第100話 決着
1996年4月16日、僕は……はむらどうぶつこうえんで産まれた。
そこでミドリに出会い、僕とミドリはつがいになった。
2006年3月、ミドリととうぶどうぶつこうえんに移った。
2009年5月にミドリが産卵したから、えどがわくしぜんどうぶつえんに移って、2009年6月、『はんぺん』が産まれた。
そしてとうぶどうぶつこうえんに帰ってきた。
でも……2012年、ミドリは僕を裏切りデンカとつがいになった。
そしていつも独りぼっち。仲間からも外されて傷ついた。
5年間の孤独を味わったが……
2017年4月22日、『彼女』がやってきた。彼女の名前は知らない。話しかけても答えない。でも、僕が近くにいても逃げない。
……それだけで嬉しかった。
僕はずっと彼女のそばにいた。でも、求愛しても答えてはくれないし全然動かない。餌は他のヒトがくれるしヒトじゃないはず。でも……そばにいるだけで嬉しくて温かい気持ちになる。きっと求愛を断っているわけではない。求愛はやめたけど、それでも諦めずそばにいた。彼女がいなくなったこともあったが、1日待ったら帰ってきた。
(待ってたよ)
そんなことを言ったら彼女が、困り顔の彼女が少し微笑んだ気がした。
月日は経ち……ある日突然僕の体は変になってしまった。なんだか違和感がある。僕は別の場所に移された。そして……そこには彼女もついてきてくれた。
でもだんだん意識が朦朧としてきて……
(幸せだったよ)
そう彼女に呟いて、2017年10月12日……僕は死んでしまった……
それからまた月日は経ち、2018年4月24日。気がつくと僕は空を飛んでいた。『昇天』と悟って彼女に会えない覚悟をしていたが、『ジャパリパーク』に落下して……本物の彼女、いや『フルル』と……再会した。
そして色んな思い出を腕輪に込めて今に至る……
再び死ぬ前に自分のペン生を振り替えってみたかった。再び死ぬ間際までフルルを想っていたかった。朦朧とする意識の中で、それでも僕はフルルを想っていたかった。
あ、意識が……
さようなら
そう思ったその時、僕の目に紫色が混ざった薄い桃色の小さな光が2つ見えた。
あれは……フルル!
小さい光は目の光だった。よく見ると体中も輝いていた。
そのたくさんの光を見た途端、僕の意識は戻ってきた。フルルは真剣な顔でミドリデンを睨んでいる。ミドリデンもそれにひるんでいる様子……
フルルはいきなりミドリデンの足にビンタした。ちょっとだけ削れたが、それでもちょっとだけ。
「……」
何かを思い出しフルルはフルル岩に向かって走った。
が……我に返ったミドリデンが目で追う。
そして目の光をもう一度よく輝かせ……
「グレープは……フルルの大切な……恋人だもん……
ミドリデン!きみは絶対倒す!そしてグレープ!きみを助ける!
……やくそく」ニコッ
優しい笑みでこう叫んだ。これは僕に対しての優しさかもしれないけど、ミドリデンに対しての挑発にも思えた。
そんな優しい笑みは真剣な顔に戻り、一心不乱にビンタし始めた。
「グレープを返して……返してよ……
……返せ。」
フルルのそんなところ初めて見た……そうか、僕が助からないとフルルが悲しむんだ……
そう思ったその時。
「フルル……待たせたわね!」
「へ……?」
濃い桃色、黄色、橙色、赤色、黄緑の小さな光が2つずつ見え、水色に光る羽根も見えてきた……
『ぱぱ ぴぷ ぺぺ ぽぱっぽー ぱぱ ぺぱぷ』
「みんな!ミドリデンを引き付けるのよ!」
「「「「「了解!」」」」」
『空は飛べないけど 夢のツバサがある だから』
どこからか大空ドリーマーが……ってペンギンカラーのボスが流してる!
