第16話『古の英霊と現の幽霊 3』


「500年……あなたが来るのを待っていた」



聖剣のそばにたたずむ小柄の女性が言う



「あなたが「御霊の遣い」でしょうか?」


「そうだ、エルフ族のハイエルフ、王女アーシェラの妹で名をアーミラという

誇張でなく実際に500年待った……はぁーっ長かったー!

ルーが言うからこの役目をやるハメになったんだけど

長いよ!500年は長い!」



急に砕けた物言いに変わった御霊の遣いに2人は面食らってしまった


『この人俺が見えてないのか?御霊の遣いって言うくらいだから見えると思ってたけど……

てかエルフってほんとに長い耳なんだなぁ』


「あ、あのぅ……ルーと言うのはもしや

先代勇者のルートヴィッヒ・ダンストン様の事でしょうか?だとすれば貴方様はその先代勇者と共に旅をしたハイエルフ、アーミラ様で?」


「そだよ!そのアーミラ!当時はアタシもまだ20代だったんだけどねー

ちなみにその更に先代、1000年前のハイエルフがお姉ちゃんのアーシェラだよ」


『1000年!?』

「1000年!?」


「そりゃ驚くよねー、もう引退したけどうちの国のご意見番になってるお母さんは聖フリオール王国の建国に立ち会ったらしいよ!」


「なんとも……スケールが大きすぎて想像が追いつきませんね……」


「まぁでもここでエリシアちゃんがやる事には関係ないんだし、気にしない気にしない」


「私はここで何をすれば良いのでしょう?」


「あれ?何も聞いてこなかった?まぁいいや

えっとね、まずはこのくたびれた大剣を引き抜いてちょうだい」


「くたびれた……それが聖剣では無いのですか?」


「まぁ聖剣っちゃ聖剣なんだけど、この姿はルーが使ってた時のもので、ルーがここに来た時は違う形だったらしいよ

持つ人に合わせて形を変えるみたいね

エリシアちゃんはどんな形になるのかなー?」


「なるほど……では、失礼致します」



大剣の刺さった岩の前に進み、柄に手をかける

そのまま上に持ち上げると呆気なく引き抜けた



「はいおめでとー!第1段階クリアー!」


「はぁ、ありがとうございます……随分と呆気なく抜けたのですが……」


「それはエリシアちゃんが予言で選ばれた子だからだよ

まぁ引き抜けた時点でほぼ勇者確定なんだけどね

普通の人には抜けないし、てか普通の人はここには入れないしねぇはっはー!」


「で、では……あといくつかの工程があるということですよね?次は何をすれば?」


「ううん、第2段階で終わりだよ!」


『少なっ!』


「その剣を前に掲げて念じてみて、サプライズゲストが登場するはずだから」


「わかりました……」



エリシアは剣を掲げて目を閉じ集中する

すると剣が光り、目の前に3人の男が出現した



「はいオッケー!てかルー!超絶お久っ!!」


「あぁアーミラじゃないか、長い間ご苦労さま……君は変わらないね」



爽やかな好青年がアーミラに応えた



「あ……あの、もしやルートヴィッヒ様でございますか?」


「うん、僕がルートヴィッヒだ

横におられるのが1000年前の勇者ハインライン様と

1500年前の勇者ダンテ様だ

それにしても驚いたよ、次の勇者が女の子だなんて」


「歴代の勇者様方……私は元王国騎士団千人隊長エリシア・アウローラと申します!

未熟者ではありますが、全身全霊をもって使命を全うする所存でございます!」



3人の勇者の魂は、跪き宣誓するエリシアを見て満足気な表情を浮かべていたが…………



「ねぇねぇエリシアちゃん、ルーたちが出てきてやっと私にも見えたんだけど……なんで魂が4人いるの?

てかこの人誰?」



アーミラはキョトンとした顔でシンジの方を見やった



「俺の事見えました?てか御霊の遣いって言われてるから

てっきり最初から見えてるのかと思ってたんですけど」


「だってアタシってエルフ族史上初のモンクだったからね!

武闘派ハイエルフとして結構有名だったんだよ?

