第7話『国民的女騎士と冴えない幽霊 3』


「おぉ……言葉にならねぇ」



中庭から城内に入ると、その光景に目を奪われた


高い天井の大広間、中央には赤い絨毯がピシッと敷かれた大階段、そこかしこに飾られた品のある花や紋章の刺繍の入った垂れ幕

絵画のようなステンドグラスの窓から光が差し込んでいる



「こんなの映画でしか見た事ない!」


「ははっ、エイガという物がどういうものかはわからないけど目を見張るものだろう?」


「外から見た時にデカいとは思ったけど、中に入ってみるとヤバいな!

ほんと言葉が見つからないよ」


「普通はおいそれと中には入れないからな、城務めとして配属されるのも相応の試験をパスした者に限られる

これから向かう騎士団長室は、城の周りにある4つの塔のうちの1つのその最上階にある

他の3つには法術士長、宰相、王族の塔になっているんだ」


「王族ってこのお城に住んでないの?」


「この城に住まうのは王と妃殿下だけで、姫様と他の縁者は塔に住まわれている」


「へぇー、色々あるんだなぁ

これから行く騎士団長さんてのもトップクラスに偉いって事になるのか、ちょっと緊張するな」


「我々10人の千人隊長を束ねる方だからな、立派なお方だ」


「て事は1万人の騎士のトップ?

はー、さぞかし凄いんだろうなぁ」


「まぁそこまで緊張せんでも騎士団長殿にはお前は見えんのだ、問題ないだろう」


「あ、そっか……なら気楽に見学する気分でついて行くよ」


「うん、それでいい……さぁこっちだ」



エリシアは大広間の角にあるドアを開き、城壁と繋がっている塔の1つに入る

大広間程ではないがなかなかの広さだった


武器庫兼倉庫になっている1階の中央には太めの柱のような壁にドアがついており、部屋の壁側にある階段ではなく

そのドアを開けて中に入る



「エリー、階段で登るんじゃないの?」


「ふふん、シン……珍しい物を見せてやろう」



無邪気な子供のような笑顔が、仕事モードの顔と真逆で

シンジはドキッとする



「珍しい物?お、なんだこれ……床に模様?」


「これは「法術陣」という物でな……」



エリシアは法術陣の中央に立つと、右腕を前に出し



「浮遊(フロート)、最上階へ」



と言うと模様が光りエリシアが宙に浮き、どんどん上昇していった



「どうだ?驚いただろう

10階建ての塔を階段で登り下りするのは滅入るからな」


「おお!俺も一緒に上がって言ってる!すげー!