「仲間と汗水流して」
「退治、みんなで頑張って!」
「ミドリデンを!ロックに!倒すのだー!」
『泣いたり 笑ったり Pop People Party, PPP』
「フルルさんの為なら何でも!」
「パフィンちゃんも頑張るでーす!」
『おしくらまんじゅう 押し愛へし愛』
みんな駆け出してミドリデンに攻撃する。
「ラスボスなんか全然へっちゃらだい!」
「恥を知りなさい!」
「ミドリデンはあっちいけよー!」
『ぎゅっぎゅっぎゅっぎゅっ』
「みんなありがと~!」
『真っさらな大地に足跡を残せ』
「フルルは……ミドリデンの……石を壊してらっしゃい!」
『願いを強く抱いて』
「分かった……みんなありがとう!
石を壊しに行く時は……今!」
『空は飛べないけど 夢のツバサがある だから』
フルルは岩に向かって走った。
『POTA POTA 汗水流して PAKU PAKU 大きく育って』
フルルが岩に手をついて……
『いつか大空を制すのだ!』
フルルが岩の上に立った!
『泣いたり 笑ったり Pop People Party, PPP』
……ここで大空ドリーマーが止まった気がした。僕の目にはフルルしか見えない。今見てるフルルは外の世界で見たフルルと一致した。1つ違うところは……困り顔じゃなく、勇ましい表情でミドリデンを睨んでいるところか。
『ぱぱ ぴぷ ぺぺ ぽぱっぽー ぱぱ ぺぱぷ』
「おりゃあああああ!」
フルルがミドリデンの石に向かって勢いよく跳んだところは……まるで大空を飛び立つ鳥のようだった……
フルルは石に深いビンタをお見舞いして……
パッッッカーン!!!
ミドリデンは……散っていた。
欠片が僕とフルルのクッションとなって受け止める。やがて欠片は消え、僕の意識は完全に戻った。
「……グレープ。グレープッ!」
フルルが走ってこっちに来る。
(フルル……)
「グレープだよね?ねえ覚えてる?初めて……いや、また出会った時のこと覚えてる!?」
僕はフルルと再会した時のことまで、記憶の糸を辿った……そうして出た答え。
(……『なんか申し訳ない。』)
「だ、『大丈夫だよ~』……!」
ぎゅっ
再会したばかりのことと今現在のことをかけたつもり。伝わった、かな?
「わ、私達は行きましょう!」
「ああ」「はい」「おう!」「はい!」「はーい!」
こうして僕とフルルは2人きり……
「……何で食べられちゃったの?」
(ごめんね、僕とフルルの思い出を守りたかったんだ……)
「グレープの中の思い出は……どうなるの……フルルが……悲しむって分かってよぉ……」
僕の心は申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
(本当にごめん。でも……やくそく果たせたからいいじゃん。笑顔でかわすやくそくは、本当に永遠に消えないってことが分かったね……)
「……だね。じゃあこの前言ってた内緒にすることもそろそろ……」
そうか。もう6月後半だし早く言わなきゃ……
(あ、僕のもう1個の腕輪は?)
「えっと……あったあった。グレープに駆けつける前に拾ってあげたんだ~」
フルルは涙を拭いて僕に腕輪を見せた。
(あ、ありがとう)
「つけてあげるね」
……いや
(その腕輪は……フルルのだよ……)
「へ?」
(……僕、これからもずっとフルルのそばにいたい。フルルはよく困り顔になるし、僕が見たパネルのフルルも困り顔だったけど……そんな困り顔、僕が笑顔にしてみせるよ。
だからフルル……僕と……結婚して……)
「……!」
フルルは再び涙を流した。でも、笑っていて、顔が赤くなっていた。喜びに溢れているのが伝わってきた。こんなフルルの表情、初めて見た。
「ありがとう……グレープ……大好きだよ……」
フルルは他に誰もいないのを確認すると……僕にキスした。フルルの涙が僕にかかる。フルルの顔が近くて……とても幸せだよ。
しばらくして、涙も乾いてきた。
「じゃあ……戻ろっか……」
(うん)
みんなが行った楽屋へ歩くフルルに、僕はついていった。
フルルはやっぱり救世主だった。
孤独が一変してからの思い出は楽しいことばかりだ。たまに辛いこともあったけど、それでも僕達はこうして乗り越えて、幸せだ。
『今、幸せですか?』と訊かれたら、僕は間違いなく『幸せ』と答える。
一緒に過ごす幸せは ずっと変わらずに 続いてゆくから そばにいてね これからも……
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