第13話『予言の王とお姫様 4』


ひょんなキッカケから、一国のお姫様とお友達になったシンジは

暇を持て余していた姫のかっこうの話し相手だった


元の世界はどんな所か?

シンジがどんな生活をしていたのか?

王様はいないのか?

魔物を知らないってなんで?


などなど……矢継ぎ早の質問攻めにあっていた



「魔物がいないのに軍隊があるなんて変なの、それに

ミンシュシュギっての?王様がいなきゃまとめるのすごい大変じゃん」


「まぁそうなんだよね、トップがコロコロ変わっちゃうし

大昔はお殿様っていう王様みたいな人がいて、騎士の代わりに侍ってのもいたんだよ」


「別にそのままで良かったんじゃないの?なんかややこしいね、シンの世界って」


「まぁでも俺の国はそれなりに平和だよ」


「アンタみたいなのが生きていけてるんだもんね

あっ、死んじゃったんだっけ!わはははっ!」


「ひっでーな!確かに死んでっけど!」


「でもさ、アンタほんとに面白いね!

パパとママはずっとお城にいるしさ、この塔には何人かの親戚と王国王政庁の役人と兵士がいるだけでつまんないんだもん」


「でもガネシャさんが、アンナが小さい頃に遊んだ事あるって言ってたよ?今はあまり会わないの?」


「ばあちゃんも基本的に忙しいしさ、第一ここまで上がってくるのも手続きとか面倒だしほとんど人なんて訪ねてこないよ……私がホイホイ出ていける訳でもないしね」


「そうなんだ……俺でよかったらまた話しに来るよ」


「当然よ!もう友達なんだからっ」


「俺なら何も気にせずここまで来れるしな、今度はアンナの話をもっと聞かせてくれよ」


「私の話なんてつまんないよ……ほとんどここにいるんだし」


「アンナの事が知りたいって言ってんの、つまんなくなんてないよ」


「な!なに調子のいい事いってんのよ!ま、まぁシンがどうしても聞きたいって……言うなら」


『あれ?なんかエリーみたいな反応?』


「話してあげるから……また必ず来なさいよ」



ドレスの裾をキュッと掴んでアンナは呟いた


『今までよっぽど寂しかったんだなぁ、俺兄弟いないけど

妹ってもしいたらこんな感じなのかな?

お姫様つかまえて失礼なのかもだけど』


「うん、必ず来るよ……約束だ」



シンジはアンナの目の前に小指を突き出した



「?なにこれ、小指?」


「俺の国では約束する時に小指どうしを結ぶんだ

『指切り』って言ってね

この約束は絶対守るよって」


「へぇー!面白いね!

えぇっと……こうかな?」



アンナはシンジの透ける小指と交差するように自分の小指を合わせた



「うん、約束な!」


「えへへっ、約束っ!」



アンナと指切りを交わし、別れを述べて塔をあとにしたシンジはエリシアの屋敷へと戻っていった





*****





「コンコン!」



エリシアの部屋に入る時は恒例となっている声でのノック


その声を合図に中から声が聞こえた



「シンか、入ってもいいよ」



エリシアの許しが出てシンジがドアをすり抜けると、普段着で荷物の整理をしていた手を止めて笑顔を向けた



「ただいま、エリー」


「おかえり、姫君の様子はどうだった?」


「エリーの言ってた通り、話し相手が欲しかったみたいだね

俺を呼んだのも、俺なら他の人に見えないし気兼ねがないからちょうど良かったんじゃないかな?」


「そうか、寂しい思いをされておられたのだな」


「それはそうだろうね、じゃないと幽霊なんかと友達になんてなろうと思わないだろ」


「友達だと!?そんな畏れ多い事を!」


「いやいや、アンナから言ってきたんだよ

俺死んでる人間だしどうしようかと思ったんだけど」


「アンナぁ!?さすがに不敬にも程があるぞシン!

いくらこの世界の者では無いとはいえ……」


「待って待って!それも向こうが決めたんだよ

友達なんだから、かしこまったらダメだって……」


「そ、そうなのか?……まぁ姫君の望んだ事ならば逆らう訳にもいかないけれど……」


「でも逆らえないからって訳じゃなくて、あの子見てたらなんかほっとけない気もしてね

俺が話し相手になって寂しさがまぎれるんなら、そうしてやりたいなって思っただけだよ」


「シン……お前はやはり凄いな

我らが王国の姫君だが、王国民である以上姫君の御友人など誰にもなれんだろう

お前の優しさが姫君の心に届いたのだな……」


「そんな大げさなもんかねぇ?普通だと思うんだけどなぁ」


「……ふふっ、お前の『普通』は暖かいな」


「よ、よしてくれよ……照れくさいなぁ」


『ほんとに特別な事なんて何もしてないんだけど……

ただの幽霊の事を高く評価しすぎだって』


「それで?そっちの荷造りはどう?」


「あぁ、もうだいたい済んだよ」



そう言ってサンドバックくらいの大きさの革袋を持ち上げてシンジに見せる



「済んだって……そんだけ?」


「あぁ、これで充分だ

馬が1頭支給されるし、干し肉などの保存食もあるから

足りなくなったら現地調達になるけど、あとは着替えくらいのものだよ」


「へぇ、テントとか持って行くのかと思ったけど

もしかして野宿?外は魔物がいるんじゃないの?」


「まぁいるとは言っても比較的安全なルートで向かうし、途中に数箇所ある小規模拠点も使えるからね

ちなみに遠征する部隊のための宿泊施設で最低限の物は揃っているから、持っていく荷物は最小限が好ましい」


「そうなんだ、俺は大丈夫だろうけど女の子が野宿するなんてあまりしない方がいいもんな」


「おいおい、女の子と言ってくれるのは嬉しいのだが

私は仮にも元千人隊長の騎士だぞ?そんなにヤワではない」


「あ、そうだった……ならエリーが寝てる間俺が周りを見ていてやるよ

だから安心して眠ってくれたらいい」


「それは心強い、アテにしているよ

もうこの屋敷はシリウス様に引き渡すから、今夜は両親のところへ帰ろうと思っているんだけど

シンも一緒にくるだろう?」


「ご両親のところへ?なら俺はやめとくよ」


「なぜだ?私の事なら気にしなくてもいいんだよ?」


「逆だよ、俺の事は気にせずに水入らずで過ごした方がいい

最後……って訳じゃないけどしばらく離れるんだからさ」


「そうか……すまない、気を使わせてしまったな

ならば明日の朝、私は1度この屋敷の前に戻ってくるからそこで落ち合うという事で構わないか?」


「もちろん、それで構わないよ

ゆっくり話してきなよ、んじゃ俺は適当にフラフラしてくるわ、また明日!」


「あぁ、ありがとう」



シンジは右手をあげて挨拶をしながら部屋から出ていった


『明日はエリーの晴れの門出だもんな、親と話せるならちゃんと話さないと……死んじまったら、話せないからなぁ』


夕暮れに差し掛かる街並みを見ながら、元の世界の親の事を考えていた


『もし戻れたら……夢枕にでも立って、ここでの話を聞かせてやろう

…………よけい混乱しちゃうかな』


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