ルーがやってくれって言うから引き受けただけだしー」


「まぁ歴代ハイエルフの役目だったし……けれども参ったねこれは……先輩、これはどうすべきなんでしょう?」



ルートヴィッヒは先輩勇者に聞いた



「えぇっと……オレぁ難しい事はわかんねえよ

でもこのまま入っちまっちゃマズいんじゃねえの?

そこんとこどうなんすか?ダンテ先輩」


「ハインラインの言うように、我らを収るべき剣にどのような影響が出るのか検討がつかぬが……

そなたは何者だ?見たところ魂の姿で理性を保てているようだが、もしや我以前の英霊という事なのだろうか?

その衣装も見慣れぬものだが……」


「いえいえ!俺死んだのつい最近ですし、元々この世界の人間でもないんです!」


「おお!ここへ来てスーパーサプライズゲスト!?」


「ここははしゃぐところじゃないだろうアーミラ……

それで?まずは詳しく話を聞かせてくれるかな?」


「えぇっと……じゃまず最初から順に……」






*****





「……という事なんです、わかりづらくてすみません……」


「いや、経緯はよくわかったよ、大変だったね」


「でもよルートヴィッヒ、経緯はわかったけど原因が謎じゃね?異世界から魂だけがこっちに来ちまったってことだろ?」


「闇の門が影響している可能性が高いのであろうが、ハッキリしたことは言えぬな……」


「まぁ闇の門自体が魔物の世界と繋がるゲートである以上、シンジくんの世界とも、偶然かどうかはわからないけれど繋がってしまったと考えるのが自然なのかもしれないね」


「ルートヴィッヒ様、私はこのままシンと一緒に闇の門を目指そうと思うのですが……」


「うん、それはその方がいいかもね

原因を探るにしても、彼を元の世界に戻してあげるにしてもね」


「だがまだ1つ問題があるぜ、誰が聖剣に宿るかって事が」


「ハインライン様、聖剣に宿る……とはどういう事なのでしょう?」


「エリシアよぅ何も聞いてねえのか?ダンテ先輩は初代だから別として、俺の時はダンテ先輩の魂を、ルートヴィッヒの時は俺の魂を剣に宿して旅をしていたからな」


「ですがエリシアには既にシンという魂が着いています」


『着いているのか、憑いているのか……俺ってどっちなんだろ?』


「あの、くっ付いてるのか取り憑いてるのか自分ではわからないんですけれど、今の俺って割と自由に動けるんですよ

エリーから離れられないって訳じゃないし」


「とすると、我らとはまた別として考えるべきなのかのう

どうであろうハインライン、ルートヴィッヒ

我ら皆で入ってしまうと言うのは?」


「「どうであろう」ってか相変わらずダンテ先輩ってそういうとこ大雑把っすよね、おもしれぇけど!」


「ハインライン様もたいがいですよ……でもそうなると我々の意識はどうなるのでしょう?

