アブホースさんは引きこもりである

「はあ、またですか……」

「そう、またなの……」



 そう言ってアトラク=ナクアさんことアト姐さんは頭を抱えた。




 どうも、いつもへろへろ。仕事に追われ過ぎて疲れ切った這い寄る混沌・ニャルラトホテプです。今週末ミソロジープロージットを控えた僕なのですがまたしても問題が発生しました。


 まだ準備が終わってないんだけどなあ……。誰にも迷惑かけず、今からでも抑えられる会場はないものだろうか?


 とはいえ、アト姐さんにはお世話になっているし、断りたくない。我らがクトゥルー神話ではトトさんみたいに他に頼れる神がいないしね。



「アトもあんなやつほっとけばいいのに」

「そういう訳にもいかないのよ。彼あれでも外なる神なのだし、ほかのミソロジーの大神達が集まる中彼が出席しないとなるとまた当たりがつよくなるかもしれないのよ」

「……ふん」

「もう、どうしていつもツァトゥグアはアブホースに辛く当たるのかしら?」


 そりゃあアト姐さんがアブホースさんばかり構うせいでしょ、とは口が裂けても言えない僕だった。


 幼馴染がダメ男に引っかかって胸の内がもやもやしてるんだ、と簡単に言ってしまえるがツァトゥグア君の心境を考えるとおいそれと他人が口出しできないのだった。

 というかアト姐さんもなんでツァトゥグアを選ばなかったんだろう? あれだけ生贄おくりものもらってたのに。


「ニャル、とっととアブホースを引き摺り出してくれよ」

「はいはい、それでアブホースさんはなんて?」

「私、ああいうの疎いからよくわからないんだけど、今週はファイナルスターファンタジーオンライン24? っていうゲームのブースト期間? なんですって。だから飲み会出てる暇ないって言って部屋にずっと引きこもってるの」

「ネトゲですか」

「ネトゲかよ」

「ええ、ネトゲよ」

「…………、」

「…………、」

「…………、」



 血管が何本かまとめて切れた気がした。


 いやね、飲み会とかって強制されるものであってはいけないものだと思っているんですよ。僕だってね。


 でもね、翌日休みの人が多いであろう金曜夜に日取りを設定して、出席しやすいようにした僕の努力はどうなる? 土日が休みじゃない方もいらっしゃるだろう。そういう方が断りを入れてくるのはまだわかる。だって忙しいもんね。……だけど、だけどな――引きニートが断りを入れてくるとか、ありえないからなああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

「ニャル、気持ちはわかるが落ち着け」

「漏れてる漏れてる。心の声が漏れてるわよ」

「はあ、はあ、ごめんツァトゥグアくん、アト姐さん」


 怒りの余りに感情を抑えきれなかった。疲れてるな、僕。



「それで、何か妙案あるかしら?」

「引きこもりを引きずり出すとなるとなあ……」


 引きこもり……あれ、最近引きこもりって言葉を聞いたような気が………。


「あ」


 そうだ、あの人に助言を得よう!


「――というわけで来ちゃいました。いつもニコニコ太陽サンサンあなたのお空を照らすお天道様・天照大御神です!! キラッ☆」

「お待ちしておりました天照さん」

「ええ……ツッコミは〜……?」


 ないです。そんな元気ありません。


「わざわざハイパーボリアまでご足労いただきありがとうございます天照さん」

「ニャルくん生意気になったわねえ。……ソールさんの手伝いでこっちの方来てたからついでよついで」

「最高神なのに他の神話のお手伝いまでするなんて……!!」


 ああうちの神々に天照さんの爪の垢を呑ませてやりたい。特に神王老害副王ヤリチンに!!


「太陽運行だけだから大したことしてないよ。それに日本にいるだけだと本当に太陽運行しかすることないから……」


 八百万の権能しごと分担システム僕らのとこでも流行らないだろうか? 割と真剣に。


「それでそちらの方が――」

「ツァトゥグアだ」

「ト〇ロ!!」


 ッぶねえぇ……ピー音遅れてたら社会的に殺されてたかもしれない……。


「貴方ト〇ロね? ト〇ロっていうんでしょう!?」

「ねえ今名乗ったの聞いてなかったの? ねえ」

「えぇ……ト〇ロじゃないの……?」

「…………ト〇ロでいいですよ、もう」


 あ、諦めた。


「もう、違うでしょ!! ト〇ロはもっとこうやって大きな口開けて」

「ああ、わかった! わかりましたから!! ……はああああ、ごほん。――どぅおどぅお……うおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……」

