第12話『予言の王とお姫様 3』


式典を終えたその日の夜

エリシアの部屋にガネシャも招いて話し合う


「……てな訳でさ、あの姫様には俺が見えてたらしいんだよ」


「何ともまぁ……しかも予言なされたのはアナスタシア姫じゃったとはのう

幼き頃よりその兆しはおありじゃったが」


「私の出立は明後日だから、明日姫君の所へ出向くのはいいのだけれど……くれぐれも粗相の無いように頼むぞ」


「それはわかってるよ、エリーの立場が悪くなるような事は俺だってしたくないしね

にしても、すげー口が悪いのな」


「私はほとんどお話したことが無いからわからないんだけれども」


「いやマジで、超生意気なんだもん

やっぱお姫様って事で甘やかされて育ってるのかなぁ」


「ワシは幼少の頃の姫様と遊んだ事もあるが、素直な良いお子であったがのう……お年頃ゆえそう言う時期でもあるんじゃろうて、大目にみてやっとくれ」


「まぁガネシャさんにそう言われちゃ何も言えないけどさ」


「きっとシンの事が珍しいのと、姫君も話し相手が欲しいのかもしれないね

ご兄弟もおられないし、寂しさもおありなのだろう」


「そういうものなのかなぁ、まぁ俺にしても話せる人が増えるのは嬉しいとは思うんだけどさ」


「とにかく、相手は一国の姫君なのだからくれぐれも粗相の無いようにね」


「重々承知しましたよ」


「ならワシはそろそろお暇(いとま)しようかね」



そう言って立ち上がったガネシャを2人が見送る



「遅くまでありがとうございます、表に馬車を待たせてありますので」


「ありがとうよ、助かるわい

シンジにちょっかい出されんようにの」


「しねーよっ!つーかできねーし!」


「ちょっかい?何かイタズラでも仕掛けるのか?」


「「……ぷっ、ぷはははっ」」


「何がおかしいのだ?」



2人の会話の真意を計れていないエリシアに笑いが吹き出す


『触れられないんだからちょっかい出しよーがねえじゃん………チクショー!』





*****





翌朝、荷物の整理などをしていたエリシアに挨拶をしてシンジは屋敷を出た


『そう言えばこっちに来た日以来か、1人で外に出るの

エリーから姫様のいる塔の位置は聞いてるし

迷う事はないだろ』


フワフワと浮かんで進み城へと着くと、誰にも気付かれずに壁をすり抜け目的地へと向かっていく


王族の塔の前に着いたシンジはそのまま浮上していき

最上階の部屋の窓の外まで来て中の様子をうかがうと

天蓋付きの豪華なベッドにうつ伏せで寝そべり

足をパタパタさせながら本を読んでいるアナスタシア姫を見つけた


『すっげー豪華な部屋、まさにお姫様って感じだな

油断しきってるな……ちょっとおどかしてやろうかな?』


スルスルと壁をすり抜けベッドの下に陣取る

おおよその位置を見定めて、姫が読みふける本めがけて

ゆっくり顔を出しながら、寝起きドッキリよろしくの潜めた声で



「おはよーございまーーす」


「んぎゃーーーーーっ!!!!」



怒髪天をつく勢いで飛び上がった姫は、奥の壁に備え付けられた立派な本棚にぶつかるまで止まらなかった



「わーーーっはっはっは!!ざまー!!」


「きききっキサマー!わらわを殺す気かー!」



姫が怒鳴り終わる前に数人の衛兵がドドっと押し寄せた



「アナスタシア姫様!いかがなされました!?」

「お怪我はございませんか!?」



腰が砕けて倒れそうなのを、本棚にもたれかかって支えていた姫の周りには本が散乱している



「なっなんでもない!ちょっとホラー物の本を読んでおって驚いただけじゃ……構わぬから出てゆくがよい!」


「「かしこまりましたっ」」



衛兵たちが出ていくのを確認してからこちらに向き直る



「はぁはぁ……はっ、はは……ははははっ!

小癪な真似をしよるのうお前!本当に腰が砕ちゃったじゃないの!はぁーー、ビックリしたァ!」



あがった息が整ってくると、涙を浮かべ腹を抱えて笑い出した


『話し友達が欲しいだろうと仮定して考えた、名付けて

「ビックリドッキリ急接近大作戦」成功って感じかな?』



「驚かしてすみません、でもこんな変なのが普通に入ってきても面白くないでしょう?」


「はーーっ、笑いすぎて腹が痛いわ

アンタよくわかってんじゃん!城の者たちはノリが悪くて面白くないんだもん」


「内心怒りを買って処刑でもされてらどうしようかとドキドキしてたんですよ?

もう死んじゃってますけどね!」


「ひゃーっひゃっひゃ!あーー!たまらん、腹がよじれる!

これぞ命がけのギャグ?ってかもうかける命もないっつーの、はははーっ!」


倒れ込んで足をばたつかせながら腹の底から笑い転げていた


『よかったーー!バカウケじゃん……ほんとに怒られたらどうしようかとは思ってたけど、上手くいったからいっか

笑ったら可愛いじゃんこいつ』



「はぁぁ〜……いやーこんなに笑ったのマジで久々だわ

アンタ気に入ったよ、えぇと……」


「坂崎真司です、シンって呼んでください」


「あぁシンね、よし覚えたっ!

とりあえず、この散らかった本を片付けてくれ」


「いやそれが姫様、俺透けちゃうんで触れないんですよ」


「なにそれマジで?超ウケる!

まぁいいや、後で侍女に片付けさせるし

それとシン、私の事はアンナって呼ぶ事!」


「えっ!?いいんですか?」


「もう姫様とか呼ばれるのもめんどくさいし、どうせシンが見える人なんてエリシアとガネシャばあちゃんくらいでしょ?いいじゃん、私らもう友達だし」


「姫様とお友達ですか!?」


「なに?嫌なの?」



距離を詰め上目遣いに迫ってくる

生意気な態度で気づかなかったが、外見だけはお姫様ヨロシクの高貴な整った顔立ちをしていた



「とんでもない!謹んでお受けします……っていえばいいんですかね?」


「もう!その硬っ苦しいのが嫌だっつってんじゃん

アンナでいいし、敬語いらないし……とりあえずオッケーって言えばいいの!」


「で、では……オッケー、アンナ!

俺たちは友達だ、よろしく!」



シンジはエリシアとそうしたように握手の形で手を差し出す



「触れられないんじゃないの?」


「気持ちだよ、気持ち」


「ふーん、そっか!」



少し考えた後、納得したようにニコッと笑い

透ける手を握り返した



「よろしく、シン!にししっ!」



その晴れやかな笑顔は、年相応の少女のような屈託のない爽やかな笑顔だった


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