第4話『ここはどこ?あなたは誰? 3』
「今戻った、すまないがガネシャ様の所へつかいを出しこちらへおいでくださるよう伝えてくれ」
「かしこまりました、ただちに……」
「少し待て……今私の他に何か見えるか?」
「いえ……エリシア様しかお見受けしませんが」
「ならばよい、引き止めてすまない」
一礼して去っていく使用人を見送り自室への階段を昇る
『やはり私にしか見えんのか、何なのだこやつは』
部屋に入ると大きなテーブルを囲む豪華な椅子の1つに腰掛ける
「すげー屋敷だな、あんた街の人とちがう恰好してるし偉い人なのか?」
「先ずはかけろ、立ったまま……というか浮いたままでは」
「いや、すり抜けちゃうから座れねえし……」
「そ、そうなのか……なら続けるが……先ず私から名乗ろう
聖フリオール王国騎士団、千人隊長のエリシア・アウローラだ、そちらの名を聞こうか?」
「あぁご丁寧にどうも……俺は坂崎真司(さかざきしんじ)、年は20歳だ」
「同い年か、サカザキ……変わった名だな」
「同い年?よくわかんねえけどあんた凄い人なんだな、あぁそれと坂崎ってのは名字で名前は真司ね」
「 ? 姓を先に名乗るのか、異国から来たのか?」
「いやぁ異国っちゃあ異国なのかも知れないけどそこがよくわかんないんだよ、事故で死んで気づいたら幽霊になってここにいたって言うか」
「そのユーレイというのが私にはわからん、魔物とは違うのか?見たところ危険には見えないが……」
「俺も詳しくは説明出来ないけど、人間は死んだら霊になってあの世にいくか現世に留まってしまうかって言われてるんだけど、俺自身が霊を信じてなかったから驚いてるんだよね」
「何とも要領を得んが、魂のようなものと解釈すればいいのか?」
「うん、多分それで概ね合ってると思う
それで本当なら化けて出るにしても自分の死体のそばとかだと思うんだけど、なんでこんな所にいるのか自分でもわかってないんだ」
「なんとも……私ではそれに答える事が出来そうにないな」
「まぁいきなり全部わかるとは思ってないんだけど、先ずはここがどんな所かが知りたい」
「そうだったな……さっきも言ったようにここは聖フリオール王国、大陸の中心に位置する1番歴史のある城塞都市だ
都市の中心に王の居城があり、その周りに騎士達が住むエリア、更にその周りに市民たちが暮らす城下街があり多くの国民が暮らしている
最も外側には厚い城壁が囲っており外敵の侵入を防いでいる」
「外敵って何なんだ?戦争でもしてるのか?」
「いや、他国との争いはほとんど無いが主に魔物から国を守るためだ」
「さっきも言ってたな、ここは魔物がいるのか
俺がいた世界とはだいぶ違うみたいだな」
「だから王と国民を守るために我ら騎士団がある
騎士団長ガイラス・ガーバイン様を筆頭に、私を含めた10人の千人隊長が皆の安全を守っているのだ」
「やっぱすげーんだなあんた、めっちゃ偉い人じゃん」
「自分で決めた道だ、偉い訳では無い」
『とても同い年には見えないな、文字通り住んでる世界が違うんだけどこうも違うかね……それにめっちゃ美人だし』
色んな事が起こりすぎて混乱していたが、毅然と話すエリシアの美貌に気付き少し照れてしまう
少し間があいた後、ドアをノックして使用人が告げた
「エリシア様、ガネシャ様がお越しでございます」
「お通ししろ」
ガチャっと扉が開き、民族衣装のような恰好をした小柄の老婆が入ってきた
「もう日も暮れようって時に呼びつけて何の用だい?」
「御足労頂き申し訳ございません、本来ならば私の方から出向かなければならないのですが……」
「来れない事情……コレかい?」
親指でクイッと真司を指さす
「おばあちゃん俺が見えるの?」
「誰がおばあちゃんじゃ!レディをつかまえて……
それにワシは王国抱えの特1級術士じゃぞ?
まぁハッキリと見えとる訳じゃないが、屋敷に入った時から気配は感じておったわ」
「私にはハッキリと見えるのですが何故なのでしょうか?