「きゃああああああ!!」


 がっしり。ツァトゥグアのお腹に天照さんが実に楽しげな様子で張り付いた。


「後こまに乗ってたら完璧だったんだけどなー。ツァトゥグアくん、こま乗ってみない?」

「ぶち殺すぞニャルラトホテプ」


 ちぇー、知恵の神グループに画像投下しようと思ったのになあ。真に残念だ。


「早くこの太陽神を引きはがしてくれ。お前、まだ仕事あるんだろう?」

「だね」


 とりあえず嫌がる天照さんを引きはがして改めて自己紹介の続きをする。


「……えっと、申し遅れました、アトラク=ナクアと申します。この度は夫のアブホース共々大変ご迷惑をお掛けしております」

「あら、アブホースさんってばご結婚されてたんですね」

「形だけで籍は入れておりません。彼はその……ちょっと」

「ああ、アブホースさん気難しそうな方ですもんね」

「気難しいと言いますか出不精で、人間不信で神不信なものですから。そのせいか中々、結婚させてくれないし、認知もしてもらえなくて……」

「それはおめでとうとは素直に言えないわね。いけないわ。男尊女卑の時代は終わったのだから互いに責任持たなくっちゃね。……中々、うちの国じゃ広まってくれないけど」

「どこもそうですよ天照様。だからニャル、貴方はそういうのになってはダメよ」

「そうそう、ダメだよ。約束破ったら私焼いちゃうからね!! ト〇ロもだよ!」


 やめてください。闇の神性に太陽は鬼門なんです。


「俺はいつまでト〇ロなんだ……」


 痩せたらどうだろう?


「――ひとまず、その話は置いておいてアブホースさんどうします? 引きこもりの先輩として何か助言を」

「ちょっと!! その言い方だと私駄女神みたいに聞こえるじゃない!!」

「あはは、すみません。でもその片鱗ここで晒しましたよね」

「ぐさっ!! ううっ、いつになくニャルくんが攻撃的だよう……」

「ニャル、レディには紳士的にって前から言ってるでしょう?」

「そーだそーだ! アトラさん言ったれ言ったれー!」

「でも、天照様、御身もご自重を」

「あ、はい」


 あ、アト姐さんの言葉は素直に聞くんだね。


「――それでこの部屋にアブホースさんがいるんだね」

「はい。魔術と物量で完全に封印されてるからビクともしなくて」

「じゃあ天岩戸よろしく、外でどんちゃん騒ぎしてみるとか?」

「どんちゃん騒ぎって例えば?」

「私の時は酒宴と舞い。私お酒と舞いが大好きだから」

「つまり、好きなことを外の人間がしていたら気になって出てくる、ということでしょうか?」

「そゆこと。それでアブホースさんの好きなことは?」

「アニメとゲームですね」

「アニメ……閃いた!!」


 ぽんと手を叩く天照さんに一抹の不安を覚えてならない。因みに隣のツァトゥグアくんに至っては逃げ出そうとしているのでそっと捕まえておく。


「逃がさないよ?」




               後半へ続く。

――――――――――――――――――――

出演神

ニャルラトホテプ【クトゥルー神話】

最近有名になってきたトリックスター。だけど、ここではただの苦労人。アトラク=ナクアよりも高齢だが何となくアト姐さんと呼んでいる。パシリ根性を直したいと考えている。


アトラク=ナクア【クトゥルー神話】

キチ〇イぞろいの神話界の清涼剤。神格の中では比較的まともな性格をしている絶世の蜘蛛美女。この作品ではアブホースの子を身ごもっていたりツァトゥグアの幼馴染だったりする。無自覚に男たちをその気にさせる魔性の女。良くモテる。人妻。


ツァトゥグア【クトゥルー神話】

キチ〇イぞろいの神話界の清涼剤その二。毛むくじゃらの生き物とされる。この作品ではちょっとツンデレが入ってる。アトラク=ナクアとツァトゥグアの絡みはおねショタをイメージしながら書いた。アトラク=ナクアの幼馴染でアブホースにジェラシー。ト〇ロ。


アブホース【クトゥルー神話】

クトゥルー神話界でも旧支配者以上の存在である外なる神の一角。地下で自給自足生活をしている。この作品では人間不信で神不信の引きこもり。アニメとゲームが大好き。


天照大御神【日本神話】

日本神話の最高神。傷つきやすいサンシャインレディ。天岩戸の一件もあって引きこもりの走りと言われる神。この作品ではちょっと駄女神臭がする。ジ〇リが好き。



――――――――――――――――――――

第一話にも出演神を載せました。



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