流石にエリシアの負担が大きすぎる気がするのですが……

アーミラ、何か案は無いかな?」


「んーん、難しい事はわっかんないんだけど……

いっそ3人の仲介役にそのシンてのがなればいいんじゃないの?」


「えっ!!俺がですか!?」


「なるほど、それはいい案かもしれないね

シンジくん、僕たち3人はなるべく表に出ないようにするから君がエリシアと僕たちの間に立ってくれないか?」


「そりゃ俺ができることなら、エリーの助けになれるならやりたいですけど……具体的にどうすれば?」


「勇者の持つ聖剣は、持つ者の資質と宿す魂によって形状が決まる

エリシア、僕に考えがある

その剣を掲げて集中してくれるかい?」


「はい……」



エリシアが集中すると、剣が光り形状を変化させていく



「こ、これは……!」



光が収まってエリシアが持っていたのは、装飾の施された美しい盾と

それを鞘のようにして収まる剣の柄が上部から出ているものだった



【元騎士のエリシアに扱いやすい物をイメージしたのだけれど、気に入ってくれたかな?】


盾の中からルートヴィッヒの声が聞こえてきた



「はい!何かずっと前から使い慣れているような、しっくりくる感覚です」


【それは何よりだ、ではその剣を引き抜いてみてくれるかい?】



言われるとおりに盾から剣を引き抜くが

鍔から先の刃が無い



「ルートヴィッヒ様、刃が無いのですが……」


【そこが僕の妙案なのさ、では一旦剣を収めてもらって……シンジくん、その盾に飛び込んでみてくれ】


「盾に飛び込む?どういう事ですか?」


【つべこべ言わずに来りゃあいいんだよ!】


「ハインラインさん?えぇっと……こうかな?」



シンジはフワフワと浮かぶ体を盾にぶつけるように飛び込んでいくと、盾の中央にある宝石のような装飾の中に吸い込まれていった



「シン!?大丈夫か?」


【うん、大丈夫……てか勇者さんたちが目の前にいるんだけど】


【それでいい、ではエリシア、僕をイメージしながら柄を握って

シンジくんは流れてくるイメージを僕に繋げてくれるかい?】


「【わかりました】」


【……うん、いいね、じゃあ一気に引き抜いてみて】



エリシアはイメージを保ちながら柄を盾から引き抜くと

光り輝く細身の長剣が現れた



「すごい!剣が光ってる!」


【どうだい、凄いだろ?】


「なるほどね、これがルーのアイデアか……面白いじゃん」


【最初のうちは僕の力を使うといい、慣れてきたらハインライン様やダンテ様の力もお借りできるようになるよ

その中継役にシンジくんが必要ってわけさ】


「ダンテ様も大雑把だけどルーもたいがい突拍子もないよね、全然かわってないじゃん」


【アーミラだってハチャメチャだったじゃないか

でも上手くいっただろ?

エリシア、剣を収めようか】


「わかりました」



盾の裏側の鞘に剣を収めると、盾の装飾からシンジが出てきた



「ふぅ、ただいまエリー」


「おかえりシン、大丈夫?」


「俺は全然平気だよ、俺にもやれる事ができて良かったよ

ルートヴィッヒさんに感謝しなきゃ」


【構わないよ、それと……

僕らが表に声を届けるのはエリシアに負担がかかるから、これからは基本的には奥に引っ込んでるからね

君が勇者の助けになってあげて】


「わかりました!」


「アーミラ様、これから先はどうすれば良いでしょう?」


「んーん、先ずは一旦国に帰ってヘルベルト国王に報告した方がいいんじゃない?

聖剣の試練をクリアして勇者になって凱旋て事で」


「了解しました」


「その後の事は多分国王から話があるんじゃないかな?

てか歴代勇者3人分の力を宿した聖剣なんてトンデモアイテム手に入れちゃったんだから、闇の門なんて消し飛ばせるかもね

そうなったらすっごいよ!もう魔物が出てくる事も無くなっちゃうしね」


【アーミラ、無責任な事を言うんじゃないよ

でも、こんなケースは初めてだから何かが起きるかもしれないと期待はしちゃうよね】


【光の勇者エリシアよ、この世界を頼むぞ】


【俺たちがついてんだ!ぜってぇ上手くいくって!】



「ありがとうございます勇者様方、必ずこの世界に光を……

改めてこれからもよろしく頼むね、シン!」


「すごく大層な役目だけど、エリーの助けになれるんだ

頑張るよ」


「あれ?ルーが引っ込んだらシンが見えなくなっちゃった

まぁその方が都合がいいのかな?

とにかくこれでアタシの役目は終わったね!

おつかれアタシ!」


「アーミラ様はこれからどうなさるのですか?」


「アタシも国に帰ってしばらくはのんびり過ごすかなー

どうせウチにも来る事になるんだし、その時はお茶でもしよーね!」


「はい、喜んで!」


「じゃ帰ろうか、エリー

勇者になった報告をしなきゃね」


「あぁ帰ろう!」



こうして無事勇者となったエリシアは、正式にパートナーとなったシンジと共にこの世界を救うための旅に出る事になる


まだ見ぬ世界を巡り、まだ見ぬ仲間を探しての

後世まで語り継がれる事になる、奇妙なコンビの冒険譚の始まりだった


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