エレベーターみたいだ!」


「エレベーター?シンの世界にもあるのか?」


「機械で昇り降りするやつはあるけど、こっちのが断然すげーよ!」


「ほう、シンの世界はそれほどに機械が発達しているのか

それは1度見てみたいものだ」


「是非見せてあげたいよ、きっとエリーもびっくりするぜ」


「あはは、それは楽しみだ

さて、そろそろ着くぞ」



法術陣が止まり、目の前のドアを開けると窓から見晴らしのいい景色が見える

城下の街も一望できた



「おぉ、いい眺めだなぁ……うわ、街ってこんなに広かったんだ!それに本当に周りは壁で覆われてるんだな」


「市民と国を守るためだからな、街自体も相当な広さがあるからエリアを放射線状に10ヶ所に分けて

それぞれを10の千人隊によって警護しているんだ」


「そのトップがここにいるってわけか」


「その通りだ、では行こうか」



法術陣のエレベーターを出てすぐのドアを開けると階段があり、上に登っていくと最上階はワンフロアを執務室と住居に分けた造りになっていた


エリシアは執務室のドアをノックする



「千人隊3番隊長、エリシア・アウローラ入ります」



礼儀正しく、静かに開いたドアの奥には

立派な造りの大きなデスクとその奥に座る巨大な男の姿が見えた


エリシアと同じ真っ白な軍服と、豪華な装飾や勲章で飾られた赤いコートを袖を通さず肩に羽織った姿に

こめかみから顎まで続く髭と、バックに撫で付けられながらも荒々しく外へ跳ねる赤髪に彫りが深く貫禄のある顔

巨大な獅子が人の姿をしているような雰囲気があった



「おう!エリシア、隊葬おつかれさん」



威圧感のある風貌とは裏腹に、笑顔で気さくに話し始めた



「はっ、殉職兵5名の隊葬滞り無く終了致しました」


「お前の隊で、1度の作戦で5名とは珍しいな

堅実な部隊運びで死傷者が1番少ない隊なのによ」


「申し訳ございません、全て私に責任があります」


「責めてるわけじゃねぇ、厳しい事言うが死んだらそいつはそれまでのやつだったって事だ

騎士団に入ったからには命は王と国民の為にある

それをわかって入ったはずだ、死んだやつの事は気に病む必要はねぇ……だが忘れちゃならねえぞ」


「はっ、肝に銘じます」


「まぁとにかく今日はこれで終いだ、たまにはゆっくり休んでな

来週には「聖剣の試練」の出立式が執り行われる

日時は追って知らせるからよ」


「団長殿、その事なんですが……

なぜ団長殿のような文武兼ね備えた立派な方が選ばれず

私みたいな若輩者が候補になったのでしょうか?

やはり……国民へのパフォーマンスなのでは?」


「おいおい、今更そんな事言うかね

それにこれは王の予言を元に宰相、法術士長、オレらの3人が協議して決めた事……決してパフォーマンスなんかじゃねえ

神聖な試練をプロパガンダに使おうなんてもってのほかだぜ?

自信を持ちな、お前にはその実力と素養があると判断したんだからよ」


「身に余る光栄であると理解しています

ですが、勇者となるに相応しいのはやはりガイラス団長殿をおいて他にないと私は今でも思っております」


「よせやい、こそばゆい

オレは勇者様なんて柄じゃねぇよ、候補に選ばれたのはお前だ……ならばオレはオレの仕事をきっちりこなす

この国の事はオレに任せて、お前はお前の仕事をきっちりこなしてきな、後任の3番隊長代理はもう決めてある

シリウスの事は当然知ってるな?」


「なんと!?シリウス様が?団長殿の片腕と称されるほどのお方ではございませんか!?」


「あぁそのシリウス・ダラスだ、こいつならなんの憂いもなかろう?」


「憂いなんて恐れ多い!私のような若輩者には足元にも及ばぬお方……」


「謙遜するなよ、お前だってその若さで千人隊長まで上り詰めた騎士だ

シリウスもお前の実力を買っている、今回の事もあいつから名乗り出たことだぜ

だからお前は「聖剣の試練」に集中しな」


「…………エリシア・アウローラ、剣に誓って!」


「うん、それでいい

出立式の前に隊の引き継ぎを行うからそのつもりでいてくれ」


「了解しました、ではこれで失礼致します」



エリシアが胸に手を当て敬礼すると、ガイラスは満足そうに見送った


部屋を出て法術陣エレベーターに向かいながらシンジが言う



「あの人のオーラっての?なんか凄い圧力を感じたよ

でも怖くはなかった……」


「さっきも言ったが、私なんかよりもあの方こそ試練に挑むべきお方だと思うのだ……

あれほどの傑物、そうはおらん」


「昨日からちょいちょい話に出てくるけどその「聖剣の試練」ってなんなんだ?」


「この世界は、500年に1度魔物たちが活性化する時期があってな……魔物たちが現れる「闇の門」という物があるらしいのだが、聖剣を手にした勇者と選ばれし戦士たちでその門を封じる必要があるのだ

だが封印したところでまた徐々に門が開き、また少しずつ魔物が現れてくる

王国1500年の歴史の中で3度勇者がその任を負ったとされる

建国元年と500年毎に2度、今回が4度目となる」


「じゃエリーはその4度目の勇者って事になるのか」


「まだ勇者候補だがな、その勇者となるための試練が「聖剣の試練」だ

試練の祠(ほこら)へ出向き、そこに眠るとされる聖剣に認められてその聖剣を手にしたものが勇者なる

その後は各国をめぐり「選ばれし者の印」を持つ者を仲間に加え、最終目的である「闇の門」を目指すというわけだ」


「ふーん、大変な役目に抜擢されたんだな」


「でも名誉な事だ、私に務まるかどうか」


「きっとエリーなら大丈夫だよ、まだ全然知り合ったばかりで何言ってんだって思うだろうけど」


「いや、きっとこれも縁あって出会ったのだろう

ありがとう、精一杯頑張るつもりだよ」


「助けられてるだけじゃアレだし、何が出来るかわかんないけど俺も協力するよ」



シンジは自分の事もままならないのによく言ったものだと思ったが、本心からそうしたいと思っていた


そんな表情を読み取ったのか、エリシアは優しくほほ笑みかけた


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