そもそもこの男は何者なのでしょう?」
「まぁ待ちな、まずはお前が得た情報を聞かせな」
*****
「…………という事らしいのですが……」
「なるほどのぅ、ワシらの言うところの迷える死者の魂みたいじゃが……襲ってくる事もなく意識もハッキリしておる
「ユーレイ」という概念がイマイチわからんのじゃが、それよりもこの男が別の世界の住人だという事が重要じゃ」
「私が此度の「聖剣の試練」の挑戦者として選ばれた事に関係があるのでしょうか?」
「無い……とは言いきれんのぅ、詳しい事は今は言えんが
おぬしに素養があったからこそ挑戦者として抜擢されたんじゃろうよ」
「シンジ、と言ったの?おぬしの死んだ理由を聞いてなかったの、事故……と言っておったが」
「あぁ、仕事が休みだったんで昼飯を買いに外へ出たんだよ
そしたらボール追っかけた子供が通りへ飛び出してきて、走ってきたトラックにぶつかりそうだったんだ
やばいっと思って脇に子供を投げたのはいいんだけど、その反動で俺がトラックの方へ出ちまって……轢かれて死んだ」
「トラックという物がわからぬが、話からすると荷車のような物かの?」
「その解釈で合ってるよ、めっちゃデカくて早いけどね」
「ふむ……子供の命を救ったために自らの命を落としたと……」
「そんなかっこいいもんじゃ無いけど、俺はどうなんのかな?
元いた世界に戻りたいとは思うけど……戻ったところでもう俺死んじゃってるし……」
ガネシャは顎に手をやり考え込む
エリシアは神妙な面持ちで待っていたが、出てきた答えは意外なものだった
「エリシアよ、こやつを試練の旅に同行させてやれ」
「はい?……なぜこのような者と?」
「こやつからは邪悪な気配は感じぬ、それに人のために死ねるほどの良き魂の持ち主じゃ」
「死ぬつもりは無かったんだけどな、ただドジっただけだし」
「謙遜するでない、その気が無けりゃそもそも助けようとなんてせんわい
こやつを元の所へ戻してやりたいのは山々なんじゃが、なにぶん前例も無ければ情報が無さすぎる
聖剣の護り手である「御霊の遣い」ならば手立てを知っておるかもしれんしな
おぬしも騎士として人を助けるのも仕事の1つじゃろうて」
「ガネシャ様がそう仰るのならば……」
「本当にいいのか?俺はありがたいんだけど迷惑じゃねえのか?」
「仕方あるまい……ガネシャ様が言うように悪い奴には見えないし、騎士として放ってもおけん
それに、私たち以外には見えないのならばさして支障も無いだろう」
「ありがとう!宜しく頼むよ」
深く頭を下げた真司を見てエリシアは感心していた
『よく考えれば、若くして死んでしまった上に魂の安らぎを得ることも叶わず、まして全く知らない世界へと放り出されたこの男……にもかかわらず錯乱する訳でもなくこれ程素直でいられるものなのか……』
「先程は魔物だなんだと失礼な事ばかり言ってしまいすまなかった
まだお前の事はわからないことばかりだが、少なくとも人となりはわかった気がするよ、シンジ・サカザキ」
「こちらこそ、あんたいい人だな……美人だし
シンでいいよ、みんなそう呼んでたし」
「いきなり何を言うのだ!び、美人って……私がか?」
不意をつかれたようにエリシアは耳まで真っ赤になってしまった
『うっわ……超可愛い、これだけでこんなに取り乱す人見た事ねえよ……』
「シンジよ、大胆な男よのう
エリシアに憧れる者は多いが面と向かってそんな事言う奴おらんからのう」
「いや、だって普通にめっちゃ美人じゃない?めっちゃモテてるんじゃないの?」
「ま、またっ、そんな事!わた、私は騎士として、そんな事にうつつを抜かす訳にはいかんのだ!」
「ほらの?お堅いし真面目すぎるうえに地位も高いから誰も言い寄らんのよ……もったいないじゃろ?」
慌てるエリシアの姿を楽しむように笑いながらガネシャが言った
「うん、もったいない!」
「もういいだろう!からかうのはやめてくれ」
エリシアはもう首まで真っ赤に染まっていた
『なんか楽しい事になりそうだな、こんな美人と旅に出るなんて役得ってやつ?……いや、死んでんだから得も何も無いんだけど…………まぁなるようにしかならんか』
美しき女騎士エリシアと異世界に飛ばされた幽霊
出会うはずのなかった2人は世界を超えて出会い
それぞれの目的を胸に冒険に出ることになった
「こ、ここは公平に……私の事も……エリーと呼んでもよいぞ、シン……」
『うん、俺頑張れそう!』
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