第9話 虚空


僕達は、悪の権現を倒した。

シリウスを倒した。


しかし、結果としての代償が大き過ぎた。


故に僕は、仰向けになり、息を乱しながら、夕暮れ空に流れゆく雲を見つめている。


単にそれは、人助け的なものだった。

セルリアン的なものを倒すだけだと思った。


でも、違った。


何が起こったか。


記憶を遡る。





シリウスにトドメを刺したのは、僕だった。


最後の力を振り絞り、紅蓮の炎に彼を包み込んだ。


それで倒したと、僕は記憶している。


他のみんなは、その時、動きをなしていなかった。


原因は、変身中のスターストーンの破壊だった。


聞いて驚くだろう。

変身中にスターストーンが破壊されると例え、夢であっても現実であっても人体に影響が及ぶのだ。


今思えば、彼と戦ったのが夢なのか現実なのかわからない。

僕が全員殺してしまったのかもしれない。


いつの間にか夢と現実の区別がつかなくなった。


....


サーバルは最後まで戦ってくれた。

岩の力を用いて。


そうだ。


彼女は魔法で岩と同一になり、彼の動きを封じていたんだ。


僕が、その隙に、大技を放った。


サーバルはよくやってくれた。


...言葉が見つからない。


かつての博士さんのように、正当性を貫くべきか、罪悪感を抱くべきか、僕は迷った。


しかし、今となっては僕も屍同然。


人は死んでしまったらみんな同じだ。


....



他のみんなは、どうなったんだっけ。


博士さんは自滅したんだ。最初の方に。

僕もいちいちカウントはしていなかったけど、矢がだいたい20本目かな

それを射った時、普通はバチバチするはずなのに、それがしなかった。不思議に思った僕が後ろを振り向くと、口から赤い血を吐いたんだ。


そのまま彼女は倒れ込んだ。


僕はこの時、その仕組みがわからなかった。


しかし、今までを振り返るとひとつの仮説が組み立てる事が出来る。


博士さんのあの電撃の源、あれは自分自身の体力なのではと。


いままで、リカオンに当たり、PPPに当たったあの矢は刺された相手の“何か”をあの光源に変換していたのではないかと。


彼にはその光源に変化するものが無く、

いつの間にか矢を扱う主から、その“何か”を供給するようになった。


あくまで仮説だが、そう考えると、ゾッとする。


まるであの矢は、寄生虫。自我を持った生き物だ。


そのあと、助手さんが駆け寄った。

すると同時に、彼が地中から鋭い針のような腕を伸ばし、彼女らを突き刺した。


不謹慎だが、鳥が2匹重なって刺さる姿は、“ヤキトリ”。


僕はなんてことを考えてしまったんだろう。


脳が壊れ始めてるのかもしれない。


ギンギツネさんは幸いにもキタキツネさんとは一緒じゃなかった。


彼女は魔法の扱いがヘタクソだった。

力の加減ができない。前方にいたアライさんの足を取る結果になり、二人とも彼の素早い攻撃によって、スターストーンが破壊されてしまった。


完全にアライさんはとばっちりを喰らったのだ。仲間のミスで。


一番可愛そうだ。


けど、そう嘆いたところで結果は変わらない。


フェネックは最後の方まで奮闘してくれていた。


たとえ、アライさんが残酷な末路を辿ったとしても、一滴の涙も見せずに、

黒く光る銃で応戦していた。


彼女は僕を庇って...


前方に現れた鋭い物に反応が遅れた僕を

庇った。


最期に彼女が放った一発の銃弾は、

彼の動きを止め、サーバルが攻め込む間を作った。


リカオン、ジェーン、タイリクオオカミの3人は復活して僕らの前に現れたけど、彼に取り込まれ、彼の一部となった。


彼を倒したという事は、彼女達が生きていることはもう、ない。




一体、僕らは、何のために戦ってきたんだろう。



誰か教えてよ。




夕暮れの空に、ハッピーさんが浮かんでいる。僕をじっと見つめている。



『カバン、教エテアゲルネ


全部嘘ナンダ』




え?




『シリウスも、スターストーンも、

星の話も、夢の話も、全て嘘なんだ』


ラッキーさんの喋り方では無くなっていた。


じゃあ、何でそんな嘘をついたのか?


『これで、新たな魔法少女を探せられる。力が集まった』


ハッピーの周りに漂ういくつかの虹色の玉みたいなものが見える。


『理不尽だと思うだろ?』


僕は答えられない。


『世の中は全て理不尽だ』


「理不尽...」


『形あるものは、永遠に残らない』


「ハッピーさん...」


『君に僕の目的を君に説明しても、

それは君にとって価値のない事だ』


「ハァ...」


苦しく息を吐いた。


『僕はもう行くね』


「待って...」


手を伸ばしたが、僕の手は届かない


『君はもう、“壊れた”。夢と現実の境界すらも、わからない。そんな生命に、意味は無い


...本当に、さよならだ』





「いかない...で...」


小さい声を出したが、ハッピーには届かない。


彼の目的は、わからない。


僕は、何のために...?




夕暮れ空に、そっと重ねた指は、力無く地面に沈んだ。


サーバルちゃん...

アライさん...

フェネックさん...

ギンギツネさん...

博士さん...





「ハァー」


息を大きく、吸って吐いた。


「みんな、大好きです」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

魔法フレンズ!すたーがーでぃあん みずかん @Yanato383

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