第8話『国民的女騎士と冴えない幽霊 4』


「下降(フォール)、4階へ」



法術陣エレベーターで4階へ降りると、大勢の騎士たちがおりエリシアへ敬礼する



「ご苦労さまです、エリシア様

史上初の女勇者の誕生、心待ちにしております!」


「お疲れ様、そうなれるよう尽力するよ」



話しかけてきた騎士に笑顔で応えると



「我らが希望の騎士殿に、敬礼っ!」



歓声とともに一同が再度敬礼をする

それにエリシアも敬礼で応え、塔同士を繋ぐ城壁の回廊へ出た



「人気者なんだなぁエリーって」


「期待をしてくれるのはありがたい事だ、その期待に応えねばと身が引き締まる」


「俺だったらプレッシャーで潰れちゃうな、尊敬するよ」


「私はシンもすごいと思うぞ?

不慮の事故で死してなお、そのように素直な気持ちでいられる者を私は知らない……そもそも死んだ者と話したこともないがな」



イタズラっぽく笑って言ったエリシアの笑顔に、ようやく同い年らしい親近感を覚えた



「そらそうだ、多分死んだって実感がないんだろうなぁ俺

いや確かに死んだんだけど、それ以上に色んな事が起こりすぎて実感する暇がないって言うか……

まぁそのおかげでエリーみたいな可愛い子といられるんだから捨てたもんでもないかな」


「かかっかわっ可愛いなんて!もう20歳だぞ私は!」



また一瞬で顔が真っ赤になったエリシアをみてシンジはケラケラと笑った



「か、からかうのも大概にしてくれ……身が持たん」


「からかってなんてないって!ほんとにそう思うよ」


「お、お前は誰にでもそのような事を言うのか?」


「いやいや!そんな事ないって

でもほんとに不思議なんだけど、この世界の人ってみんなそんなに奥手なの?

俺だって元の世界では、どっちかって言うと奥手な方だと思ってたけど」


「い、いや、それはどうだろう?

確かに私はそういう事に疎いと自覚はあるんだが……

あまり大っぴらにそのような事を言われたことがないから

両親以外で社交辞令でなく言われたのは、……お前が初めてだ……」



恥ずかしそうにそう言うエリシアの顔は更に熱を帯びているように見えた


『ほんともったいねえなぁ、何してんだよこの世界の男どもは……』



「まぁそれはともかく、これからガネシャさんの所へ行くんだろ?」


「そうだ、この先の法術士の塔におられる」



城壁の回廊を進み見えてきたドアの横には衛兵が立っていた



「千人隊3番隊長、エリシア・アウローラだ

ガネシャ様にお目通り願う」


「エリシア様、ご苦労さまです

どうぞお進み下さい」



衛兵は敬礼してドアを開いた

中にはローブ姿に帽子をかぶった学者風の人たちが大勢いた



「おお、これはエリシア様ではありませんか」

「希望の騎士様のおいでですな」



口々に出迎える術士たちは帽子を取り一礼する



「ガネシャ様に用がありまして、研究室におられますか?」


「ええ、あの方はいつもあそこにいますよ」


「ありがとう、では失礼します」



さっきの塔と同じように、法術陣エレベーターを使って研究室のあるフロアへと向かった



「ガネシャ様、おられますか?エリシアです」



大量の本に囲まれた中からガネシャが顔を出した



「エリシアか?ここに来るなんて珍しいじゃないかい

……あぁ、こっちに来な

ワシの部屋で話すとしようか」



ガネシャはシンジに向かってウィンクで合図をした


促されて奥の個室へ入ると、更に本だらけで散らかっていた



「まぁその辺の本でも積んで座りな、椅子はワシのしかないからの」


「いえ、お構いなく」


「そうかえ、それで今日はどうした?

シンジの事で来たのかい?」


「ガネシャさん、今日の隊葬で知ったんだけど

殉職者の中にシンルゥって人がいてね、俺が元の世界で死んだあと目を覚ましたのがそのシンルゥって人の家だったんだ」


「なんと……そのシンルゥとやらの事はわからんが、同じ日に死んだ者の所へおぬしが来たという事か?」


「ガネシャさんでも見当つかない?」


「ワシは万能じゃないからの、でも……」


「でも?」


「前も言ったが「御霊の遣い」に話を聞くのが1番早いんじゃないかの?

隠す事でもないが、エルフ族の長の妹御にあたるお方じゃからの

そのお方でわからねば、エルフの女王であるアーシェラ様にお伺いを立てるしかないのう」


「しかしガネシャ様、アーシェラ女王に謁見できるのはエルフ族の中でも限られた者のみと聞きます」


「じゃが勇者となれば話は別じゃろ?

そうなれば遅かれ早かれお会いすることになるんじゃしの」


「なるほど、確かにそうですね」


「なんか大事(おおごと)になってきたなぁ、ほんと申し訳ない、巻き込んじまって」


「シンが気に病む事じゃない、私が通らねばならない道でもあるんだ

ガネシャ様もそれをわかっていてそう仰ったのでしょう?」


「まぁの、死者に関することはエルフ族に聞くのが1番はやいからの

ちなみにワシの師匠にあたるお方もエルフ族じゃ

その方にこの出来事に関する手紙を出した所じゃから

そのうち何か知らせがあるじゃろうて」


「ありがとうガネシャさん、恩に着ます」


「ワシもこんな事は初めてじゃからの、知識欲が疼くというもんじゃ

気にせんでええわい

それまではとりあえず街でもまわって色々見てこの世界の事を学べばよいわい」


「それは私が共に行きましょう」


「いいのか?エリー、忙しい時なんじゃないの?」


「1人で行くのも寂しいだろう?私も息抜きになるし構わない」


「ありがとう、言葉に甘えさせてもらうよ

なんかデートみたいだな」


「デデデデートっ!?そ、そんな大それた事経験がないぞ!」


「わっはっは!ええぞシンジ、騎士とユーレイのデートなんて前代未聞じゃわい」


「ガ、ガネシャ様もからかわないで下さい!」



笑い合うシンジとガネシャに、真っ赤な顔のエリシアが困り顔で抗議していた


『恵まれてるなぁ俺、いや死んでんだけども……

まぁいっか、今はできることをやるしかねえし』


シンジは見知らぬ世界で出会った2人のおかげで、なんとかやっていけそうだと希望を持っていた


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