第92話 喧嘩

いつも通りの練習中……

「ね~もうお腹空いた~」

「「「「もう!?」」」」

突然のフルルの一言に驚きを隠せない一同……

(まだ始まったばかりだよね!?)

「いや~朝御飯ないし練習時間早かったし仕方ないじゃん……グレープ、一緒に食べに行こう?」

(でも僕は朝御飯なくても頑張れる!)

「でもフルル1人だと寂しい……」

(朝御飯食べないのも1つの修行だし……)

あ……しまった、言い合ってしまった……これ……


「……フルルは朝御飯食べないと駄目なの。もう嫌だ!」ダーーーッ


あああああやってしまった……

「フルル!フル……ちょっと追いかけないと!」

僕は……首を横に振るしかなかった。

だって僕は……何回やっても恋人と上手くいかないし……そんなみじめな男だもん……

このままだとどうなるのかな?薄い桃色までトラウマになっちゃうのかな?僕はまた独身のままなのかな?折角パークに来れたのに……

頭の中では、そんな色々な考えが堂々巡りを続けるばかり。このままフルルにフラれてしまうのだろうか……

「何で追いかけないのよ……フラれたわけじゃないのよ?」

それには頷ける。けど……もうすぐ……きっともうすぐフラれる。

「グレープ……」

どうせフラれる。ならこれでいい。このままでいい。

そう思ったその時。


「キミトフルルガ喧嘩シタト聞イタヨ」

ペンギンカラーのボスが頭に籠を乗せてやってきた。

(そうだけど……)

「ヤッパリ」

フルルと喧嘩したのは事実……あれ?

(僕の言ってることが分かるんか!?)

「分カルヨ。僕ノ中デ翻訳シテイルンダ。」

すごい……ほんやくの意味が分からないがどうなっているんだ……

「グレープ、コノ映像ヲ見テクレ」

また映像か……ささだんごの時もそうだったような……

「あれ?グレープがいるわ……これまだグレープが生きてる頃よ?」

「キミガマダパネルノフルルニ恋シテイル頃ダヨ。今マデノキミハ全テ幻ダッタノカイ?」

(幻じゃないけど……じゃないけど……)

「ソシテ……僕ノ籠ノ中ヲ見テミテクレナイカイ?」

何故……と思いながら覗く……が……

(……これは!)

僕は外に飛び出した。僕とフルルのお気に入りの場所、きっとフルルはそこにいる……

「グレープ!」

「安心シテ。フルルノ所ニ行ッタダケダヨ。」


ペタペタとペンギンの足音が鳴り響く。

(フルル……!フルル……!)

そしてフルルを見つけた。やっぱりお気に入りの場所に座っている……

フルルが手に持っている物を見て……心がぎゅっとなった。


ああ、そうか。フルルはやっぱり僕が好きなのか。葡萄味のじゃぱりまんを食べているってことは……ね。


あの籠の中には紫色の食べカスがあった。籠を持ったボスがフルルに会ったってことはじゃぱりまんを渡したってこと。紫色のじゃぱりまんといえば葡萄味じゃないか。

(……ごめん。)

「グレープ……」

(本当にごめん!僕、いつもマイペースで……フルルの意見聞かないで……)

僕はうつむいて反省するしかなかったけど……


ぎゅっ


フルルは僕を抱いてくれて……耳元で言った。

「フルルこそ悪いよ……グレープが悪い意味のマイペースになっちゃったのはフルルのせいだし、フルルだってグレープの意見聞かなかったじゃん……」

……いや

(フルルのマイペースはいい意味だよ。僕もいい意味に直すから、フルルはフルルのままでいて……どんなフルルも大好きだけど、結局いつも通りが1番だよ……)

僕も抱き返して言った。

僕とフルルはしばらく泣いた……


涙が乾いた頃……

「ねえ……練習に戻ろ?」

(うん、戻ろうね……)

僕とフルルは手を繋いでみんなの元へ歩き出した。


「ただいま~!フルルとグレープ仲直りしたよ~♪」

「へぇ!良かったわね!じゃあ練習を始めるわよ♪今日はソロ曲!」

「ふぁーい♪」

今日のフルルの『やくそくのうた』は……いつもより力が入ってる気がした。



少し喧嘩しちゃったけど……今僕とフルルは抱き合って寝てる。

フルルといる時間は幻じゃない。やっぱりフルルとは上手くやれる。

つまりはこれからいつまでも……仲良しでいようね……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る