第8話 白銀世界

僕は咄嗟に彼女との間に炎の壁を構築した。

驚いたような目でコチラを見る。


「落ち着いてください...

僕だってやりたくてやってる訳じゃないんです...。博士さんの気持ちは十分わかります。ですけど、失われた物に対して嘆いても仕方ないじゃないですか...妥協っていうものが必要だと僕は思うんです」


彼女の目を見ながら必死に語りかけた。


「苦しいのは...、わかります。

僕も博士さんに無理はして欲しくないです。戦う義務なんてどこにもありません。苦しいのなら、戦わなくても良いですよ」


僕はしばらく様子を伺う。

炎の壁を消し、博士に近付いた。


そのまま倒れる様に僕に抱きついた。

啜り泣く声が聞こえた。


抱擁しながら、彼女を慰撫した。





「大丈夫だった!?かばんちゃん...」


サーバルが心配して尋ねた。


「うん...、なんとかね」


「...博士!」


助手が駆け寄る。


「助手...」


精気を失ったような声を出す。


「大丈夫ですか...。お疲れの様ですが...」


一度、沈黙を置いて答えた。


「...大丈夫です。私は長なので...」


作り笑顔を浮かべた。


「ちょっと、サーバルちゃん...」


かばんは、サーバルを手招きした。

そして、“博士の事後処理”の内容を

話した。

PPPのメンバーは博士の放った矢により、死んでしまった。

マーゲイはまだ、浄化をしていないので、目覚めていない。


浄化させるべきか、それとも、このまま

放置するか。


このメンバーの中で、一番知恵を持つ者として賢明な判断を下さなければいけない。


「サーバルちゃん、一緒に運び出してくれない?」


「えっ...?」


メンバーをサーバルと共に、湖の底へと沈め、マーゲイは浄化しない。


残酷な様に見えるが、それが彼女の為でもある。

夢の中の悪夢と現実の悪夢、天秤に掛けた時に1番最善と言えるのがその判断だった。もちろん悔しいところもあったが、博士にこれ以上負担を掛けさせることは、避けたかった。


サーバルは文句を言わずに指示通りに対処し、一行はみずべちほーを後にした。








「ちょっと!何すんのっ!キタキツネを放してっ!」


「あぁ?コイツは奴等を誘き出す為のエサなんだよ」


「ギン...、ギツ...た...」





みずべから移動し、来たのはゆきやまで

あった。ここへ来るのは実に久々である。

温泉宿は静けさに包まれている。


「ギンギツネさん!キタキツネさん!

居ますか!」


かばんの声が廊下に響いた。


だが、返事は無い。


そのまま突き進み、確認しながら、

ある部屋を開けた。


そこに居たのはタイリクオオカミ、

倒れたキタキツネ、片隅で拘束されているギンギツネだった。


「待ってたぜ...、夢と現実の境がそろそろわかんなくなってきたんじゃないか?」


そう言うと逃げるように鏡の中へ去っていった。


僕は最初にギンギツネさんを解放した。



「キタキツネは大丈夫なの...」


「僕達がなんとかします」


そう言い聞かせた。


「博士さんは無理しないでください…」


僕は後ろの博士に軽く頭を下げた。


「行こう、サーバルちゃん!」


「うん!」


「待つのだっ!」


「待ってよアライさーん」


博士は黙ってその様子を見ていた。

あの鏡の向こうで起こった惨劇がトラウマになっている。とても、1歩を踏み出せなかった。


『ギンギツネ』


「なっ、なに!?」


驚いた顔をした。いきなり背後から声を掛けられれば誰だって驚く。


『僕ハ、ハッピービースト。コレハ、

スターストーンダ。コレヲ、持テバ、

ミンナノ役ニ立テル』


「貸して!」


奪い取る様にスターストーンを掴んだ。


「あの子を救えるのは私しかいないんだから...」


『合言葉ハ、“星の力、私に届け”』


ギンギツネは頷くと、鏡の中へと飛び込んだ。


その姿を不安気に博士は見つめていた。





ドットで構成された世界。

初めてなのに童心が擽られる。


しかし、その世界に舞い降りたのは

悪魔だった。


「全員来たみてぇだなぁ...」


タイリクオオカミが見下ろす先には、

5人の姿があった。


「ギンギツネさん!?」


かばんは後ろを振り向いて驚く。


「だって...、みんなの役に立ちたいからっ!」


「まあ何人いようが構わん。

悪夢の海に突き落とすまでだ...

だがあの二人は無能だ。

私は、アイツらとは違うんだよ...」


彼女が後ろから引き出したのは、


「オレは実に優秀な右腕を持った。

それを使わないなんて、

金塊を沼に捨てる様なもんだ...」


「アミメキリンさんっ!」


彼女もまた、輝きを奪われていた。

タイリクオオカミは彼女を前に出すと、

口に黒い玉を入れる。

そして驚く事にタイリク自身も、黒い玉を入れた。

魔夢と化した二人は、抱き抱えたためであったか、1つの集合体となる。


しかし、こうなった以上倒すしかない。

呪文を唱え変身した。


「星の力、私に届いて!」


ギンギツネも光に包まれた。


白い衣装の彼女の容姿はかばんに似ていた。武器も杖だった。



タイリクオオカミとアミメキリン

なんと形容すればいいのかわからない。


歪であるとしか、表現ができない。


体の一部から鋭く尖った物を無数飛ばす。追尾ミサイルの様な軌道を描く。


「ミッション オブ デリート...」


フェネックはロケットランチャーを

飛ばした。


大きい爆発音が響く。




「ドリームクラック...」


アライさんが剣を裁くと、空間にヒビの様なものが入り、ミサイルを破壊する。



「あぶないよっ!かばんちゃん!」


サーバルはかばんの目の前で岩を出した。それが盾となって防いだ。


「ありがとう!」


(しかし、これは...)


どう倒せば良いのだろうか。

考えている時だった。




「アースオブコールド!」


その声とともに並々ならぬ猛吹雪が

かばん達を襲った。


「みゃっ、何っ!?」


「さぶいのだ...!!」


「なに...」


かばんはすぐ様炎で囲いを作る。


『マズイネ。彼女、魔法暴走シテルミタイダ』


神出鬼没のハッピーが浮遊しながら言った。


「なんですか、それ」


『魔法ノパワーガ、通常ノ倍以上出ルコトダ。君ノ炎ノ壁モ、長ク持チソウニナイ。ココハ、彼女ニ任セテ、出タ方ガイイネ』


かばんは色々言いたい事があったが、

その指示に従う事にした。

自身の命が最優先だ。


「許さない...!絶対に...!」


完全に周りは銀世界だった。


たぶん、タイリクオオカミ自身もこの展開は予想していないはずだ。


そして、魔法をやめた。


「ハァ...ハァ...」


ギンギツネは息を乱す。

出来上がった氷像へ近付いた。


「フレンズであっても...

キタキツネをこんな目に合わせた奴は許さないわ...、殺してやる...」


杖を向けた。


「フロストキャノン...」


杖の先に白い光を作り、氷像へ向け放った。


蒼白い光線は氷像を粉砕する程だった。


ダイヤモンドダストのように、氷の煌めきが宙を舞った。


『アトハ、浄化スレバ、彼女ハ目覚メル』


ハッピーに従い、ギンギツネはキタキツネの輝きを取り戻した。





元の世界に戻ると、ギンギツネはキタキツネに抱き着き、目覚めるまで抱擁していた。


目覚めた時キタキツネが戸惑っていた。


しかし、あれ程の執念がギンギツネあったということが驚きだった。


後は、シリウスを倒すだけだ。




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