第15話『古の英霊と現の幽霊 2』
拠点に到着しログハウスの中に入ると、簡素なベッドが5つありそれぞれのベッドの横には小さな棚が備え付けられていた
あとは炊事場とトイレ、奥には人1人が入れるだけの浴室があるだけだった
「結構立派じゃん、普通に住めるよここ」
「ここに数日滞在する事も想定されているからね
浴室がせいぜい湯浴みできる程度しかないのが唯一の不満点かな、まぁあくまで拠点であって家ではないのだからこれで充分なのだけれどね」
エリシアは荷をおろし、鎧を外しながらシンジに話す
「やっぱり女の子としてはゆっくりお風呂に入りたいって感じかな?俺なんてカラスの行水みたいなものだし」
「カラスの行水?」
「あぁ、元の世界にはカラスっていう黒い鳥がいて
ササッと水浴びしてサッと飛び立っちゃうから、早風呂の事をそう言うらしいよ」
「シンの世界のことわざだな、面白いね
さて、夕食の準備にとりかかろうかな
屋敷ではする必要がなかったけれど、料理には少し自信があるんだよ」
腕まくりをして炊事場へと向かうエリシアについて行く
「食べられないのが残念でならないよ」
「シンに食べてもらえないのは私も残念だ」
「こんな可愛い子の手料理なんて、そんなチャンス滅多にないのになぁ……」
「かかっ可愛い子なんてそっそんな!」
『あっ!やっちまった、つい本音が……』
シンジはエリシアに意識させないように、意識して言わないようにしていたが
またも顔を赤くして緊張してしまった
「かかからかうのはよしてくれ!そんな新婚夫婦みたいな……新婚夫婦!?今ここには私とシンの二人っきり……きゃー!
そそ!そんな私みたいなものががお嫁さんだなんてシンに悪いし!」
『なんかエスカレートしてる?てか暴走してる?』
「落ち着いてエリー!確かに二人しかいないけど新婚夫婦じゃないし!てかエリーがお嫁さんで悪いわけないし!
じゃなくて、とにかく落ち着いて!」
「はぁはぁ……私ったら何を!?す、すまん
おかしな事を言ってしまったみたいで……」
「いや、それはいいんだけれど……」
『これからはもっと気をつけないと、てかめっちゃ可愛いんだけどっ!』
エリシアは頬に手を当て、上がった息を整えていた
「とにかく、俺は幽霊だけど一応男だし
幸いもう一棟あるし俺はそっちに行くからさ」
「そ、そうか……それもそうだな
シンも男の子だものな、同じ部屋に男女が二人っきりというのも……わ、私は構わんのだが流石にそこはキチッとしておこう……まだ先もある事だし」
『構わんのかい!どこまでその気かわかんないんだよなぁ
素直というか純粋な子だし……俺みたいな幽霊にその気なんてあるわけないんだけど』
「じ、じゃあ俺は隣の小屋に行ってるからさ
今日はゆっくり休みなよ」
「あ、あぁ……少し落ち着かないとね、シンもゆっくり休んでね」
「うん、そうするよ」
シンジは部屋を出て、1人考えていた
『ゆっくり休むと言っても眠れないしな、ついて行く限りは役に立たないと』
シンジは小屋の屋根の上へ上がり、一晩中周囲を見張る事にした
眠れない幽霊にできることと言えばそれくらいのものだったが、この旅の間はその役目を果たそうと決めていた
*****
「いかんなぁ……また取り乱してしまった
いい加減慣れないと……でもなんであんな事を言ってしまったんだろう
恥ずかしいなぁ」
夕食を済ませベッドに横になったエリシアは思い返して考えていた
『今まで褒められた事は何度もあったのに、なんであんなに取り乱してしまうんだろう……
気を使わせてしまって申し訳ない、眠れるかな?今夜……』
混乱する気持ちを切り替えるために、うつ伏せになり枕に顔を埋める
「しっかりしなきゃ、私」
*****
夜が明け、気を取り直した2人は旅を再開する
その後は何度か魔物と戦う場面もあったが、元千人隊長のエリシアにかかれば苦戦するはずもない相手ばかりだった
順調に進み、野宿と拠点での宿泊を繰り返しながら
目的地が見えるところまでやってきた
「おぉあれが……初めて見る……」
エリシアの視線の先には、岩肌の壁面にある洞穴に扉をつけたようなものだった
「あれがそうなの?てっきりもっと神殿ぽいのがあるのかと思ってたよ」
「私も最初はそう思っていたよ、話には聞いていたんだけどおいそれと近づいていい場所ではないしな
とにかく行ってみよう」
その扉へ近づき開けるために触れようとするが
見えない壁に当たって扉に触れられなかった
「結界が張ってある、門番らしき者もいないし……」
どうしたものかと思案していると若い女性のような声が聞こえる
「参られたか、予言の勇者よ……」
「エリシア・アウローラ、聖フリオール王国より聖剣の試練へ挑むために参りました」
「待っていた、どうぞ中へ……」
もう一度扉に触れてみると、ギィッと音を立てて開いた
「おぉ、開いた!」
「……いよいよだな」
「なんか俺まで緊張してきたよ」
「私もだ……さぁ、行こう」
2人は真っ暗な入口に1歩踏み出すと
手前から奥に向かって続く通路の壁面の松明に火が灯っていき、地下へと降りる階段が見えた
その長い階段を降りていき、突き当たりの扉を開くと
広めの部屋になっており、奥の方に岩に無骨な大剣が突き刺さっている
そのそばにいた小柄な女性が口を開いた
「ようこそ、聖剣の祠へ」
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