第5話『国民的女騎士と冴えない幽霊 1』
ガネシャの助言もあり、お堅い美人の騎士と行動を共にすることになった
その話がまとまった日の夜、エリーが
「見えないとはいえ、夜半にそんな姿でフラフラされてもかなわん……今夜は屋敷に泊まればいい」
と言ってくれたのはいいが1つ問題が発覚した
『全っ然眠れない……眠気自体が無いみたいだ……』
シンジは、流石に部屋を用意するのも不自然だし
人のいない屋根裏を間借りしたが
この眠気の無さが一時的なものなのか、幽霊は眠る必要が無いから眠気が無いのかがわからず少々戸惑っていた
『もう夜中だし、ガネシャさんも帰っちまったしなぁ
エリーも寝てるだろうし、騎士さんとはいえ女の子1人の部屋に夜中に行くのもまずいだろうし……
ちょっと様子を見てから相談してみるしかないか……』
そんな事を考えつつ、やることも無いのでひたすら夜が開けるのを待つしかなかった
*****
『一体なんなんだ、あのシンという男……』
シルクのローブのようなものを身にまとい、開いた出窓から入る夜風にあたっていたエリシアも眠れずにいた
国を上げての事になる「聖剣の試練」を前に、日々その準備や対応に追われ明日には隊葬も控えているエリシアは多忙であった
そこへ来て、別の世界で死んだ人間の魂と出会い
しかも共に旅に出なければならないという事に困惑していた
『せっかく公に1人で行動出来る機会を得たのに……
いかんいかん、この試練に選ばれる事自体が名誉な事なのだ……私の気持ちなど……
それに、なんなのだいきなり……私に向かってび、美人だなんて……』
エリシアはその事を思い出してまた顔が熱くなるのを感じてブルブルと首を振る
『そ、そんな事社交辞令でしか言われた事がないぞ……
あんな素直な目をして言われたのなんて、初めてだ……
ふぅ…………今夜は眠れそうにないな、色々ありすぎた』
晴れた空に光る星々と三日月を眺めながら深くため息をついた
*****
「コンコン!」
「?」
「俺だよ、シンだ……入ってもいいか?」
エリシアは名乗られて初めて、ドアの向こうの相手を認識する
「あ、あぁ少し待ってくれ……すぐに準備する」
朝方にようやく眠りについたエリシアはまだローブ姿のままだったため、カーディガンを上から羽織りシンジに応える
「待たせた、入ってよいぞ……ってえぇーー!」
「あぁっとごめん!驚かせるつもりは無かったんだ」
ドアからすり抜けてきた上半身だけで申し訳なさそうにシンジが言う
「よいから入れ!……はぁーっ、朝から心臓に悪いわ!」
「いや、ほんとゴメン
でも触れねえしさ、ノックも出来ないからどうしようかと思ったんだよ……」
「そ、そういうものなのか?と、とにかく、今後は私もそう心づもりをしておこう」
「そうしてくれると助かる、わざわざドアを開けさせるのも誰もいなけりゃ不自然だしな」
なんとか落ち着いたエリシアを見て、苦笑しながらシンジが言った
『それにしても……これは……』
部屋に入ってシンジがみた光景は、見るからに高そうなローブに淡い単色のカーディガンを羽織り
昨日は後ろでまとめていた、綺麗な金髪のロングヘアが朝のそよ風になびいているエリシアの姿だった
「ん?どうかしたのか?」
「いや、その……昨日とは雰囲気が全然違って……見蕩れちまったって言うか……」
「……!?ばば、バカものっ!朝からいきなりなな、何をっ」
カーディガンの首元を掴んで俯いたエリシアは、またも顔を赤らめて恥ずかしそうにしていた
『…………、役得っ!!』
「よ、用はなんだ!そそ、そんな事をいちいち言いに来たのではないだろ?」
「あぁ、その事なんだけど
昨日ガネシャさんがエリーと一緒に行け、とは言ってたけどさ……とりあえずエリーに付いて行動すればいいのかな?」
「コホン……うん、そうだな
私とガネシャ様しかシンを認識していないとはいえ
むやみに人目につく所で1人でウロウロするのは得策ではない
私は私で忙しい身ではあるが、とりあえず私に付いていればいいだろう
この世界の事も少しずつ知れるだろうしね」
「うん、ありがとう……ほんとに助かるよ」
「話は決まったところで、その……一旦部屋から出てほしいのだが……この恰好のままでは…………」
「あ、あぁ!そうだよね!ゴメンすぐ出るよ!」
申し訳なさそうにきりだしたエリシアを見て、慌ててドアをすり抜け外へと出た
『やべー、可愛すぎるって……ここではそんなに近づき辛い立場の人なんかな?
よくわかんねえけど、普通ほっとかねえだろ
それともエリーみたくこの世界の人たちはみんな奥手なのかな?俺だって別に女の子に慣れてる訳でも無いんだけど』
そんな事を考えながら下階に目を向けると、玄関にいる兵士と話していた使用人がこちらへと向かってきた
『昨日会った人だ、「会った」とは言えないのかもだけど』
当然シンジに気付く訳もなく、エリシアの部屋のドアをノックして報告する
「エリシア様、迎えの馬車が到着致しました」
「わかった、すぐに行く」
ドアの向こうからエリシアの答えが聞こえると使用人は下がっていった
少ししてドアが開くと、真っ白な軍服にロングブーツ
紋章が刺繍された革のコートを着た別人の様なエリシアが出てきた
緩やかに風になびいていた金髪は後ろで束ねられている
「では行こうか、シン」
「お、おぅ」
先程までの姿とのギャップに戸惑ったシンジ
2人 (1人と1体?)は馬車に乗り込み屋敷をあとにする
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