アブホースさんは引きこもりである そのに

「ふぅぅぅーーーーん…………ばっ」

「違うよト〇ロ!! もっと力んで!!」

「ハアハア……なあ太陽神、俺は今何をやらされてるんだ?」

「何って? サ〇キとメ〇とト〇ロが夜中一緒に遊ぶシーンを再現しようとしてるんだよ!! ト〇ロファンなら誰もがときめく名シーンだよ!!」

「ねえ俺まだト〇ロなの? ねえ?」


 天照さんの名案。それはアニメファンなら誰でも知ってる名シーンを再現することでアブホースさんの興味を引くというものだった。

 ただ、コンセプトとしては悪くないと思うんだけどいかんせん天照さんの趣味が子供っぽいというか、ト〇ロファンでないと興味を惹かれないのでは、と思ってしまうのだった。

 ぶっちゃけてしまうとだ、アブホースさんなら水〇奈々とか藍井〇イル呼んで歌ってもらったほうがね? わかるでしょ? ……あ、だめ? 忙しいですよね。ニャルさん知ってた。頑張ってください、応援してますんで。


「あの、天照さん。他に案は無いですかね?」

「え? うーん、そうだなあ……力づくで開くとか? こう、どっかーん! って」

「急に力isパワーな案になりましたね」

「私そんな脳筋じゃないからね?!」


 ぷくーっと頬を膨らます天照さんの頬を突きながら「ひょっとしてスサノオさん呼ぶんですか?」なんて聞いてみると、


「スーくんが来たらハイパーボリアが荒れ地になっちゃうから呼ばないよ。私がやるんだよ」

「天照様、荒事がお得意で?」


 とてもそう言う風には見えない、という意味での問いだろう。アト姐さんの疑問も尤もだ。


「そういう訳ではないけどスーくんが高天原に攻め込んできたって勘違いして一時期スーくんと戦争してたころはあったよー」


 意外な一面だった。天照さんはこう、なんというかブラコンの気があるから弟さんたちにダダ甘なんだと思っていた。


「――ってそれ完全に権能使う気満々でしょ!! やめてくださいよ!!」


 僕たちの領域で太陽神の権能なんて使われたらハイパーボリアが焦土になってそこら中干物だらけになっちゃうよ。事後処理とかその他諸々のしわ寄せが全部僕の所に――


「あっ――」


 ふらり。一瞬意識が遠退いた気がした。


「天照様、もっと平和的な案はありませんでしょうか? 出来れば誰も無理しないものが良いのですが」

「えぇー!! もうっ、みんなわがままなんだからー!!」


 ぷんぷんと擬音が飛び出しそうなくらい頬を膨らませる天照さん。確かにいきなり呼びつけられて、あれもダメこれもダメと言われては確かに怒りたくもなるよなあ。でもなんか嬉しそうなんだよね、天照さん。

 なんというか、多分頼られること自体が嬉しいんだろうなあ。


「あっ!」


 小さく天照さんが声を上げる。それと同時に僕達視線が天照さんに集まる。何か思いついたみたいなんだけど、天照さんは渋い顔をしていてなんだか様子がおかしい。


「どうしたんですか?」

「うーん……これはやったらかわいそうかなー――というか、ある意味禁じ手?」


 唸る天照さん。権能以上の禁じ手があるっていうの? ……一体何を思いついたんだろう?


「何思いついたんですか?」

「うーん、いやね? プロージットまでの間、プロバイダー契約切ればいいんじゃないかなって」


 なっ!? 


「何て残酷なほうほ「それ名案ですね」


 えぇっ!? アト姐さん今なんと……?


「プロバイダー契約切ってしまえばパソコンでネットができなくなるんですよね?」

「そうだけど……本当にやるの? 引きこもりオタの生命線だよ?」

「ハハハハハハ!! そりゃあいい。やってやれ、アト」


 馬鹿笑いするツァトゥグアくんはアト姐さんの背中を押す。すんごい良い顔で笑うなあツァトゥグアくん。めちゃくちゃ嬉しそうだ。


「おーい、アブホースさーん。このままだとネット繋がらなくなるよー!」


 一応警告をしておかないと、と思ったわけだけど一向に返事はなく戸は鎖されたまま。空しく僕の声が響く。


「無駄だ、ニャル。ここ数日、俺とアトがどれだけ苦労しても返事一つ寄越さないんだからな。少し痛い目をみればいい」


ツァトゥグアくんは少し口元をゆがめて笑う。……いじらしいというかなんというか、本当にアト姐さんが好きなんだろうなあ――ってあれ、


「アト姐さんがいない!?」

「アトラさんならもう行っちゃったよ?」

「え、まじですか?」


「――ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっっ!!!!!!!!!!!!!!!?」


 悲鳴。というか断末魔が響き渡る。同時に扉に掛けられた魔術の封印が消え、中から生気を失ったアブホースさんが姿を現した。


「あ、アブホース、さん?」

「最高ランク……えくすかりばーる……目の前……ドロップ確率……0.00000……ふふふ……あひゃ……あへえぇ……」


 バタリ。謎の単語を残してアブホースさんはその場で白目を剥いて倒れた。


「あ、やっと出てきてくれたのねアナタ。さ、今度のプロージットに着ていく服を買いにいくわよ」


 旦那がどうして倒れているのか特に気にする事無く、アト姐さんはずるずるとアブホースさんを引き摺って行ってしまった。


「……なんか、ごめんアブホースさん」

「天照さんが謝ることじゃないですよ」


 とはいえ、ちょっと気の毒になったが。……あのゲーム、ドロップ渋いもんなぁ。




――――――――――――――――――――

出演神

ニャルラトホテプ【クトゥルー神話】

最近有名になってきたトリックスター。だけど、ここではただの苦労人。アトラク=ナクアよりも高齢だが何となくアト姐さんと呼んでいる。なんやかんやサブカルが好き。ネトゲも嗜んでいる。


アトラク=ナクア【クトゥルー神話】

キチ〇イぞろいの神話界の清涼剤。神格の中では比較的まともな性格をしている絶世の蜘蛛美女。旧支配者だからやっぱり容赦ない時は容赦ない。


ツァトゥグア【クトゥルー神話】

キチ〇イぞろいの神話界の清涼剤その二。毛むくじゃらの生き物とされる。アブホースが嫌い。


アブホース【クトゥルー神話】

クトゥルー神話界でも旧支配者以上の存在である外なる神の一角。地下で自給自足生活をしている。先ほど無事死亡した。


天照大御神【日本神話】

日本神話の最高神。傷つきやすいサンシャインレディ。天岩戸の一件もあって引きこもりの走りと言われる神。一応武神と戦っちゃう程度には荒ぶれる神様。ト〇ロ厨。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る