第6話『国民的女騎士と冴えない幽霊 2』
馬車が止まり外へ出るエリシアに付いていくと
そこは城の中にある広い中庭で
たくさんの兵士と数人の一般人が並んでおり、その奥にある高さ2m程の石碑の前に神父風の男が立っていた
入り口にエリシアが着いた事に気付いた兵たちが胸に手を当て一斉に敬礼する
「うわっ、凄いな!」
「ここにはそれぞれの部隊長が来ている、百人隊長が10人
その百人隊長の下には10人の十人隊長がいて合計で110人だな……それと今回の隊葬で弔われる殉職者の御両親たち」
「その隊長って事は、エリーって本当に1000人の部下がいるって事だろ?マジでスゲーな!」
「私が凄いのではない、皆が担いでくれるからやっていけてるんだ……その大切な兵が命を落とした
せめてその魂が安らかなるように弔ってやらねばならん」
毅然とした表情に影を落として言う
「そうか……成仏するといいな、みんな」
「ジョウブツ?シンの世界ではその様に言うのか……
優しい男だな、お前は」
「え?何が?」
「お前自身がそのジョウブツとやらが出来ぬ身なのにも関わらず、顔も知らぬ者達の魂の平穏を願ってくれるだろう?」
「それは、まぁ俺みたいなのって特殊なんだろうし……
それに普通の事だろ?」
「……普通か、うん……そうだな」
エリシアはどこか満足そうな笑顔を浮かべた
「どうした?」
「ん?いや、何でもない
シンはここで待っていてくれ
奥にいる彼は神父、神に仕える者ゆえお前に気づくかもしれん……用心にこした事はなかろう?」
「あぁそうか、わかった……ここで待ってるよ」
『昨日のガネシャさんは屋敷に入ってすぐに何かに気付いたらしいけど、あの神父さんはそうでも無いらしいな
ここで待ってりゃ問題ないだろ』
エリシアが神父の元へ行き、隊葬は粛々と進められた
神父の言葉のあと、泣き崩れる両親たちを見て
シンジは複雑な思いになる
『父さんと母さんも、泣いてくれたのかな……
卒業して家を出てから会ってなかったもんなぁ
別に仲悪いって訳じゃ無かったんだけど……1回くらい会っといた方が良かったかなぁ……』
しばらくすると、滞りなく隊葬が終わり
兵や家族たちがその場を去っていった
1人残り神父と話していたエリシアも済んだようで
こちらへ向かって歩いてきた
「待たせた、もう終わったよ」
「お疲れ様、みんな通り過ぎていったけどやっぱり俺には気付かなかったみたいだ」
「そうか……寂しくはないか?」
「うーん、そこに寂しさはあんまり感じてないかな
エリーとは普通に喋れるしガネシャさんも頼りになりそうだしね……でも親の事思い出しちまってちょっとね」
「あぁ……すまぬ、失念していた
ここに連れてくるべきではなかったな……嫌な思いをさせてしまったか」
「いやいや、エリーは悪くないって!気にしないで」
「そう言って貰えると助かる」
「で、この後はどうするの?」
「私はもう一度だけ石碑に祈りを捧げ、その後は騎士団長殿に報告をしに行く
それが済めば今日は非番になるな」
「わかった、俺も関係ないかも知れないけど手を合わせておくとするよ」
「うん……ありがとう
やはりお前は優しい男だな」
「よしてくれよ」
そう言いながら石碑の前まで来ると、その石碑には見た事の無い文字が羅列されていた
「これは亡くなった人たちの名前が書いてるの?」
「そうだ、今回5名の名前が加えられた
シンルゥ、アイク、アイシャ、ローレン、ビルの5名……」
「ちょっちょっと待って!シンルゥって言った?」
「ん?あぁ確かに言ったが……それがどうしたんだ?」
「その人だよ、シンルゥ!俺が気がついた時に足元で死んでた人……」
「なんだって!?なぜシンルゥの元へ……」
「俺だってわかんねえよ、そこにいた人が言ってたんだよ
俺はそのシンルゥって人の事なんて知らないし」
「シンルゥ・タゥ、最近騎士団に入団した新兵だった……
やる気に満ちた青年だったがシンとなにか関係があるようにも思えないし……とにかくガネシャ様の耳に入れて置いた方がいいだろう
騎士団長殿への報告の後に出向こう」
「それがなにかの手がかりになればいいんだけどな」
シンジには全く覚えのない彼
なぜシンルゥの死んだ日にその彼ところで目が覚めたのか
わからないことだらけでシンジは先行きを案じる
「行こうか、シン」
優しく微笑むエリシア
今は彼女に頼る事しか出来ない事をシンジは情けなく思った
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