『予言』を待ち、追って知らせを出す

まずは旅の疲れをゆっくりと癒すが良い

聖光の勇者エリシアに希望あらんことを……」



立ち上がり去っていく国王に、全員が敬礼して見送る


剣を収めたエリシアをガイラスとシエナ、アナスタシア姫が囲む

カムランは相変わらず一言も無くその場をあとにする



『前もそうだったけど、あの人一言くらいあってもいいと思うんだけどなぁ』


『宰相殿はこの国の政治のまとめ役だ、お忙しいのだよ』


「おかえり!エリシア、お前その剣凄いな!正直びっくりして声も出なかったぜ」


「確かに、法術で生み出した刃とは全く違う力を感じました」


「私も初めて見た時はびっくりしました、シエナ様でも扱えない力なのでしょうか?」


「詳しく調べてみないとわかりませんが、私たちの扱う法術とは系統が違うものなのでしょう」


「それよりもエリシア、せっかくそんな凄いもん手に入れて帰ったんだ

1手どうだ?手合わせしようぜ、久しぶりに揉んでやるよ!」


「騎士団長殿直々にですか!?」


「俺じゃ不服だってのか?」


「滅相もございません!ですが私なんかが太刀打ち出来るかどうか……」


「なにぬるい事言ってやがる、俺とやり合えないようならこの先やってけねえぞ」


「それにその剣の性能も見てみたいものです、お受けしてはどうです?」


「わたくしも拝見しとうございますわ」


「シエナ様に姫様まで……わかりました、胸をお借りします!」


「よっしゃ!ならこの後準備の出来次第、騎士団の鍛錬場で集合だ

シエナさん、姫様、では後ほど」



コートを翻して去っていくガイラスの背中は楽しそうに見えた


シエナとアンナも一礼してその場を去っていく



『あの人ってめっちゃ強いんだろ?大丈夫?』


『強いなんてものじゃないよ、この大陸中で見ても団長殿と互角に戦えるのは竜族の戦士長だけだと聞いている』


『竜族?そんなのもいるのか……じゃこの世界でトップの強さって事?やべーじゃん!』


『まず勝てはしないだろうな……過去に訓練をつけてもらったことがあるが、子供扱いだったよ

でも少しは食らいついてみせるよ』


『……そうだな、これから旅に出たらもっと強い相手に出会うかもしれないしな……っしゃ!俺も気合い入れるよ!』


『ここで今の自分の限界を知っておくのも大事だろう、早く聖剣を使いこなせるようにもしないとだしね

よし!共に行こう、シン!』



盾の内部にいるルートヴィッヒから、エリシアに聞こえないようにシンジに語りかける



【シンジくん、君には先に伝えておくけれど……】



『?どうしたシン?』


『いや、行こうかエリー』



ルートヴィッヒからの言葉を受けて、シンジは自分の役目の重要さを再確認する


【俺がきっちりエリーを護ってやるよ、できるかわかんないけどやるしかない!】

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